第14話 意外とお似合いのふたり


 後日ミランダ様の処遇について教えてもらった。

 アーサー様の下した決定は甘いとも厳しいとも感じないもの。

 どんな決定であっても任せた以上文句を言うつもりはないけれど、ほっとしたのも事実だった。

 社交界では未来を残した裁可を甘いと言う人もいるでしょうけれど、個人的には満足している。

 あまり苛烈な罰だったりしたら今後任せきりにするのは躊躇ってしまうもの。

 それに……。

 目の前でそっと安堵の息を漏らす少女を見ていると悲しませることにならなくて良かったと思う。

 ミランダ様に騙されていたことはジェイク様より聞いているはずですが、それを知ってもなお相手を心配する素直なクロエ様に感心する。

 隣で見守るジェイク様は兄のような穏やかな瞳を向けていた。

 私から抗議をした後の話し合いでジェイク様はクロエ様を引き取ることにしたらしい。

 ミランダ様と同じように婚約期間を婚家で過ごし、家に慣れると共に教育を進め実家の影響を排したいそうだ。


 今回の事を理由としてクロエ様のご家族への援助は打ち切ることにしたという。

 農産物の取引などの細々とした付き合いは残るようですが、それも徐々に移行していくつもりでいるとか。

 政略としては旨味も無く、ジェイク様は貧乏くじを引いたようにしか見えないけれど、本人が望んで受け入れたことなので他人にはわからない価値があるのでしょう。きっと。

 クロエ様はこれから数年間はジェイク様の元でみっちり教育をされることになる。半分謹慎のようなものですね。

 これまでの行為がどう見えるのか説明をされたクロエ様はジェイク様の申し出を受け入れた。

 自分が聞かされていたことが真実ではなかったと知ったときの混乱と不安は余りあるものだったでしょうに。

 現実を受け止めて変わることを選んだクロエ様からはきちんと謝罪もいただいた。

 短い期間でも人は変わるものだと感心している。

 最初にお会いしたときはあんなに話の通じない人だと思ったのに。

 こうして向き合って話しているととても素直な人だということがわかる。

 なんだか放っておけない気分になるわね。

 ジェイク様が庇護に走ったのも無理ないわ。


「ミランダのこと、ご配慮をありがとうございます。

 私の振る舞いでご迷惑をおかけしたことも重ねてお詫び申し上げます」


 そう言って頭を下げるクロエ様に顔を上げるようアーサー様が促す。


「こちらこそ従兄妹の愚かな言動で誤解を与えたこと申し訳なく思う。

 巻き込んですまなかった」


「いえ、私の無知が招いたことなのでっ!

 そのように誤られてはかえって申し訳ないです」


 クロエ様の目が助けを求めるように私を見たのでアーサー様の手に触れる。


「謝罪はこれでもう終わりにしましょう?」


 ね?と首を傾げるとわかったと答えを返す。

 クロエ様もですよ、と告げると躊躇いがちにですけれど頷いてくれました。

 なぜかしら、それほど年は変わらないのに幼気な子を見ているような気持になるわ。

 ジェイク様が抱く放っておけないという思いが理解できる気がします。

 本当に良いのかと不安げな視線を向けるクロエ様と慈愛の籠った視線を返し頷いて見せるジェイク様。

 ほっとしたようにわずかに笑みを覗かせるクロエ様の様子にお二人の間に信頼感が育っているのを感じた。

 包容力のあるジェイク様と幼げながら素直なクロエ様。

 なんだか意外とお似合いの組み合わせね。

 収まるところに収まって良かったのではないかしら。



 これからお二人はジェイク様の領地へ旅立つ。

 クロエ様には勉強がてら手紙を送ってもらう約束をしている。

 そこまでしてもらう訳にはと恐縮されたけれど、緊張感があった方が良いと押し通した。

 失礼があってはならないと思えば、身に付ける速度も変わるでしょう。


 アーサー様にはジェイク様の領地で作られるチーズが目的だろうと見透かされていたけれど。

 トレイル家の名産品はワインなので酪農をしている領地との縁は大事ですから。

 いずれはトレイル家のワインに合わせたチーズの開発もしてもらいたいのですが、こちらに借りがあるジェイク様は良い取り引き相手になると思います。

 もちろん不当に利益の大きい取り引きをしようなんて考えていませんよ?

 開発が進み販売ができる頃には借りも少なくなり、対等な取り引きができるようになるでしょう。

 その『いつか』まで頑張りましょうね、クロエ様。

 日々の息抜きにもなりますから。



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