蘇りし魔法使い
「何故……何故死んだ筈のお前が生きているんだ!?」
「「アーメイデさん…………」」
「……………」
肉の壁に閉ざされた空間。真緒、サタニア、エジタスの三人だけの空間に、死んだ筈のアーメイデが姿を現した。真緒とサタニアが驚いたのは勿論、手を掛けた側のエジタスも驚いていた。そして同時に、何故生きているのか疑問が頭から離れなかった。
「あの時、確かにお前の首を切り落として殺した筈だ!!」
「……そうだね……それでその後、あんたは何をしてくれた?」
「何を…………?」
エジタスは記憶を辿る。首を切り落とした後、二千年の付き合いとして切り落とした首を骨肉魔法で繋ぎ合わせ、供養を済ませた。
「……まさか……そんな馬鹿な事が……あ、あり得ない……」
「…………」
何かに気がついたエジタスは、繋ぎ止められたアーメイデの首を見ながら、酷く狼狽えていた。
「ははっ、あんたの言う通りだねエジタス……骨肉魔法は“全てを可能とする”……だけどまさか、首だけじゃなく死ぬ筈だった命までも繋ぎ止めてしまうだなんてね……禁じられた魔法の凄さと恐ろしさが、身に染みて理解出来たよ……」
「そ、それってつまり……」
「アーメイデさんの尽きる筈だった命が……師匠の骨肉魔法によって、この世に繋ぎ止められた…………」
あまりに信じがたい話。しかし、事実アーメイデは生きている。一度は首を切り落とされ命尽きたが、エジタスの供養が首だけで無く、その命までも繋ぎ止めた。
「……そうか……俺の余計な行動が、お前に戯れな時間を与えてしまったのか……それなら、今度こそ息の根を止めてやるよ!!」
「「アーメイデさん!!」」
蘇った理由が分かったエジタスは、もう一度息の根を止め様と、自身の右腕を鋭い鎌に変形させた。あの時よりも、遥かに巨大な鎌に。
「今度こそ、くたばれぇえええええ!!!」
「…………」
辺り一面肉の壁に覆い尽くされ、逃げ場は存在しない。そんなアーメイデ目掛けて、エジタスは変形させた鎌を振り上げ、叫び声を上げながら勢い良く振り下ろした。
ガキィン!!
「!!?」
しかし、勢い良く振り下ろした巨大な鎌は、アーメイデに当たる直前、突如生成された結晶型の盾によって、防がれてしまった。
「……先程の……マオとサタニアに、とどめを刺そうとした時もそうだったが……お前のMPはとっくに切れている筈だ……回復しようにも、停止魔法のせいで回復する事は出来ない……それなのに……何故、魔法が使えているのだ?」
「…………」
何も言わず、口を閉じるアーメイデ。エジタスを見ながら少し微笑むと、アーメイデの頬に亀裂が入る。縦に入った亀裂から、青白い光が漏れ出る。
「お前……まさか!?」
「あぁ……そのまさかさ……私は、停止魔法を解除した」
「「「!!!」」」
静寂が場を支配する。まるで時が止まったかの様に、とても静かだった。驚愕から目を見開く三人に対して、アーメイデはゆっくりと目を閉じて、優しい笑みを浮かべていた。
「ハ、ハッタリだ!!もし仮に本当に停止魔法を解除したのなら、止まっていた時の流れが一気に押し寄せ、お前はしわくちゃの老婆を通り過ぎ、灰になって消滅している筈だ!!」
エジタスの言う通り、停止魔法を解除すれば、それまで止まっていた時の流れが、一気に押し寄せて来る。アーメイデの場合、時を停止させてから二千年経っている為、二千年の時がその身に押し寄せる計算だ。しかし見た所、亀裂以外でアーメイデの姿に変化は見られなかった。
「本当……不思議な運命だよね……コウスケの敵を取ろうと思っていたのに……その敵相手に助けられてしまうんだもの……」
「そ、それはいったい……」
「……私は一度、その命を落とした。だけど、あんたの骨肉魔法がその命を繋ぎ止めた。言わば今の私は死んで蘇ったゾンビ……どうやら、ほぼ死体の私には時の流れは押し寄せず、二千年分のMPだけが押し寄せて来るみたい……」
そう言うアーメイデの頬の亀裂が、更に深く広がり始めた。亀裂から漏れ出る青白い光が、よりいっそう強く輝く。
「まぁ、二千年のMPに対して私の体が耐えられていないんだけどね」
「間抜けだな……お前は……せっかく蘇れたと言うのに、その命を自らの意思で捨てるとはな」
「そうね……自分でもビックリよ……でも、それであなたを倒せれば本望よ……」
「!!!」
その瞬間、アーメイデの体を中心に肉の壁に包み込まれた空間が、広がる様に結晶化し始めた。
「くそが!!こんな結晶如き、打ち砕いてやるわ!!」
そう言うとエジタスは両腕を振り上げ、結晶化していく肉の地面目掛けて、勢い良く振り下ろした。しかし、巨大な両拳を叩き付けられた結晶は、ヒビ一つ入ってはいなかった。
「な、何だと!!?」
「無駄よ!!結晶魔法は、私のMPに応じてその強度が変化する。二千年、溜めに溜め込んだ私のMPと、あんたの死体からかき集めた残りカスのMPとでは天と地の差、絶対に打ち砕く事は出来ない!!諦めなさい!!」
「ぐっ……ぐぐっ……!!」
エジタスは、何度も何度も結晶化した肉の地面を叩き付けるが、一向に打ち砕く事は出来なかった。
「す、凄い……圧倒的だ……」
「これが……アーメイデさんの……本来の実力……」
「……打ち砕けないのなら……発生源であるお前を先に片付けるまでだ!!」
結晶化した肉の地面を止め、本体であるアーメイデに狙いを変えたエジタス。まだ結晶化していない肉の壁の一部を、鋭い針に変化させてアーメイデ目掛けて勢い良く伸ばした。
「……“クリスタルシールド”」
するとアーメイデは、自身の周りに分厚い結晶型の盾を生成した。鋭い針に変化させた肉の壁が突き刺さるが、貫通する事は出来ず、途中で止まった。そして、突き刺さった針の先から肉の壁までもが結晶化し始めた。
「た、例えMPが高いとしても、俺の計り知れないステータスの前には、何の意味も成さない!!」
肉の壁が結晶化していく中、エジタスは自身の右腕を巨大化させると、少し回転を掛けながらアーメイデ目掛けて、勢い良く殴り掛かった。
「…………」
「…………」
しかし、殴り掛かったエジタスの右腕は、アーメイデの手前で結晶化して固まってしまった。
「あぁあああああ!!!お、俺の……俺の腕がぁあああああ!!!」
結晶化した自身の右腕を押さえながら、叫び声を上げるエジタス。計り知れないステータスを保有し、負ける筈が無いと絶対の自信を持っていた。しかし、右腕が固まった事で、絶対の自信は音を立てる様に崩れ落ちた。
「……終わりよエジタス……二千年の好み……介錯を勤めて上げる……“クリスタルエンド”!!」
右腕を押さえながら、叫び声を上げるエジタスの足元に歩み寄るアーメイデ。エジタスの足に触れながら魔法を唱えた。すると、触れた部分から徐々に結晶化し始める。
「こんな……こんな……こんな終わり方は認めない……認めないぞ!!俺は……俺はこの世界を!!この世界を平和に!!……へい……わ……に……」
足から侵食していく結晶化。逃れようと必死に体の結晶を叩くが、ヒビの一つも与えられず、やがて体全体に広がる。次第に体が動かせなくなり、身動きが取れなくなってしまった。そして遂に顔にまで結晶化が進み、口も動かせず完全に固まってしまった。
「し、信じられない……あのエジタスを……こんな意図も簡単に倒してしまうだなんて……」
「正直、師匠を止められるのは私達しかいないと思っていたのですが……凄いです!!アーメイデさん!!」
「ふふっ、ありがとう……でも、結構ギリギリだったわ……」
そう言うとアーメイデは、極度の疲労から片膝を付いた。
「だ、大丈夫ですか!?」
「えぇ……何とかね……二千年分のMPが一気に流れ込んでいるから、常に酷い倦怠感に襲われている様な状態ね……でも、このMPのお陰でエジタスの奴を止める事が出来た……命を掛けて良かった……もう死んでいるけど……」
「あ、あはは…………」
アーメイデの皮肉を効かせたブラックジョークに、二人は苦笑いを浮かべる。
「でも……これで本当に師匠を倒せたのでしょうか?」
「…………どう言う意味?」
「いや何か……変にあっさりしているなって……これまでの傾向から見て、こんな簡単に倒されるってのは……エジタス的にあり得ないかなって……」
ここまで死闘を繰り広げて来た二人にとって、エジタスがこれ程まで意図も簡単に倒されてしまうのは、考えられなかった。二人はそれぞれ、結晶化したエジタスの足を触れながら思った。
「…………あなた達の気持ちも分からなくはない……けど確実に倒したわ……この“クリスタルエンド”を受けて、生き残れた者は今まで誰も…………!!?」
「“誰も”……何だって?」
その瞬間、いつの間にか背後に回っていたエジタスが、自らの腕でアーメイデの腹を貫いた。
「…………ごふっ」
「「アーメイデさん!!」」
「ほぉー、死人の癖に血反吐は吐くんだな……気持ち悪い……」
アーメイデの腹を貫いたエジタス。その姿は、結晶化した時の巨大な姿では無く、とてもほっそりとしたスリムな見た目になっていた。言うなれば、初めてエジタスの素顔が晒された時の体型に戻っていた。
「……言っただろう……骨肉魔法に死角は無い…………」
舌を垂れ下ろしながら喋るその姿は、これまでに無い程に酷く、不気味で恐ろしい様であった。
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