第4話 やさしさ

「そろそろ、向かおうか。」

すらっとした雪ちゃんの手が、カフェラテを飲んでいる時は解けたのにまた私と繋がった。500mlのカフェラテは2人で飲むのにはちょうどよかった。空になったペットボトルのラベルを外してゴミ箱に捨てた。

「今日、みんな来るのかな。」

私は俯きながら声を出した。カフェラテで温まった体がどんどん冷めていく。それでも手だけはずっと熱がこもっている。

「まあ、聞いた限りだとみんな来るらしいね。」

高校を卒業して3年ほど経ってから2回目の同窓会が今日行われる予定だ。1回目は行けなかったけど、それなりに人が来たと前回雪ちゃんは言っていた。

同窓会ってどんなことを話せばいいんだろう。正直、高校生の時にいい思い出はないし、馴染めていた自信もない。前回雪ちゃんを通じて元クラスメイトに「今度の時は来てね、待ってる。」と言われたけど、それが本当なのかも少し疑ってしまった。

「気が乗らないなら、このまま今日泊まる予定のホテル行って2人だけでお酒飲もうか?」

少し手を強く握った雪ちゃんが言う。真っ直ぐ私を見て。

高校生の時に辛かったことを雪ちゃんはよく知っている。だからこそ、他の手があるよ、と言う姿勢を見せてくれたんだと思うと嬉しかったし、申し訳なかった。

今回、雪ちゃんは同窓会のことをほんの少し遅れて私に言った。元クラスメイトたちはきっと雪ちゃんに来てほしいから私には連絡がなかったんだと思う。私は漫画の付録のような存在だと思われていたのかもしれない。

「———が行かないなら行かないよ。その日は2人でゆっくりしよう。」

そう提案してくれてもいた。

でもやっぱりその優しさに2回も救われるのは申し訳ないし、そう逃げたところでまた雪ちゃんに来年も再来年も同じことを言わせることになると考えたら、行く、と言う答えしか残されていない気がした。

「んー、そうしたいし、寒いからホテル行ってお酒飲みたいし、ゴロゴロしたいし。けど、ちゃんと、したいの。頑張ろうって、決めてきた。ありがとう、雪ちゃん。」

繋がれていない手をガッツポーズさせる。正面を見て歩いているから私の頑張る気持ちが伝わったらいいなと思ってやってみた。

雪ちゃんの顔は見れない。きっと不安そうな顔をしているから。相手が不安そうだと自分も不安になってくる。今は不安とは戦いたくはない、頑張りたい。

「わかった。じゃあ、2人で、頑張ろう。お酒はちょっと控えようか。同窓会終わったら2人で飲もう。」

雪ちゃんの言った言葉が、外にいて全身寒いはずなのに心から温まっていくように刺さった。『2人で』が今、どれだけ嬉しい言葉か、どれだけ心強いか。雪ちゃんには敵わない。

「ホテルに地酒とかあるのかな。あったら飲んでみたい。」

話題はお酒の話になっていった。2人とも普段から飲むわけではないけど、嫌いなわけでもなかった。楽しめる時に楽しもう、というスタンスだ。

「ホームページ見た感じだとあるっぽかったけどね。あったらいいね。」

でもこのあと待っていたのは波乱の同窓会だった。

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