開通式にて
わたしが幼稚園児だった頃の話だから、あんまり信憑性はないと思うんだけど、それでも良いなら話すよ。
A川に新しくS大橋っていう橋が架かることになって、それを記念して開通式があったんだ。
橋の出来た場所から近かったからなのか、わたしが通っていた幼稚園はそのセレモニーに参加することになった。
参加と言っても、1クラス分くらいの人数の子供たちが屋根のない洒落たバスに乗せられて、橋をわたるというだけだったけどね。
わたしはその参加者に選ばれたうちのひとりだったの。
あいにく当日は霧雨が降っていて、わたしたちは揃いの黄色いレインコートを着てバスに乗った。屋根がないから、雨がかかって少し肌寒かったのを覚えてる。
新しく橋ができるって言われても、幼稚園児のわたしは別に不満を感じていたわけじゃなかったし、特に感動とかはなかった。
だから、暇だなって思いながら、ノロノロ運転のそのバスから、うねうねしたカーブで形作られた橋の欄干を見てた。
それで―――、それに気がついたのは、橋の真ん中を過ぎたあたりだったと思う。
バスの進行方向の歩道のところに人影があったんだ。
違うな……正確に言うと、影じゃない。
なんと言ったら良いのか、霧雨が、ちょうど大人1人の分ぐらいだけ、はじかれていたの。
当時のわたしは、「ああ、透明なレインコートを着たひとが立っているんだな」って思った。
何をしているんだろう、って不思議で、わたしはそのひとに注目していた。
バスはだんだんとそれが立っているところへ近づいて行って、そしてすれ違った。
その時、わたしは見た。
いや、見れなかった。
それが透明なレインコート着ているひとだったとしたら、当然顔があるべきところには―――何も、なかった。
そもそも、おかしかったんだ。
透明のレインコートを着ていたんだったら、当然、中の服や髪の色が透けて見えたはずなのに、何も見えていなかったんだから。
何かがそこにいるかのように、ただただ霧雨がはじかれて散っていく。それだけだった。
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