静岡県S市A川にまつわる怪異
@kuramori002
テトラポッドの下
小学校の裏に大きな川があってさ。そう、土産菓子の名前にもなってるA川だよ。
学校の遠足とか、学年を縦割りにしてやる活動があったろ? うちの学校では仲良し活動とかそんな名前だったっけかな。ま、とにかく、学校行事で出かけるとなると、だいたいが川遊びだったよ。
五年生ぐらいから仲が良かった友達に、ヤマちゃんってのがいて、家が近所だったから一緒に帰ることが多かった。
ヤマちゃんは趣味が釣りで、川遊びも好きでさ、よく帰り道にA川の河原に寄り道して遊んでた。
ザリガニとか、川エビとか捕まえたりしてね。
―――その冬の日も、そんなふうに学校帰りに河原に寄り道してたんだ。俺とヤマちゃんの他にも何人か友達が一緒だった。
川遊びって言うと、夏のものだと思われるかもしれないけど、案外冬も楽しくてね。
冬になると、水の量が減って、川の端っこの方に大きな水溜りみたいなものができるんだ。そこに、本流へ行きそびれた生き物がジッとしている。それを捕まえるってわけさ。
特に狙い目はテトラポッドの下で、道具がなくてもナマズが取れたりした。
まあ、ナマズなんか持って帰っても仕方ないから、キャッチ&リリースなんだけど。
悪い、話が逸れたかな。
とにかく、アレに出会ったのは冬で、場所はテトラポッドの下の水溜りだった。
なんか変なのがいた! って、ひとりが騒ぎ始めてさ。
その何日か前にニジマスっていうレアな獲物があったところだったから、みんな盛り上がってその「変なの」を探したんだ。
見たやつが言うには、ナマズより少し大きくて、色は白味がかった灰色だったって話だった。
みんなそれぞれテトラポッドの隙間に入り込んで、その下の水溜りにそいつがいないか探し始めた。
西日が差し始めた頃合いで、水溜りの中は影になって見辛くなってきていた。
―――でも、あれは見間違いじゃない。
俺は確かに見たんだ。
テトラポッドの下、薄暗い水溜りの中で、そいつは泳いでいた。泳いでいたとしか、表現できない。
俺のすぐ横にヤマちゃんがいて、水溜りの中に直接しゃがみこんでいた。他のみんなはテトラポッドを足場にしていたのに、ひとりだけ腰くらいまで水に浸かっていた。あいつはそういうの気にしないタイプでね。
「痛ってえ!」
ヤマちゃんが急に悲鳴をあげた。
そして、その時俺は見た。
ヤマちゃんのいたところから、こちらにすうっと泳いでくるそれを。
それは、にやにやとした表情を浮かべた、男の生首だった。
水溜りからあがってくると、ヤマちゃんの太ももには歯型がついていて、うっすら血が滲んていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます