第15話 乗れというなら
トレーニングセンターに戻ると、一頭のユニコーンの姿が見えた。
お、さっそく話を聞いたセリスかクローディアがやって来たのかな? いや、そうじゃなくともここはユニコーン族共同のトレーニングセンターなわけだから、他のユニコーンが来ていても不思議じゃない。
現にオケアがトレーニングをしている間にも何度も他のユニコーンに出会ったからな。
むしろ、俺たちの方がトレーニングセンターを利用することが少なかった。ほら、坂路に行っていただろ。ただの丘を坂路って言ってるに過ぎないのだけどね。
オケアは坂路トレーニングが中心になっているから、俺たちだけでトレーニングをしている時間の方が遥かに長かった。
オケアから降り、彼女は水を飲みに向かう。
一人残された俺はぼーっと柵に腕を乗せ一頭だけいるユニコーンを眺める。
珍しい毛色だな。今までみたユニコーンは純白、青みがかった白が多く、他には珍しいところで淡い緑色ってのもあった。
いずれにしろ淡い色合いで白っぽい色をしている。
しかし、あのユニコーンは漆黒……競走馬で表現するところの
俺が見ていないだけで濃い毛色のユニコーンがいても不思議ではない。
というのは、馬の毛色だって幅広いのでユニコーンだって幅広い毛色を持っているかもと、さ。
馬は真っ白やそれに近い色から河原毛や月毛と言われる金色ぽいのから、牛をイメージする斑点がある
シマウマみたいなユニコーンもひょっとしたらいるかもしれない。
む。なんか黒のユニコーンがこっちを見つめてくるんだけど。
ふんふんとやって来て、首を下げ上げる。
「乗れとでも言ってるのかな?」
鞍も装着されているし、乗る分には乗れるけど……。ん、鐙の位置が高い。
俺みたいなモンキー乗りをする騎手がいるのかな? いや、モンキー乗りをする騎手がいたらメロディが俺の乗り方を見てもあれほど驚きはしないか。
柵を利用して黒いユニコーンにまたがってみた。
「おっと!」
嫌われているのか俺? 黒いユニコーンがお尻を跳ね上げ振り落とされそうになった。
ユニコーンは夜になると人の姿になる。
俺を乗せてワザと振り落とそうとしてくるのは普通じゃない。
う、うーん。嫌われるにしても心当たりがない。
俺の接したユニコーン族って数えることができるほどしかないんだよな。
乗り手だった人たちはユニコーンの姿にならないので除外するとして、セリスとクローディアは毛色が違う。
他は夜に会っていて昼に会ったことのないユニコーン族……思い当たる子がいない。
どうどうと黒いユニコーンの首をポンポンと叩くと落ち着いてきたらしく、大人しくなった。
「よっし、走ってみるか?」
グルルルルと猛獣のような唸り声を出した黒いユニコーンが俺の言葉に応じるかのように駆け始める。
ほ、本当にユニコーンなのか? この子。
判断基準がオケアしかないので、乗り味を比べてユニコーンであることに違和感だと言うのも早計だよな。
パッと乗った感じだけど、気性が荒く闘争心の高いユニコーンだなという印象だ。
併せ馬ならぬ併せユニコーンをしてみたらよりはっきりと分かりそう。オケアと併せユニコーンをする気はないけどね。
あ、いや。彼女と並走させてみてメンコの効果がどれほどあるのか確かめるにはいいかもしれない。
いやいや、気性が荒いユニコーンとわざわざ併せず、セリスかクローディアと並走してもらう方が無難か。
彼女らでも大丈夫そうなら、黒いユニコーンに協力してもらおうかな。
実戦では闘争心の高いナイトメアや土竜がいるもの。
「うん、中々良い手ごたえだ。せっかくだから、追ってみたいけど……いいかな?」
うお、鞭も入れてないのにグンと加速した。
言葉が分かるからスパートをしてみろと言えば自分なりにスパートしてくれて当然か。
しかし、鞭が入った方がより速くなる。
スパンと一発鞭を入れてみたら黒いユニコーンが抜群の反応を見せた。
いいねえ。
オケアほどの末脚はなさそうだが、このユニコーンなら馬群ならぬ騎乗生物群を割って突き抜けたりといったこともできそうだ。
取れる手が多い分、色んな手が取れて騎手冥利に尽きるユニコーンだと言えよう。
オケアは「追い込み」以外手がないからなあ。最初は「逃げ」か「追い込み」で考えていたのだけど、フェンリルの戦い方を見て考えを変えた。
必ず先頭を争うことになるからね。
その点、風竜とは最後尾争いをすることもない。お互いに無理に最後尾をとろうとしないからさ。
「良いな……しかし、ユニコーンって実はどの子もかなり強いんじゃ……もう一周行ってみようか!」
今度は流してペースを保ってみるか。
ふむふむ。やっぱり併せてみなきゃこのユニコーンの真価は分からないな。
集団の中で行きたがったりしないかとか、折り合いがつくかとか。
ペースを保つことは余り得意じゃないかもしれないので、折り合いが肝になりそうだ。
基礎スピードも中々だし……。
一旦スピードを落とし、歩かせる。
「正直オケアと比べてもそう遜色がない。ユニコーンの平均がこれなら竜の二種に負け続けているなんて信じられないな」
「ユニコーン、ジャ、ナイ」
いつの間にそこにいたんだ?
長い耳に特徴的な喋り方の少女が真っ直ぐこちらを見上げているじゃないか。
「え? グンテルじゃないか! ってことはユニコーンじゃなくてローレライ?」
「ソウ。オケアニ、マケナイ」
「ある意味、ホッとした……」
そうかあ。ユニコーンじゃなくてナイトメアだったのね。
それもローレライなら俺に対しての最初の態度も頷ける。レースをした時は俺はローレライの敵だったから。
しっかし、毛色が違うだけでユニコーンとナイトメアの区別がつかないな。
「ツノ、チガウ」
「角?」
「マッスグ」
「あ、ああ。確かに」
ユニコーンの角は螺旋状で、ナイトメアは真っ直ぐ伸びた角である。
角の色も違う。ユニコーンは純白でナイトメアは黄色味がかった白だった。
言われてみれば全然違うよな。角も個性のうちの一つだと思っていたよ。
しかし、一体全体何故ここにグンテルとローレライが?
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