第11話 宴会

「本日はそれがしが出しますぞ。ここの店主の料理は絶品なので是非ご賞味あれ」

「ありがとう。頂くよ」

「ノム」

「ふああ。ありがとうございます!」

「私まですまないな」


 レースの後そのままオケアをユニコーン族のトレーニングセンターまで走らせたくなかったんだよね。

 とはいえ、俺は一文無しだ。無い袖は振れない。

 ところがどっこい俺にとって幸運なことにレースの賞金がその場で支払われたのだ。

 賞金はレースに出場すればもらえるそうで、クラスと着順によって金額が変わる。

 一番下のクラスでデビュー戦だったからいくら一着でも大した金額ではないと思っていたんだよね。

 更に全額が俺の手元に入るわけではない。お金はあればあるほど良いのだけど、走ったのは俺でなくオケアだ。

 俺は彼女の手伝いをしたに過ぎない。

 彼女は謙虚だから自分の取り分を固辞してきたが、断固として俺は首を縦に振らなかった。

 どれだけ親切にされようとも、お金に関してはキッチリしなきゃいけないというのが持論なんだ。

 どちらかが一方的に搾取する関係ではいずれ破綻する。

 じゃあ、取り分をどうするんだって話だけど、これもまた競馬を基準にさせてもらった。

 競馬の場合、賞金の割り振りは馬の持ち主である馬主が80%、調教師10%、厩務員5%、騎手5%になる。

 オケアは誰かの持ち物ではなく、ちゃんと人格を持った個人であるが、敢えて当てはめるなら馬主の80%とした。

 俺は調教師兼騎手なので15%。厩務員は本来オケアが自宅の管理をしているので彼女に当てはめることもできたが、メロディと地元のロイヤルレース関係組織に渡すことにしたんだ。

 メロディが3%で残りは組織行きである。彼女は今回も帯同してくれ、俺がボディチェックを受けている間にもオケアを見ててくれた。

 それだけじゃなく、様々なアドバイスをくれたりオケアのケアまでやってくれたのである。

 3%じゃ少なすぎる気もするけど、自分に渡すなら組織振興のためにも組織にも渡して欲しいと彼女が願ったのでこういう形に落ち着いた。

 そんなこんなで賞金が手に入り、宿の価格を聞いて思った以上に賞金が多いことに気づく。

 長くなったが、無事宿を確保できて今晩は街に滞在することができるようになったというわけなのである。

 え?

 説明がまだ足りないって?

 ええとだな、レースの後にフェンリルのガロウの騎手の狼頭に誘われ、あれよあれよという間に長耳の少女グンテルも加わってオススメのお店とやらに繰り出してた。

 彼らも今晩は宿を取るそうで、せっかくなら是非話をしたいとの申し出だったんだよ。

 しかも、誘うからには狼頭がおごるとか言うのでついていかない理由がなかった。

 狼頭、グンテル、オケアにメロディ、そして俺まで含めておごってくれるというのだから、豪快な人だなあと感心する。

 確か彼の名前はロウガだったかな。

 

「ごくん、ぷはああ。うめええ!」


 キンキンに冷えたビール……じゃないなこれエールってやつか。

 何にしろキンキンに冷えていてうますぎる!

 俺が一息に飲むのを見やってからロウガもエールを飲み干した。


「おかわりを二杯所望する」


 否はない。ようやく喉が潤ったところだし、これから料理を食べるにも水分が必要だからな。


「私も頼む」


 メロディも早速二杯目をご所望した。

 残りの二人はノンアルコールで、オケアは水。グンテルは果実水を注文している。

 彼女らも喉が渇いていたようで、料理が運ばれて来る前に二杯目を頼んでいた。

 

「しかし驚きましたぞ。オケア殿が後ろから風のように来た時には特に」

「実況の声で後ろから来ているのは分かったんじゃなかったっけ?」

「もちろん聞いていましたとも。正直届くとは思っていなかった。驚異的な末脚でしたな」

「はは。俺もガロウのようなフェンリルがいるとは想定外だったよ。風竜を想定して訓練してきたから」


 「またまた謙遜を」といった感じのロウガだったが、本当に想定外だったんだよ。

 ガロウの走破タイムを見て改めてホッと胸を撫でおろした。

 彼らの走破タイムは俺の想定したオケアのそれと全く同じタイムだったんだよね。

 彼女が俺の想像以上に成長してくれていて、結果4馬身差となった。坂の傾斜が想定以上になだらかだったのもある。

 しかし、それを含めても彼女の予想以上の成長が勝利をもらたしたことにかわりはない。

 坂が想定通りだったとしても、1馬身差はつけて勝利していたと思う。

 

「ソージロー、キク」

「あ、うん?」


 いつの間にか隣に座っていたグンテルがぐいぐいと俺の袖を引っ張って来る。

 あれえ、隣にはメロディがいたはずなんだけど……なるほど、待ちきれずに飲み物を取りに行ってくれていたのか。

 ありがたいことに彼女は俺たちの分まで持って来てくれた。

 彼女からキンキンのエールを受け取り、グンテルの声に耳を傾ける。

 

「ハシリカタ、ヘン」

「オケアが後ろから差した走り方のこと?」

「ソレ。ワタシ、ダケ、チガッタ」

「そうだよ! 俺も驚いた!」

「面白そうな話だな。ソージローの考えを聞かせて欲しい」


 グンテルの座っていたところに腰かけたメロディがエールを飲みながら目を輝かせた。

 きっかけを作ったグンテルは「よくぞ聞いてくれた」とばかりにコクコクと首を大きく縦に振っている。

 ん、彼女らだけじゃなくロウガも拳をテーブルの上に乗せ身を乗り出していた。

 オケアだけがいつもの調子でブドウを次から次へと口の中に納めている。「ブドウは貴重だ」て言ってたものな。

 とても美味しそうに食べていたし。全てロウガのおごりらしいので、喋るより腹いっぱい食べるのが正しい。


「ええと、メロディさんから聞いた情報が多いのだけど――」


 「逃げ」「先行」「差し」「追い込み」についての説明をしてから、ユニコーン族や他の種族と戦い方についてメロディに確認を取りながら話を進めていく。


「種族によって得意な位置取りや心理的なところが異なる。概ねソージローの説明通りだ」

「多くのユニコーンにとっては『先行』集団の中に入って、集団となることによって落ち着き、早めの仕掛けで『逃げ』の戦法を取る騎乗生物を追い抜き、ゴールまでなだれ込むことが理想で、一番速く走ることができるってことだよな」

「そうだ。ユニコーン族はずっとそのようにして戦ってきた」

「多くのであって、全てのユニコーンがそうじゃないってところがポイントでさ。オケアの場合は他の騎乗生物が近くにいると途端に走れなくなってしまう。そこで考えたんだ。種族特性と個性のどっちを取るかって。結果的にだけど個性を取った後方待機の『追い込み』がオケアに合っていた」


 最後まで説明が終わるや否や、不意にロウガが吠え、叫ぶ。

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