第12話 次なる野望
「感服した! ソージロー殿の発想、まさに歴史を揺るがすものですぞ!」
「ヤッパリ、オナジ、ヒト、イタ」
グンテルが俺の腕をぎゅううっと抱きしめる。目に涙をためながら。
きっと彼女の里? トレーニングセンターで何かあったんだな。
ロウガ、メロディと順に目くばせし頷き合う。ん? オケアはどうしたんだって?
彼女はメインディッシュ? のサツマイモを食べている。わざわざ生で持って来てもらって。
オケアのことはおいていて、二人と俺の想いは同じようで良かった。
「ゆっくりでいい、聞かせてくれないか?」
「ナイトメア、サト」
しがみついた両手を離し、目を真っ赤にさせながらも彼女が語り出す。
彼女の言葉はたどたどしく、意味を取るのに苦労したがそれだけに重みがあった。
彼女はダークエルフという種族で古来よりナイトメアを飼育しているそうだ。いや、飼育というと語弊がある。
ダークエルフはナイトメアと共生していて良いパートナーと言ったところ。
というのは、ナイトメアは言葉こそ喋らないものの知性が高くダークエルフと共に森での狩をして暮らしていた。
特筆すべきは戦う力で狼はもちろんイノシシや熊でさえ単独で狩ることができる。
一方、ダークエルフは知覚に優れ、森での採集に長け、獲物を感知しナイトメアを導く。
ワールドレースが開催されるようになると、走力にも優れていたナイトメアも参戦するようになる。
彼らは狩をする騎乗生物なので気性が荒く、併せた時の勝負根性は他のどの種族よりも強い。
半面、スタミナが騎乗生物平均以下でトップスピードは優れているものの短時間しか続かないといった弱点もある。
地球で言うところの大型肉食動物を想像すればいいのかな? 見た目は馬だけど。
ライオンとかチーターって速いけど一息に獲物へ追いつき襲い掛かるための足だ。
ナイトメアは種族特性を考慮し「差し」の戦法を取っている。
加速力で前へ追いつき、速度が落ちて来ても持ち前の勝負根性で抜かせるまいと粘り勝ちをしようという腹だな。
余談であるが、フェンリルは短時間の加速ができない。その代わり長い間最高速を維持することができる。
種族特性だけを聞くと「逃げ」以外の戦法が取れない特異な種族だなと思った。
ここからが本題だ。
ダークエルフたちはフェンリルの乗り方に固執している。必ず後方で待機して直線に入ってから加速して並びかけ……って戦法に。
ユニコーン族は先入観って感じでオケアの走りを見た三人とその時間帯はユニコーンの姿だった二人も彼女の走りを否定してこなかった。
ユニコーン族の場合はこれがいいんじゃないかってなんとなく「先行」の戦法を取っているが、ダークエルフの場合はこうじゃなきゃいけない感が強い。
グンテルもまたナイトメアの走り方は「差し」がベストだと思っている。
彼女の乗るローレライは基本スピードに関しては同じくデビューを控える同族に比べてトップ10に入るんだそうだ。しかし、トップスピードは平均より少し上くらいなのだと。
反面、トップスピードの持続力はトップに位置する。
といってもローレライが「差し」に向かないかというとそうではない。ナイトメアの強みはキッチリと備えている。
ローレライの脚質は「差し」ということに関しては俺とグンテルの意見が一致していた。
なら何を持って彼女は「オナジ」と言ったのだろうか。
答えは道中の展開によって戦い方を臨機応変に変更するというところだ。
俺にとっては当たり前のこと過ぎて一瞬ぽかーんとしてしまった。
考えてもみてくれよ。自分が逃げ馬に乗っていたとして、他にも逃げ馬が四頭いたとするだろ。
我こそが鼻(先頭)を取るとつばぜり合いをするが、その状態が長く続くことはない。
四頭全てが必死で何としても鼻を取ろうとしたら、無理なペースとなり四頭とも共倒れだ。
となれば、自分の騎乗している馬のペースを見て下がるのかが意地でも行くのか判断しなきゃならない。
これは極端な例だったけど、レースの流れを予想し馬の状態と脚質を計算し最適な位置に馬を持って行く。
レースは杓子定規に決まった動きをするものじゃないからな。
「今回俺たちが走ったレースはガロウが想定以上のラップで駆けていた。フェンリルの特性上、最後までスピードが落ちない可能性が高い。坂で多少は速度が落ちるがね」
「ソウ、ガロウ、ツヨイ」
「となるとスパートが持つか分からないが、トップを取るためには早めに前に進出し勝負をかける必要がある。それで前へ出たんだろ」
「ウン、ダケド……」
「迷いがあった。いや、前に出過ぎるとナイトメアの闘争心を維持できないからスピードを抑えなるべく長くスピードが持つようにした、のかな」
「スゴイ!」
「俺がそもそもユニコーンぽくなくナイトメアたちの後ろにつけたことで、目をつけていたのかな? それで俺がスパートをかけたタイミングも『追い込み』にしては早すぎると分かった」
「だから、同じと言ったのか」
最後だけメロディが得心したとばかりに呟く。独り言に近い感じだったから呟くと表現した。
「深いですな! それほどの駆け引きがあったとは某、感服した!」
「きっかけはロウガだったんだけどな」
「いやいや、某はただガロウの気の向くまま。あれぞ巨狼ならでは」
「突出した力を持つフェンリルは脅威だよ」
「某らもすぐにアイアンへ……いや、ブロンズを越えシルバーで相まみえよう」
「先に行かせてもらうぜ。待ってるよ」
「さすがソージロー殿。それでなくては」
「ワタシ、モ」
軽い調子で笑い合う俺たちに対し、メロディが持っていたニンジン(生)をぽろりと落とす。
俺たちならば登れるさ。ロイヤルレースの真の戦いはここからと言われるシルバークラスまでね。
もちろん目指すはゴールドを越えプラチナだ。そして、ロイヤル賞という檜舞台で雌雄を決する……なんてな。
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