第7話 トレーニング

 メロディからロイヤルレースの現状をざっくりと聞いた。

 現在のロイヤルレースは二強時代になっている。1000メートルから2000メートルまでに無類の強さを発揮する風竜。二本足で走るダチョウみたいな爬虫類が風竜だった。

 もう一方の爬虫類が土竜で、こっちは2000メートルから4000メートルと長距離に強い。

 あのいけすかない男が風竜が勝つと言っていたのはレースの距離が1600メートルだったから。

 ロイヤルレースのクラスはストーン、アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナに加え、プラチナだけが出場できるロイヤル賞というものがある。

 ロイヤル賞は競馬で言うところのGIに当たるレースと考えておけばいい。

 ゴールドの大半とプラチナ全ての優勝者は風竜か土竜なのだという。それだけじゃない。他の種族はゴールドクラスはいるものの、プラチナクラスに所属する者は現在ゼロ。


「うーん、こうまで偏るのだったら分けた方がよくないかってくらいだな」

「土竜は昔からそこそこ強くはあったが、50年ほど前から急激に強くなってきてな。風竜はここ30年ほどで最弱クラスから最強クラスになった」

「となると何か秘密が?」

「彼らのトレーナー曰く、日々のたゆまぬ努力というものだな。これだという風竜を選別し子孫を残す、こうして強くなってきた」

「50年以上前はユニコーン族や他の種族もロイヤル賞を勝っていたりしたのかな?」

「そうだ。かつてはユニコーンとナイトメアの時代もあった」

「長い歴史の中で強い種族が変遷しているってことかあ」


 競走馬の世界の常識に血統というものがある。

 強い馬同士をかけあわせ、より強い馬を残していく。風竜と恐らく土竜は良血統をかけ合わせ続け、それが実を結んでいるってことか。

 他の種族も強い者の子孫を残しはしていただろうけど、徹底した血統管理なんてしていなかった。

 特にユニコーン族は人と変わらぬ知性を持つからさ。


「ふ、ふふふ……」

「ソージロー様?」


 突然不敵な笑いをあげた俺に対しオケアが眉根を寄せ、心配そうに俺の名を呼ぶ。

 

「ますます燃えてきた。ロイヤルレースの細かいルールについて教えて欲しい。なんとしてもロイヤル賞を目指したくなってきた」

「ロイヤル賞だと!」


 メロディが叫ぶ。

 不敵な笑みを浮かべたまま「うむうむ」と鷹揚に頷く俺である。

 血統、血統、血統。

 何故俺が中央競馬のジョッキーではなく、地方競馬のジョッキーになったのか。

 それは、良血馬を雑草がぶち抜いてやるためさ!

 

「あ、あの。水を差し申し訳ありませんです」

「ご、ごめん。一人で勝手に盛り上がっていた」


 興奮して立ち上がってしまった俺に向けずっと黙っていたセリスがおずおずと手をあげる。

 彼女とクローディアは目を見合わせ「うんうん」と頷き合う。


「ソージローさん。私たちのレースについて思ったことを教えて欲しいんです」


 セリスに代わりクローディアが尋ねてくる。


「特にミスもなく、自分の力を発揮できたんじゃないかと思ってるよ」

「わあ。ありがとうございます」

「オケア、君の初レースは七日後だったよな」

「は、はいい」


 突然話を振られたオケアがびくうっと肩を揺らす。

 俺は彼女の背に乗りレースに出場することが決まっている。彼女も是非にと言ってくれたしね。

 俺としてもできることが騎手しかないので願ったり叶ったりである。


「俺たちの走り方を見ていてくれ。今はまだ通用するかどうか分からない。もし良い結果となれば何か掴めるものがあるはずだ」


 俺は必ず良い結果になると半ば確信しているが、今はまだ机上の妄想に過ぎない。


「い、一着を取るつもりなのですか……?」

「もちろんだ」

「で、ですが、ソージロー様。わたしたちが出るレースは混合戦です」

「混合戦で勝たなきゃ意味が無いだろ」

「は、はいい」


 何を言っておるのだオケアよ。

 強さを見せるには混合戦で勝たなきゃ意味が無い。混合戦だって風竜と土竜からしたら格下の者が出るレースだぞ。

 彼らにとって真の一線級が出場するのは種族別レースになる。

 

「メロディさん、そこで一つ頼みがあるんだ」

「私にできることなら何でも協力しよう。ストーンクラスであっても混合戦でユニコーン族が勝利するとなると痛快だ」

「ありがとう。それで……」

「え? 分かった。君が言うのなら手配しよう。明日にでも村に来てくれ」


 お、おお。村で用意ができるのならありがたい。

 

 ◇◇◇

 

 レースまで残り5日。オケアとのトレーニングにも慣れてきたので今日から本格的に追って行こうと思う。

 馬体重ならぬユニコーン体重による体のキレについては人の姿になったとき彼女に聞けば良い。

 夜だけとはいえ、こうして言葉を交わすことができるってのがユニコーンの大きな強みである。足の調子が悪ければすぐにわかるし、怪我や風邪に対してもすぐに対処ができるのだ。

 馬にとっての致命傷になりえる骨折であっても、普通に治療をすることができるとメロディから聞いた。

 といっても骨折するまで練習だ、何てことをさせるつもりは一切ない。

 

「よっし、秘密兵器の調子が悪かったら首を振って教えてくれよ」

 

 ぶるるるとユニコーン姿のオケアがいななく。

 これも後から知った話なのだが、ユニコーンの姿であっても俺の言葉が彼女に通じている。

 喋ることはできないのだけどね。

 そうそう、ユニコーンにはユニコーン族が乗るには理由があった。

 ユニコーン族ならばユニコーン状態であってもお互いに意思疎通ができるのだそうだ。

 強力過ぎるメリットなのでユニコーンにはユニコーン族が騎乗していたのだが、不幸にも強力過ぎる故に閉鎖的になってしまった。

 

 トレーニングセンターから少し行ったところに急坂が続くところがあって、ちょうど練習に適しているのでこの場所を利用することにしたんだ。

 彼女を鍛えるに坂路練習が一番適していると思ってね。

 秘密兵器の調子も上々らしく、彼女が特に不調を訴えてくることはなかった。

 しかしながら、坂路にはまだ慣れていないようで息があがっていたが……。

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