第6話 いまにみてろよ

「ほおら。僕の言う通りになっただろお」

「たまたまだ。次はユニコーンや黒い馬が優勝するかもしれないだろ」

「どうだかねえ。あったとしても、年に一回あるかないかじゃないのかなあ。怪我をすることだってあるしさあ」

「ぬぐうう。こいつ言わせておけばあ」


 あんまりな男の態度にギリギリと歯を鳴らし飛び掛からん勢いだった俺をメロディが制止する。

 彼女に手だけでは止まらぬと思われたらしく、後ろから羽交い絞めにされてしまうという体たらくであった。

 

「レースはまだ続く。くだらぬことで盛り上がらず、レースで盛り上がるといい」

「そうだな。ありがとう、メロディ」


 自分の胸に手を当て、ふうと息を吐いてから席に座る。

 

 その後、ストーンクラスがもう一レースの後、アイアン、ブロンズ、シルバーのレースが二レースあって、ゴールドが一レース。

 そして本日の最終レースでありメインレースであるプラチナクラスのレースが始まった。

 ユニコーンが勝てたレースは一つだけ。アイアンクラスのユニコーン限定戦だったのだ。

 更に残念なことにブロンズに出場したユニコーンは一頭だけで、それ以上のクラスにはユニコーンの姿はなかった。

 黒い馬……ナイトメアというのだそうだ……の種族限定レースがなかったように、日によって開催されるレースは違う。

 なのでたまたま上位クラスのユニコーンが出ていなかっただけかと思ったのだけど、メロディ曰くシルバー以上のユニコーンはいないとのこと。

 ブロンズになれているユニコーンもアイアンまでにある単一種族のレースに勝って一つ上のクラスにあがれだだけで、ブロンズでは一勝もできていないそうだ。

 

 そんなこんなでユニコーン族のトレーニングセンターに戻って来た。


「セリスが健闘したみたいですね! クローディアさんもレースに慣れたとおっしゃっていましたね」


 人の姿になったオケアがパタパタとニンジンがわさっと乗ったザルをテーブルに置き、笑顔を見せる。

 そのまま先端からかじり「うーん」と幸せそうな顔をしたオケアが不思議そうに首をかたむけた。


「あ、すぐに食べようと思ってたんだけど、少し考え事をさ」

「そ、そうだったんですか。すいません、わたしが先に頂いちゃって」

「いや、気にせず食べて」

「シャリシャリしてておいしいですよ」


 本当に美味しそうに食べるなあ。

 実はいきなりニンジンをそのまま食べることに抵抗があったことは秘密だ。

 一応考え事をしているというのも本当のことだから許して欲しい。


「ソージロー様、何だか浮かない顔をしている気が……か、勘違いでしたら申し訳ないです」

「あ、顔に出てた?」

「そ、そんなことは……レースのことで何か思うことがあったのですか?」

「そ、そそ」


 ニンジンのことじゃなくて良かった。

 初のレース観戦は多数の収穫があったよ。ユニコーン以外の種族を見ることが出来たり、どのような形でレースが行われるなどなど。

 トレーニングセンターでやったレースと異なり、ゲートインしてからスタートすることが分かったのが一番の収穫だ。

 オケアの場合は両側を挟まれるとレースにならなくなる。

 俺が悩んでいる間に彼女はニンジンを二本平らげ、お次はセロリに手を出す。


「食べます?」

「あ、うん」


 生のままでニンジンを齧る。

 硬い……。せめて薄く切るなりしたいところだ。

 「おいしいでしょう」という笑顔の圧力に対しタラリと冷や汗が流れる。

 胸中気まずい状況を打ち破るかのように外から少女の声が聞こえてきた。


「ソージロー様はいらっしゃいますか?」


 オケアが目くばせしたことに対し頷くと、彼女が外まで出て来客に対応してくれる。


「クローディアさん! セリスまで」

「私もいるぞ」

「ひゃあ、メロディさんも!」


 何だ何だ。随分と騒がしいな。

 出てみるとウェーブのかかった亜麻色の髪の少女にオケアより青みが強い髪色の少女、そして、昼間お世話になったショートカットのメロディがそれぞれ口を開く。


「ソージロー様!」

「ソージローさん!」

「ソージロー」

「ま、待って。少し落ち着いて」


 落ち着くのは俺の方か。多数の女性に囲まれ動転していたのかもしれない。

 ってんなわけあるかああ!

 目的はすぐに分かったから、鼻の下を伸ばすなんてことはしないのだ。でも、メロディの谷間が気になってしまうのは仕方ない。

 俺だって男の子だもん。

 ……自分で言ってて気持ち悪い。控えよう。

 

「ノートとペンまでありがとう」

「それくらいわけはない。街に行けば安価で売っているものだ」

「こういうのもあったりする?」

「時計か。あるぞ。村にもいくつかある」


 懐から懐中時計を出すと、全員の目がそれに釘付けになるが特段珍しいものでもないようだった。

 

「『神の手』から見てどうだった? ユニコーン族の戦いぶりは?」

「あ、いや。落ち着いて座って……」


 ズズイとメロディが下から見上げてくるように迫ってくるので思わず体を引く。

 目に毒だよ、マジで。

 ふう。これで落ち着いた。


「メロディさんから見てこの二人の活躍ぶりはどうだったの?」

「そうだな。セリスはこれ以上ない結果を出してくれた。さすが今村で一番期待されていただけはある。クローディアも平均以上だな」

「なるほど。結果としては上々だったと」

「そうだ。君は結果を見ても尚、オケアが頂点を目指せると言うのか?」

「勝負は水ものだ。絶対はない。だけど、シルバーまではまず勝ち上がることできると思っている」


 俺の言葉にオケア以外の全員が身を乗り出し、食い入るように俺を見つめる。

 ロイヤルレースに向かう前にオケアと何度かトレーニングセンターを走った。

 その時に時計をつけている。


「俺だって何もボーっとロイヤルレースを見ていたわけじゃない。ちゃんと時計をとって、今メモを書いているんだよ」

「時計とは走破タイムのことだな。それなら結果が出ていたはずだ」

「そうだったんだ。単純に走破したタイムだけじゃなく、ペースとかも計測していたんだよ」

「ほう。その結果を鑑み、シルバーまでいけると言うのか。君に伝えたが、現状ユニコーン族でシルバークラスの者はいない」


 そうなんだよな。それが不思議でならない。

 いや、今のままの戦法やトレーニング方法で走り続けていたらブロンズまでがせいぜいになってしまうかも。

 極端に強いユニコーンが出てこない限りは。

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