第18話 シュレイヤー夫人

 土や石を見た所でどれが石灰かなんて分かる……わけが無かった。

 素人はダメね、なんてうそぶきつつシュレイヤー夫人にサンプルをお届け、もとい見てもらう。

 さすがの夫人。庭のお手入れでよくモルタルを使っていたからか、すぐに石灰にあたりをつけてくれた。

 何やら石灰は割にみかける砂や石らしく、街でも掘ればとれるところがあるそうだ。

 サンプルを元に石灰を集め、モルタル作りに精を出す……前にモルタルを作るための桶作りから始めることとなった。

 石灰砂があっても混ぜ物をする場所がない。

 桶はタニアの協力でそう時間もかからず完成させることができた。続いて石灰砂を掘り軍団に運び込んでもらい、モルタル作りである。

 木の板でえんやさーと桶に入った石灰砂を混ぜ混ぜして、多分これでモルタルのできあがり……のはず。


「よっし、じゃあ試しに小さめのを作ってみようか」

「使い道を考えてる?」

「あ、いや……も、もちろんさ」

「へえ」


 なんだよ、その目は。

 タニアったら疑り深いんだからもう。

 ごめん、正直何も考えてなかった。そうだよな。モルタルを使うし、一度建てた建物は解体するにも手間がかかる。

 頼りになる堀り軍団なら固まったモルタルでも解体してくれるかもだけど……完成した建物を壊すくらいなら失敗した方がまだマシか。

 よっし、ならばシュレイヤー夫人に作成してもらった設計図を見比べ一番シンプルなものを選ぶ。

 設計図には夫人のメモが細かく入っていてとても分かりやすい。

 地下室の床は硬くしっかりしているので、基礎は無しで角材を長方形になるように敷いて、格子状にして……ふむふむ。

 タニアと二人で設計図通りに角材を置く。


「ここにモルタルを流し込んで、この上から板を敷いたら板張りの床になるんだって」

「シュレイヤー夫人がこれほど詳しかったなんて驚きね」

「ずっと村で一緒だったんだよね?」

「ええ。とってもきれいなお庭だったのよ。テラスも素敵で」


 タニアが作業の手を止めて、目を瞑り口元に笑みを浮かべる。

 昔日のシュレイヤー家の庭を思い出しているんだな。俺も一度見たかったなあ。

 いや、これからまた作れるようになるさ。いずれ完成するであろう夫人の素敵な庭を今から楽しみにしておこう。

 もちろん、彼女の庭作りのお手伝いはするつもりである。

 お次は床に沿うように板を立てそいつを補強するよううに角材を縦と斜め設置した。


「ここからが本番だ。上手くいくかなあ」


 モルタルをペタンペタンと板に貼り付け、角材を覆う。


「乾かすのって風で早くなるのかしら?」

「やりすぎるとモルタルが飛び散りそうな……」

「ちょこっとやってみていい?」

「お願い。助かるよ」


 タニアが風の精霊にお願いすると、そよ風がモルタルの壁に吹き付ける。

 それと同時にモルタルの床にも風が注ぎ込む。


「俺にも風をくれない?」

「あはは。いいよ」


 タニアに手を引かれその場に腰を降ろすと彼女もペタンと俺に隣に座った。

 ふああと風が吹きつけ、髪の毛がゆらゆらとする。

 こいつは気持ち良い。ついでに服を引っ張って左右に振ると汗が渇くからかひんやりしていい感じだ。

 彼女も俺の真似をして「涼しい」とか言っているが、見えそうで思わず目を逸らす。

 

「ふう。続きは明日かな?」

「すぐには乾かないかもだね」


 数日かかるかなあと思っていたのだけど、外が乾燥しているからか、翌日の朝にはカッチカチに固まっていた。

 そんなこんなで翌日朝から作業を再開する。

 

 本日は部屋の仕切りを作る。強度的な問題? で長い方の横を半分にするように横一直線の仕切りを作って扉を作るのは難しいかと思い仕切りに出入口用の穴を開ける。

 穴を開けるといってもモルタルを盛らないだけで、そう難しいことではない。

 そんで、建物の入口から見て奥側の左右に仕切りを作って、右手が俺の部屋にして左手は客間か倉庫とする。

 煮炊きは仕切りを作らなかった入口側の広い部屋を割り当てることにしよう。

 

「よっし、後は蓋……じゃない屋根を作れば完成だな」

「何とかなるもんだね」

「うんうん」


 にひひとお互いに笑い合い、屋根のない完成間近の住居を見上げる。

 自然と口元が緩みにやけてしまう。

 

 ◇◇◇

 

「完成だー!」

「屋根も乾燥しているわね」


 屋根の上で二人並んで座り、足をブラブラさせながらお互いに微笑み合う。

 思ったより早く完成したなあ。全部で5日で完成とは超スピード建築だったと思う。

 柱もないし、強度も普通に家に比べると低い。

 地下室という環境だからこそのシンプルな作りの家だからこそのスピードである。

 

 さっそく、放置したままの日用品を持ち込むとするか。おっと、唯一の家具であるベッドもあったな。


「ごめん、ベッドを運ぶのを手伝って欲しいんだ」

「うん」


 オーライオーライとベッドを運ぶと後ろから動物たちがちょこちょことついて来る。

 俺の部屋にベッドを無事設置し「ふう」と息をつくとタニアが「あと半分だね」とか言っていた。

 ん? 半分とな?

 今度はタニアの使っているベッドを倉庫にでもするかと思っていた部屋に運び込んだ。

 

「家具がベッドだけだとやっぱり寂しいね」

「あ、うん。タニアは両親のところで住まないの?」

「お父さんとお母さんは馬車じゃない」

「あ、そうか」


 そうだったよ。彼女のご両親は馬車を地下室まで運び込んでそこで寝泊まりをしている。

 なので、タニアは彼女の両親が来てからもこれまで寝ていたベッドで休んでいたんだ。

 いずれ彼女の両親の家が完成したら、移ってもらえばいいか。

 俺の家と同じタイプのものなら、俺とタニアで建築することもできる。

 食材のストックは大量にあるし、次は彼女の両親の家を作ってもいいかもしれない。

 それならシュレイヤー家も……となれば子供がいるメイヤー家も……ってなるとキリがくなるよね。

 難しいところだ。

 しかし今は、何も考えず完成したばかりの俺の部屋にあるベッドにダイブしたい。

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