第17話 きゅきゅきゅ

「きゅ」

「まだだめだよ」


 立てた板で作った箱もどきに侵入しようとしたヤマアラシの尻尾をむんずと掴む。

 お怒りの感情が伝わってくるけど、板が崩れて怪我をしたら困るだろ。

 俺の気持ちが分かってくれたのか、ヤマアラシは大人しく俺の傍で寝そべって鼻をすんすんさせ始めた。


「底板を敷き詰めて、周囲に板を立てて囲む。あとは蓋をすれば箱になるんじゃないか」

「入口を開ければ大丈夫と思うけど、見栄えが悪すぎない? 底板を厚めにすれば釘は打てそうだけど」

「うーん」

「全部同じ形の板にしちゃったから、もう一本丸太を切り出そうか?」


 ヤマアラシの顎下を指先で撫でながら何てことのないようにのたまうタニアに対し、目を向く。


「い、いいの?」

「もちろん。この子のためにも少しでも良い物を作りたいよね」


 よし、と立ち上がったタニアに少し待ってもらい、新たな丸太を一本用意した。

 「これをこうして……」と呟きながら彼女が集中状態に入る。

 ヒュンと風を切る音がして、スパンスパンと丸太が綺麗に斬られた。


「お、おお。丸太の形が残ったものは屋根用かな」

「うん、細かい加工は難しいからこれが限界よ」

「ここまで加工してくれたら後は組み立てるだけだよ! ありがとう」

「ううん、ここからがテオくんの腕の見せ所ね」


 ピッと親指を立てたタニアに笑顔で頷く。

 が、板を立てるのを手伝ってもらうという体たらくである。

 固定された板に釘を打ち、組み立てていく。パーツが全て揃っているので、後は釘を打つだけという簡単作業である。

 しかも、タニアのサポート付きで至れり尽くせりだ。

 これで完成しないわけもなく、あっさりと犬小屋が完成した。

 入口をアーチ状にしようかなと思ったが、下手にノコギリで加工すると不格好になってしまうことを恐れそのままにした。

 後は藁を敷けばよいな。

 友達たちの寝床には藁がこんもりと盛られているのでそこから少し拝借することにしよう。


「もうちょっと待ってね」


 犬小屋に入ろうとするヤマアラシを抱え彼の鼻に口付けをするタニア。

 ヤマアラシの逸る気持ちは痛いほど分かる。だがしかし、完成するまで待った方が喜びも大きいのだ。

 今少し我慢してくれよ。急いで藁を持ってくるからさ。

 

「きゅきゅ」

「きゅきゅ」

「きゅきゅ」


 他のヤマアラシも集まって来て一斉に犬小屋の中に入ってしまった。

 中はぎゅうぎゅうになっているけど、快適なのかなあ?

 彼らが気にいってくれたのならこれで良しだ。


「他に同じものでよければ欲しい子はいないかー?」


 真っ先にはっはと寄って来たのは白いもこもこした犬だった。

 続いて、ミーアキャットたちもゾロゾロと俺を取り囲む。

 ふむ。犬小屋だけに犬は欲しがるよな。ミーアキャットもサイズ的に犬小屋でピッタリだ。

 

「よっし、できたぞ!」

「わおん」

「もぎゅ」


 完成するやさっそく犬とミーアキャットは犬小屋の中に入って行った。

 他の友達たちはどうするかなあ?

 馬とツチブタは厩舎ぽいのがよさそうだし……と思ったが厩舎って雨と風避けであって家に入って……という感覚とは違うような。

 馬小屋で寝るのは案外快適ではあるが、あれは雨風を防げて積み上げた藁が柔らかいからだと思う。

 さて、雨風という点だけで考えてみると地下室は馬小屋と変わらない。

 農業をするために風通しを良くしているが、馬小屋だって風通しは同じようなものだよね、多分。

 となると、馬とツチブタはこのままでいいのか。

 既に寝床には藁をたんまりと敷き詰めているからね。

 あとは猫がいるのだけど、猫は家の中なら入って来ると思う。


 家、家か……。

 犬小屋ができるのだから、家もできるか?

 う、うーん。犬小屋は四角い箱を作る感覚だけど、人間の住む家となるとそうはいかない。

 全体を支える柱があって壁を支えために……楽に作ることができる手はないだろうか。


「うん、俺一人じゃ無理そうだ。タニアはどう?」

「どうって?」

「……またしても説明してなかった。犬小屋がうまくいったから、次は家を作れないかと思って」

「家って色んな柱とか壁を支える板とか複雑よね」

「そうなんだよなあ」

「お父さんやシュレイヤーさんに聞いてみる?」

「だな、農作業の邪魔をしないように聞き込みをしてみよう」


 そんなわけで、俺とタニアの知恵だけではどうにもならないので聞き込み調査に向かうことにした。

 すると意外なことにシュレイヤー夫人が詳しかったのだ。

 彼女自身は大工仕事ができないと謙遜したが、家の設計図をさらさらと書いてくれた。

 設計図を見た俺とタニアは目をこれでもかと真ん丸にしたものの、設計図を再現できないと落胆する。

 その設計図は丸太以外の建材が色々と使われていて、どうしようなかった。

 大工の腕はないのは当然のこととして、建材を用意できないとなると完成の見込みがゼロである。

 

「それじゃあ、こういうのはどうかしら?」


 夫人はさらさらと追加で二つの設計図を書いてくれた。


「お、おお。これは」

「地下室じゃ雨が降らないでしょ。だから屋根は飾り程度でいいわよね」

「なるほど、なるほど」

「こっちはモルタルを使うけど、箱を作るのと変わらないわ。強い風雨に耐えられないけど、ここなら問題ないんじゃないかしら」

 

 夫人がパチリとお茶目に片目を瞑る。

 確かに、確かに。

 モルタルの方が技術的に何とかなりそうな気がする。

 そうと決まればモルタルを仕入れるとするか。


「モルタルなら自作できるかもしれないわ。テオさんは地下室をお作りになったんでしょ」

「え、ええ。まあ」

「モルタルは石灰と砂と水でできているの。石灰を切り出せば自作できるんじゃなくて?」

「石灰って白い石みたいなのでしたよね」

 

 掘っている時に見つけたかもしれない。

 畑の土としてもどしたもの以外は今も地上に放置してある。探してみるかな。

 買うと高いし、稼げる当てがそんなにあるわけでもないので、お金もなるべく使いたくない。

 夫人にお礼を述べてから、さっそく灼熱の砂漠へ繰り出す。

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