第16話 ここに丸太が

 三家族増えたわけであるが、彼らとて礫砂漠には食べる物がない想定でここに住むことを決めている。

 ので、多少の蓄えと残りは作物が育つまで現地調達するつもりでいたのだという。

 そんじゃあ、どうするんだよって話なのだけど、家畜と狩、採集のいずれかをやるつもりだったのだ。

 年配のシュレイヤー家は馬乳と毎日卵を産んでくれるボーボー鳥を飼育すべく、既に馬車に積み込んできていた。いや、馬は積めないので馬車の隣を歩かせたてここまで来ている。

 馬車を引く馬も雄と雌なので馬産体制も一応はできているよな。

 俺が使っている馬車の馬もいるし、他の一家は全て二頭引きの馬車なので馬は割に数がいるのだ。

 ボーボー鳥は六羽いて、鶏に比べて小柄だが燃費がとてもいいのが特徴の鳥である。

 最初は持ち込んだ穀物を食べさせるが、牧草を植えて放し飼いにしようというのがシュレイヤー夫妻の考えだ。

 タニアのところもボーボー鳥を持ち込んでおり、子供連れのメイヤー家は俺と同じく森での採集をメインで考えているとのこと。

 

 住み始めたばかりの人たちに向け、食糧を溜め込んでいたのだけど差し当たり必要なさそうだな。

 おっと、一応保冷室と冷凍室のことは知らせてある。もし使うならどうぞってね。

 保冷室の方は超好評だったけど、冷凍室の方は反応がイマイチだった。何に使うのか想像がつかないのかもしれない。

 そらまあ、そうだよな。冷凍って普段の生活でお目にかかることはまずないからさ。

 

 そんなわけで今日は地下室を……作らないことはなく、一室だけ作ってかねてからやりたかった作業に取り掛かる。

 無造作に転がっているのは木材。これを木材と呼んでいいのかはちょっと無理がある。

 森で伐採した木から枝を落としただけのものだから、丸太と呼ぶ方がいいよな。

 そして、枝を落としたナタ、木を切った斧、更にノコギリまである。

 ふ、ふふ。それだけじゃないぜ。釘や金槌まで用意した。

 

「もきゅ」

「住処が欲しいのか? それは俺も同じなのだが、いきなり家はハードルが高過ぎるだろ」


 期待していたらしいヤマアラシがシュンとしてしまったが、犬小屋くらいならいけるかも。

 犬小屋に藁のクッションを入れればそれなりの巣にはなりそうだよな。

 最初だから椅子に挑戦してみようと思ったが、路線を変更しよう。


「やってみるよ」

「もきゅう」


 ヤマアラシが喜びから背中のトゲトゲをピンと立て、すりすりとしてくる。ズボンの裾が破れてしまった。


「きゅきゅ」

「え? 俺たちも欲しいってこと?」


 ヤマアラシの様子を察知したらしいミーアキャットたちも「俺も俺も」とやって来る。

 ツチブタは興味がなさそうであるが、アナグマは寝そべったままで首だけあげこちらを窺っているじゃあないか。

 掘り軍団は大活躍してくれたからなあ、できれば彼らの巣を作ってあげたい。

 そもそも彼らって穴を掘ってそこに巣を作っていたような気もするけど、それぞれに希望を聞くことにするか。

 しかし、まずはヤマアラシ用の犬小屋から行くぜ。


「う、うーん」


 丸太を眺め、やる気が一気にしぼむ。この丸い木をどうやって板にすりゃいいんだよ。

 そうだ!

 オレサマイイコト思いついたぞ。


「え、ちょっと、どうしたの?」

「すいません、アロルドさん。ちょっとだけタニアを借ります」


 両親と家族水入らずのところ申し訳なかったが、オレサマ状態の俺を抑えることはできないのだ。

 タニアの背中をグイグイ押して、作業場まで急かす。


「こんなに丸太を持ってきてどうしたの?」

「みんなに運ぶのを手伝ってもらったらすぐさ」

「そうだと思ったけど」

「んでだな、さっそくで悪いが風の精霊にお願いできないかな?」

「お願いって何を……?」

「あ、すまん。つい、先走ってしまった」


 いきなり「お願い」と言われても困るよな。

 困惑したタニアは「ん」と首を傾げ苦笑いしている。

 コホンとわざとらしく咳をした後、かしこまってすっと丸太を指さす。

 

「ここに丸太があります」

「あるわね……」

「ワタシ、イタガ、ホシイデス」

「……そ、そうなの……」

「だから、風の精霊にスパンと切ってもらいたい」

「わ、わかったわ」

「できるの!?」

「で、できるけど、テオの変な喋り方が気になって仕方ないわよ」


 やったー。できるんだあ。喜べヤマアラシよ。

 板ができるぞお。

 ワクワクしながらタニアを見つめていたらそっぽを向かれてしまった。

 「見られていると集中できない」とか言いつつも彼女は目を瞑り集中状態に入る。

 スパン、スパン、スパン!

 丸太が野菜でも切るかのように縦に切れた!

 す、すげー。断面がツルツルじゃないか。これならカンナやヤスリを使わずともいけそうだ。

 

「これでいい?」

「もう二、三本、いけそう?」

「ここにある丸太全部でもまだまだ魔力に余裕があるけど……」

「じゃあ、お願いしまっす!」


 彼女の肩を掴みゆさゆさと揺する。

 なんか彼女の目が死んでる気がするが気のせいに違いない。だって、板を作るなんて素晴らしい作業なんだぜ。

 ワクワク以外の選択はないだろ。

 タニアの精霊魔法によってあっという間に運び込んだ丸太が板になった。

 ついでに長さも調整してもらって、街で売っているかのような板のセットになったのである。


「ありがとう!」

「いえいえ、一体何を作るつもりなの?」

「ヤマアラシの小屋を作ろうと思ってさ」

「きゅきゅ」


 「俺、俺」とタニアの足もとを爪でガリガリするヤマアラシ。

 対する彼女はヤマアラシを抱きあげ、頬ずりする。

 ヤマアラシの腹側はふわふわで気持ち良いんだよな。トゲトゲ部分は下手したら怪我をするから注意されたし。

 

「そうなんだー。キミのお部屋なんだね」

「きゅきゅ」

「うらやましいぞー」

「きゅきゅ」


 今度は額でヤマアラシのお腹をぐりぐりしたタニアの頬は緩みっぱなしだ。


「わたしも手伝っていい?」

「もちろん! 大工仕事は俺もよくわからなくて、ともかくやってみよう」


 まずは板を立ててどんな形になるか試してみるか。

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