第15話 歓迎歓迎

「テオくん、みんなやれそうってさ」

「少し見ただけで分かるものですか」

「概ねだけどね」

「アロルドさんとメリサさんが入居予定の地下室にも案内します」


 タニアと俺がせっせと作業していた実験用の地下室から出て、今度はタニア一家のために用意した区画に向かう。


「たっぷりの土だね。床は硬くなっているのかい?」

「はい、もとの土にも戻せます」

「隅に流れる水路がありがたい。各部屋にあるんだね」

「地下室の更に下に水路をつくって各部屋に行き渡るようにしています」


 おおおお、と集まった元村人全てから歓声があがる。

 いや、子供たち二人は別だな。水路で動物たちと遊んでいる。こういうこともあろうかと水路は俺の脛くらいまでの深さにしてあるのだ。

 ……ごめん、見栄を張った。掘り進める中でやり易い深さが脛くらいまでだったんだよ。

 やろうと思えば深さも幅も変更することができる。

 今後、アロルドらが地下室について改装したいと相談してきたら考えるようかな。今のところはこの作りで全ての畑用地下室を作っている。

 同じ形にすると作るのも楽なんだよね。

 水が吹き出すなんてアクシデントが無ければ地下はある意味平坦である。掘って高さを揃えるわけなので、地上と違って地形の高低差や大木なんてものに合わせて部屋を作る必要がない。

 普通、地下室を掘ることが現実的じゃあないくらい大変なのだけど、そこは掘り軍団がやってくれる。

 地下の街というのはこの世界でここだけの素敵な空間なのだ。

 何てことを考えると、ニヤニヤが止まらなくなる。ここだけ、俺だけ、ってなんて刺激的な言葉なんだろうか。

 言葉に溺れぬよう注意しなきゃな。

 またしても畑談義になっていたので、ようやく愛犬に心を奪われていたタニアが復帰したので彼女にこの場を任せることができた。

 手の空いた俺は子供たちと一緒に水遊びである。

 動物と遊ぶのは大好きだが、同じようにはしゃいでくれる子供たちと遊ぶのも同じくらい大好きなんだよね。

 俺にとって好きな事だから特段負担になっておらず、むしろ自分が楽しんでいるのだが二人の母親が申し訳なさそうに頭を下げてくる。

 

「テオさん、子供たちのことありがとうございます」

「いえいえ、何のかんので水は危ないですから」

「子供たちのこれほど楽しそうな様子をゆっくり眺めたのも久しぶりです。二人のこんな楽しそうな顔を見れただけでも、ここに来た甲斐がありました!」

「それは幸いです」

 

 水が浅いとはいえ、滑って転んだら床が硬い。

 つい見栄から水をとか言ったものの、本心は一緒に楽しんでいた。これである。

 まあいいじゃないか、俺が水をと言ったところで誰も損はしない。

 母親に続いて父親も俺に元にやってきて、感謝を述べてくる。

 

「テオさん、ありがとうございます。俺たち是非ともここに移住したいと思っているんですが」

「え、いいんですか! どうぞ。アロンドさんたちと同じように畑用の地下室をさしあたり四つ、ええと四つで1セットになっていまして」

「考えられた作りですよね! タニアちゃんとアロンドさんから聞きました」

「いつから来られますか?」

「できれば今すぐにでも……は難しいと思いますので、最短はいつになりますか?」

「今すぐでも大丈夫です」


 「え!」と驚きの表情を見せたのはメリーとカインの両親だけじゃなく、タニア以外のこの場にいた全員だった。

 伊達に毎日毎日地下室を作ってないのであるぞよ。

 謎の脳内テンションになってしまったが、ほぼ連日、魔力が尽きて回復させて魔力が尽きてを繰り返していたからな。

 畑用は水路を作って土を運び込んで、とやり方が確立しているのでもう慣れたものだ。……堀り軍団がね。


「シュレイヤーさんのところも今すぐでも大丈夫よ」

「私たちが同時でもなのかい!」


 シュレイヤーさんというのは年配の夫婦のことである。

 タニアが人差し指を立ててはにかみむが、彼らはそれどころじゃなかった。

 声をあげ驚きから腰を抜かしそうになった夫人を支える夫君も驚きで完全に表情が固まっている。

 準備完了しているのは3区画だけじゃなく、まだあることは黙っておいた方がよさそうだ。

 これ以上驚かすと、本当に腰を抜かしてしまうかもしれない。


「別に居住区も用意していますがどうしますか?」

「できれば畑用の地下室に家を建てたいのだが、良いかね?」

「問題ありません」

「俺たちも同じでお願いします」


 シュレイヤー夫妻もメリーたち一家も畑のある地下室にそのまま住むことを希望した。

 居住区も結構な数を準備しているんだけど、どうしようか。

 村人が増えてきたらそのうち畑以外のことをする人も出て来ると思う。その時までとっておこうかな。

 宿泊施設とかも欲しいし。

 しかし、大工がいないため家を建てる目途は立っていない……。

 俺の考えを察したかのようにタニアが口を開く。


「お父さんとお母さんには伝えていたけど、家は準備できていないの」

「しばらくは馬車を地下に運んで寝泊まりするよ」

「私たちもそうします」


 それ用の馬車を持ってきたってことだな。みんな準備がよろしいようで……。

 俺たちは地下室に直接ベッドを置いて寝ているけどね。

 木材の切り出しは徐々に進めているのだけど、家ってどうやって作ればいいのかよくわからなくてさ。

 砦の修理ならお手の物なのだけど、木製で一から作るとなると厳しい。

 そのうち大工道具を準備して挑戦してみようと思う。

 うまくいってもいかなくても楽しそう。今からワクワクしてきたぜ。

 元々、自作することは嫌いじゃないからね。

 

 そんなこんなで砂の街モーリスは新たな一歩を踏み出すことになった。

 新たに住人となったのはタニアの両親一家であるジェリーニ家、子供たちを連れたメイヤー家、夫婦二人で移住するシュレイヤー家の三家である。

 一気に三家族も増えて賑やかになりそうだ。

 これからもっともっと住人が増えたらいいなあ。

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