第14話 お引越し
「お世話になるわね」
「テオくん、よろしくな」
タニアの両親がペコリとお辞儀をする。
丁寧な挨拶に恐縮しきりだ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
彼女の両親より深々と頭を下げ、握手を交わす。
父親の方……名前はアロルドと聞いた……が言い辛そうに口を開けて閉じた。
どうしたんだろう?
「お父さん?」
「あ、すまない。ちょっとテオくんに相談があって」
さすがの娘である。すぐに父親の様子を察したらしい。
「相談ってどのようなことなんですか?」
「モーリスに住むかどうかを特に親しかった元村人に相談したんだよ」
一大決心だもの。誰かに相談するのは当たり前だよな。
ふんふんと頷きながら、思ってることをそのまま口にする。
「当然のことだと思います」
「地下室の様子を喋ったところ、自分たちも行きたいと言っていてね」
「そうなんですか、是非見学に来ていただければ」
「それが、もう来ているんだ」
申し訳なさそうに髭に手をやるアロルドに対し、笑顔で返す。
「外で待たせているんですか? すぐに中に入ってもらいましょう」
「ありがとう」
なるほど、彼は事前連絡も無しに元村人を突然連れてきたことに対し申し訳なく思ってくれていたのか。
馬車の中にいるのだろうけど、直射日光に当たらないだけで暑いことには変わりないものな。
さっそく彼と共に俺もついて行く。
すると馬車は合計三台停まっていて、「ん」と首を傾ける。
タニアの両親は馬車二台で来たのかな? あ、いや、元村人が複数いたんじゃないだろうか。
やばい、ほんのちょっとだけだってのに暑さで頭がやられてしまった……そんなわけあるかあ。単に俺が抜けていただけである。
一台はタニアの両親が乗って来た馬車で、残り二台からそれぞれ二名、四名の元村人が顔を出す。
一方はタニアの両親くらいの年齢で、もう一方は彼らより10歳以上年下の一家に見える。三人であったが、夫婦に加え小さい女の子と男の子が母親に支えられ馬車から降りてきたんだ。
「はじめまちて、メリーです」
女の子の方がたどたどしい言葉で挨拶をするものだから、思わず頬が緩んでしまった。
もう一方の男の子は鼻をこすり、こちらを窺っている。
初対面の大人に挨拶するのはこの歳の子供たちにとっては難しいことだというのは俺だって分かっているぜ。
特に男の子って恥ずかしがり屋なことが多いものな。
「はじめまして、テオです。じっくり見学していってください」
二家族に挨拶をし、まずは休憩所へ……と行きたいところだが残念ながらまだ木族建築物は無い。
ので、いつものサウナにつかっている地下室へ行ってもガランとしているだけなので畑に案内することにした。
彼らは農業をはじめるかを確かめに来たはずなので、最初に目的であるタニアに監修してもらった畑を見せるのが良いかなと思ってさ。
おもてなしができるような施設がないのだから仕方あるまい。
「おお、しっかり育っていますね!」
若い夫婦がジャガイモの芽を見て感嘆の声をあげる。
彼らの子供たちは畑には興味がなく手持無沙汰な様子だった。
畑のことはタニアに任せ……って両親と一緒にやって来た飼い犬に夢中である。
どうしようかな、と思っていたらタニアの両親と元村人たちがお互いに土のことや苗のことを熱く語り始めていた。
飼い犬のステラと遊んでいるくらいなら、ついでにあの子たちも加えてあげればいいのに。
なんて思ったが、彼女の目には愛犬しか映っていない。しばらくぶりだったし、数日ぶりに彼女の実家で愛犬と出会った時もこうだったものな。
あ、灯台下暗しだった。動物の友達なら沢山いる。
犬がいいのかな、それともツチブタ?
「うわあ。いっぱい」
「やるな、テオ兄ちゃん」
迷った俺は掘り軍団にカラス、そして白いもこもこ小型犬にいつの間にかついてきていた虎柄の猫。
ツバメはどこかへ旅立ってていない。そのうち帰ってくると思う。
女の子の方がメリーで男の子がカインだったかな。メリーは自己紹介してくれたけど、カインの名前は彼の母親から聞いた。
二人ともふわっふわの金髪に丸顔でよく似た姉弟だなとった感じだ。
メリーは虎柄猫が気にいったようでふああと欠伸をする彼をじーっと見つめている。
もう一方のカインは意外にもツチブタに興味を持ったらしい。
「テオ兄ちゃん、こいつ、ウサギなの?」
「ウサギみたいな耳をしているけど違うんだ。ツチブタって動物で穴を掘るのがうまいんだぞ。この地下室を掘ってくれたんだぞ」
「こいつ一人で! すげえ」
「いや、ツチブタ一匹だけじゃないけどさ。他にもトゲトゲしたヤマアラシとかイタチみたいなミーアキャットとか、ほらそこにいるだろ」
「へえ。掘るところが見てみたい!」
「まだまだ地下室を作っているからその時に見せるよ」
「やったあ」
最初の人見知りもどこへやら、彼は俺の服の袖を引っ張って来るまでになった。
「触っても大丈夫だよ。猫もツチブタも」
ってメリーはもう虎柄猫の頭をなでなでしている。
噛みついたり引っ掻いたりはしないので、大丈夫だ。その辺は俺と虎柄猫の間で意思疎通が取れている。
嫌がっていたらすぐ俺に気持ちが伝わってくるけど、今のところ虎柄猫は喉の方を撫でで欲しいと思っているくらいで撫でられること自体は気にいってるみたい。
ツチブタはふんふん鼻息が荒いので、怒っていると思われたのかカインは彼の体に触れようとはしていなかった。
「ツチブタの鼻息は鼻が大きいから、人間よりふんふんしてるだろ。これで普通なんだよ」
そう言ってツチブタの首を撫でるとますます鼻息が荒くなる。
「な」
「へえ。僕も触っていい?」
「そのまま触れてみ。特に首元が好きみたいだ」
「うん」
俺と入れ替わるようにツチブタの首に手を当てたカインがそろそろと手を動かす。
ツチブタから伝わってくる気持ちは「悪くないぜ」だったのでホッと一安心した。
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