第13話 カラスで狩りを

 ふうむ。タニアが水やりについて説明してくれているけど、難しいな。

 当たり前と言えば当たり前だけど、毎日同じ量の水を与えるのが最適というわけでもない。


「水やり一つとっても繊細なものなんだなあ」

「ここまで神経質にならなくても育つと思うんだけど、地下で育てるって初めてだから」

「気持ちは分かる。俺もタニアに完全に同意だよ」

「種類も多くて、畑も小さいから余計にね」


 えへへと笑い、芽が出てきたジャガイモの葉をちょんと突っつくタニア。

 地下室での作物育成はまだまだ試作段階だ。

 今はタニアが最善と思える方法で繊細に栽培計画を立てて実行していた。

 やり方が確立されれば、容量用法を守れば誰でも作業をすることができるようになる見込みである。

 まあ、用法容量を守っていたからといっても必ずうまくいくわけはないのだけどね。

 不測の事態ってのは突然やって来る。

 植物も人間と同じで色んな病気にかかったり、土の状態によっては枯れることもあるそうだ。


「細い竹筒を横から半分に切って細かい穴を開けてさ。水を流せばちょろちょろと水が落ちて来るじゃない」

「テオくんならではのアイデアね!」

「え、そうかな。誰でも思いつきそうなものだけど」

「思いつくけど、手間の方がかかっちゃうわ。ほら考えてみて、どうやって竹筒に水を流すの?」

 

 あ、そうか。

 こう地面に竹筒を置いても自然に水は流れない。いや、平面に竹筒を置いた場合でも、筒の中にある水の高低差で水は流れる。

 だけど、細い穴から流れ出る水は入口付近に集中し遠いところには水が至らない。じゃあどこに行くのかと言うと、水を入れた場所から水が溢れて流れていく。

 竹筒を上半分切ったから流れるんだろ、と思うかもしれない。

 確かにそうなのだけど、竹筒を切ってない場合は水の投入自体が困難になる。実際にやってみるとよくわかるはず。

 

「難しいな。軽率な考えだったよ」

「え? テオくんだからこそじゃない。良いアイデアだと思うわよ」

「ん? 友達に頼むのかな?」

「最初はあの子たちに頑張ってもらわなきゃならないかな」

「あの子たちって掘り軍団のこと?」

「うん」

「水やりじゃなくて、穴掘り軍団か」


 う、うーん?

 首を捻っているとタニアが何かを持っているかのように両手を握り目くばせしてくる。

 ふむ。しかと見届けるぞ。

 彼女は右手を下に降ろし、左手で上にあげ、精一杯左右に腕を広げる。

 彼女が握っている想定なのは竹筒だよな。で、目線が左手から右手に向かう。

 高いところから低いところに水が流れる。

 いやいや、さすがの俺でも水の流れは分かるって、と口を挟むかと思ったら彼女が次の動きを見せた。

 壁に竹筒を突き刺し……あ、やっと意味が分かった。

 

「そうか、地下室だけに好きな場所に水を引くことができる」

「調整は必要だけど、水浴び用の池を作ったりなんて細かいこともできたから、できるんじゃないかって」

「できると思う。竹筒の角度や穴の大きさと数の調整がどこまでできるかだけど、上手く行けばラクチンになるよな」

「水路を張り巡らせた方が楽かもしれないわね」

「育成のやり方がある程度固まったら、どうするか考えようか」

「その時が楽しみ」


 好きなところに穴を開けて水を流すことができるってのが、俺ならではってことだったのか。

 水やり一つとっても様々な選択肢がある。いやあ、勉強になるなあ。

 俺が考えていた水やりって、水鳥や水辺の動物に協力してもらおうって安易に考えていた。

 それぞれが少量しか水を運ぶことができないけど、数で押すという力技だ。

 穴掘りと同じ原理である。


「いやあ、農業って奥が深い」

「奥が深いのはそうだけど、何かテオくんの想像していることとズレがある気がする……」

「そうかな」

「ま、まあ、いいんじゃない。試行錯誤しなきゃってことで」


 何故か歯切れが悪いタニアであったが、まあいいか。彼女だって「まあいいか」って言ってたし。

 妙な間が開いてしまった。

 今日はこれから地下室を広げずにやることがあるのだ。


「タニア、留守番を頼む」

「はあい、いつもありがとう」


 サウナを楽しみ、魔力を使うだけの生活ではないのだよ。ふふ。

 畑もやってるじゃないかって?

 ま、まあ、やっているけど他にもやることがある。

 人間、生きていくためには衣食住が必要だって言うだろ。

 衣食住のうち、今のところ衣類は街で買ってくるしかない。

 住はここがある。

 そう、俺がこれからやらなければならないことは食のことなのだ。

 食材は保冷庫も冷凍もできるので溜め込むことが可能である。

 現状でも十分にストックがあるから急ぐ必要はない。

 しかし、しかしだ。楽に狩れるから狩っておこうと思ってね。

 

「行くぜ」

「ぐああ」


 馬に乗り、相棒はカラス。

 馬は残念ながら俺の能力で意思疎通することはできない。大型犬より大きいサイズになると意思疎通することができなくなるんだよね。

 騎乗動物と意思疎通できれば、もっと世界が広がりそうだよなあ。

 いやいや、欲張るのは良くない。戦いだって欲張ると大怪我をしたり、最悪命を落とす。

 足ることを知ることこそ上手く生きる秘訣なのだ。

 馬車を持って来ていないのですぐに森に到着した。

 さっそく得物を発見!


「行けー。カラスよ」

「くあ」

「え? やだって? ほ、ほら、これをやるから」

「ぐあ」

「二つ寄越せって? し、仕方ないな」


 多少のトラブルがあったものの、カラスが飛び立ちイノシシの周囲をやかましく飛ぶ。

 いいぞお、いい感じだ。

 いらついたイノシシはカラスの飛ぶ方向に走る。

 ドスン!

 と大きな音がしてイノシシの姿が消えた。


「ありがとう」

「ぐあ」


 カラスに木の実を二つ渡し、イノシシの消えた辺りを覗き込む。

 そこは大きな落とし穴になっていて、イノシシが気絶し倒れていた。

 予めいくつか罠を仕掛けておいたんだよね。ゆるい狩りなので失敗したらしたで、そのまま帰る。

 今日は幸運にもイノシシを即座に狩ることができたので撤収、撤収。

 

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