第12話 土を整える

「ええと、カメレオン? のロッソ、だっけ」

「うん。カメレオンって聞いたことない?」

「ないなあ。トカゲも嫌いじゃないのだけど、喋るトカゲなんて初めて見たよ」

『オレだからだナ』


 ロッソが自慢気に顔をあげ長い舌をクルクルと巻く。

 俺の顔の話題になったことで抜けそうになっていたがちゃんと覚えていたのだ。俺凄い。

 「ほら」とロッソの腹を突っつくと、威嚇された。いやいや、そうじゃなくてだな。

 ようやく分かってくれたらしく、のそのそと俺の肩から降りたロッソが最後とばかりに尻尾で俺の脛をぺしぺししてきた。


「あはは、本当に気に入られてるんだね。キミ、竜族じゃなくて人間だよね?」

「そうだけど。ちょいとばかし動物に好かれる体質なんだよ」

「へえ。そうなんだ。ボクはサクラ。よろしくね」

「俺はテオ、よろしく」


 両手を後ろで組みカラカラと笑うサクラのローブの中にロッソが潜り込んでいく。

 続いて彼女は「はて」と首を傾げ頭の上に手をやった。

 

「あ、そうだった。穴を掘って何をしているの?」

「ん、外は暑いから中で住んでいるんだよ」

「ユーは何でこんなとこに?」

「ユー?」

「あ、キミって言う意味だよー」


 てへへともう一方の手も頭にやるサクラであったが、ローブを目深に被っているので表情は見えない。

 馴染みのない言葉を使うし、カメレオンなるトカゲをつれているしで何だか不思議な子だなあ。


「俺がここに住んでいるのは、ここら一帯の土地を買ったからだよ」

「へえ、土地って買えるんだ。領主様のモノじゃなかったの?」

「場所によるかな。ここは元々村だったこともあって、村人の総意で売られることになったんだ。それでまとまった土地を購入できたんだよ」

「おもしろーい」


 ローブに包まれた袖をペチペチと叩くサクラ。

 俺も土地の権利やらについては詳しくない。ここは王領でここは貴族領でなんて複雑な仕組みなんて理解不能だ。

 ともあれ、礫砂漠一帯が俺の土地であることだけは確かである。

 税の徴収とかどうなってるのかくらいは調べたら良かった。しかし現時点では何も無い不毛の礫砂漠だと認識されているのでしばらくの間は税やらに悩まされることもないだろう。

 落ち着いたらタニアの父に税のことを聞いてみることにしようかな。忘れそう……。


「時間が許すなら地下を見ていく?」

「見に行きたいぞお」


 えいえいおーとサクラが右腕をあげる。その時初めて彼女のほっそりとした指先が見えた。


「入口は沢山あるのだけど、今はみんな一か所に固まってるから」

「みんなって? テオ一人で住んでいるわけじゃないんだー」

「これからはもっともっと人が増える予定なんだぜ」

「へー。ボクも住んじゃおうかなー。あ」


 ピクリと肩を震わせた彼女がブンブンと右手を振る。


「ごめんね、そろそろ行かなきゃ、みたい」

「俺はいつもここにいるし、時間がある時に来てくれよ」

「うんー。ありがとう!」

「またな」


 喋っていたらいい感じに汗をかいた。

 こうして汗をかいている間に会話をしていると楽しく時間を過ごせるものなんだなあ。

 良い時間を過ごすことができて満足、満足。

 

 ◇◇◇

 

 ふむふむ。こうやって土を整えるのか。

 土を細長く盛り上げた栽培地? 栽培床? のことをうねと言うのだそうだ。

 育てる作物によって畝の作り方が違うんだとか。

 この畝に植えるのはネギの種である。タニア曰く育てやすいとのこと。

 地中に生育する根を食べるタイプの野菜の方がオススメだと彼女は言っていたのだが、必要な土の量が増すのでご遠慮した。

 ……のだけど、別の畝でニンジンとジャガイモを植え付けている。

 タニアに言われるがままに作業を手伝ったのだけだけどね。

 俺はこうしてクワで土を整える最終工程をやっているだけでヒイヒイ言っているけど、土を運ぶという一番の大仕事をやってくれたのは掘り軍団である。

 彼らには何から何までやってもらって感謝しかない。

 ニンジンが生育したら真っ先に彼らに振舞おう。ジャガイモは苦手な種がいたかもしれない。

 彼らは賢いので自分にとって害になったり食べられないものは口にしないので不用意に与えて大変なことになることがないのは幸いである。

 うーん、別の芋とかカブとかも育てたいところだな。

 収穫した野菜を売りに行くつもりはないので、少量でもいいから沢山の種類を作りたい。

 多少の現金収入が必要ではあるものの、森で狩りをして牙を売れば多少のお金にはなるからねえ。

 

「おー、捗ってるねえ。はい」

「お、ありがとう。生き返るよ」


 様子を見に来たタニアから水筒を受け取り、さっそくゴクゴクと一気飲みする。


「他はどう?」

「今のところ順調よ。地下だからどうなることかと思ったけど、大丈夫そうね」

「まだ二部屋残っているんだよな?」

「本当は一面を畑にしたいところだけど、土を運ぶのはともかく畝までは難しいし、水やりも大変じゃない」


 順調に生育しているか確認するだけでも時間がかかるしなあ。

 ネギを育てるために畝を作ったこの地下室もほぼがらんどう状態である。土だけ持っている感じで、畝はほんの少ししかない。

 今育ててている畝を全部この部屋に持って来ても半分はスペースが余るんじゃないかな。

 わざわざ部屋を分けているのにはもちろん理由がある。

 畑用の地下室は四つの部屋で1セットになっているから、どの部屋でも順調に作物が生育するのか確かめたかったんだよね。

 細かいことを言い始めるとキリがないのだけど、同じ部屋でも畝の場所によって状態が変わる。

 そこまではチェック仕切れないので部屋だけでもという大雑把に進めているというわけだ。 


「水やりも畝も友達に手伝ってもらえるけど、俺が適切な畝と水分量を把握しなきゃ指示が出せないんだよな」

「そんなことまでできちゃうの!? あなたの友達って凄すぎるわ」

「掘り軍団でも畝の作成はできるよ。水は別の友達に頼らなきゃいけないかな」

「あの子たち、あんなにかわいいのにとても仕事ができるのよね!」


 友達が褒められると自分のことのように嬉しい。

 さて、もう一仕事しますかね!

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