第11話 喋ったあああ
トカゲが喋った。トカゲが喋ったぞお。
落ち着け、俺。
ひょっとしたら俺の能力が覚醒して進化した? 能力が進化するなんてことあるのかな?
聞いたことはないけど、現にこうやってトカゲの喋っている言葉が分かる。
「掘り友達とも会話できるようになったのか。カラスたちとも」
『餌カ?』
「俺の友達だよ。食べないでくれよ」
『オレは肉、食べなイ』
そうかそうか。そいつは何よりだ。
トカゲは砂漠にすんでいるのかな? 会話ができるわけだし、聞けばすぐ分かる。
が、今は後回しにしたい。
トカゲもオレンジの鱗とくるんとした尻尾に惹かれるのだが、能力が進化したのなら真っ先に堀り軍団に感謝の言葉を伝えたい。
意思疎通で何となく感謝の気持ちを伝えてはいるけど、言葉で伝えるとまた違うだろ。
彼らには感謝してもしきれないので、一刻も早く伝えたいんだ。
「ちょっと急ぎの用ができた。まだしばらくここにいるんだよな?」
『そうだナ。もう少し暖まル』
ちょいっと喋ってすぐに戻ってくるから待っててくれよ。
酷暑の中ほんの僅かな距離とはいえ走ったので倒れそうになるが、ふら付きながらも水でちゃぷちゃぷしていた掘り軍団へ声をかける。
「みんな、いつもありがとうな」
「もぎゅ」
「きゅきゅ」
ツチブタもヤマアラシもミーアキャットもつぶらな瞳で可愛らしく鳴くばかり。
あれ、鳴き声が言葉に変換されないぞ。
んー。おかしいな。俺の能力が覚醒したんじゃなく……。
「あのトカゲが言葉を操るってこと!?」
思わず叫んでしまい、隣で俺のサウナが終わるまで待っててくれたタニアが顔を出し、真っ赤になって引っ込んだ。
うん、全裸で叫んでいたよ。正直すまんかった。
外に出る時はローブを羽織って出るのだけど、汗だくになるし地下室に戻ったらローブを脱いで絞って洗ってなんてしながら水浴びしているんだよね。
これが俺のサウナ黄金パターンである。
俺の能力が覚醒していなかったことは残念だったけど、喋るトカゲに出会えたってのも僥倖だ。
人語を操るトカゲなんてこの世に存在したんだなあ。
おっと、「待ってて」と言ったがいつまでも待っててくれるか分からんよな。
急げ、急げえ。
濡れたローブをひっつかみ、腰紐を締めながらスロープを登る。
外は灼熱だから濡れたローブもすぐに乾くから問題ない。
「はあはあ。いない? もうどこかに行っちゃったかあ」
『ン?』
お、おお。砂の中からオレンジ色の頭が出てきた。
彼がまだいてくれたようでホッとする。
「そうだ。申し遅れたけど、俺はテオっていうんだ。君は?」
『オレはロッソ』
「ここに住んでいたの?」
『いヤ。旅をしていル。ここは良いナ』
俺にとっては暑すぎるけど、尻尾がキュートなトカゲのロッソには適温なのか。
あ、一応聞いておこう。旅をしているのなら、ここで一日過ごしたことがないのかもしれないからね。
「昼間は灼熱だけど、夜になったらとても冷えるのは知ってる?」
『ン? 寒イ?』
「そう、太陽が出ている間はじりじりと熱されてここまで暑くなるのだけど、暗くなったら途端に気温が落ちる」
『寒イのか、グゲゲ』
トカゲのロッソは寒いのが余程嫌らしく、砂の中に潜ってしまった。
砂漠は鉄のように熱しやすく冷めやすい。
人間にとって辛いのは極端な寒暖差よりも、乾燥の方だろうな。ローブを羽織って肌を晒さないようにしておかないと、すぐに倒れてしまう。
水分補給しようにも水はどこにもない。
水が飲めないと人間ってすぐにダメになっちゃうから、乾燥こそ最大の敵なのである。
「寒いのが苦手なら、夜になる前に移動した方がいいぞ」
『そうしたイ』
再び顔だけを砂から出したロッソが長い舌を出す。
地下室なら夜の砂漠よりはマシだけど、ロッソにとってはどうかな?
森の夜と地下室はそんなに気温が変わらないと思うので、彼でも多分大丈夫。
移動しなさそうなら誘ってみてもいい。いや、彼ならもっと深く砂に潜れば夜を凌げそうな気がするけど……。
どうしたもんかと考えていたら、唐突に後ろから声をかけられる。
「砂漠に穴を掘ったの?」
「ん? 俺が掘ったわけじゃないけど……」
振り返ると薄い青色のローブに身を包んだ小柄な姿が立っていた。
声からして女の子であることは間違いない。
しかし、ローブを目深に被っているため顔どころか髪の毛の色も彼女の肌の色も一切分からなかった。
砂漠を歩くには正しいスタイルとも言える。
俺もそうだしな。しかし、ローブを脱ぐと途端に全裸の変質者であることは秘密だぞ。
彼女は俺に問いかけたのだが、しゃがんでトカゲの名を呼ぶ。
「ロッソ、暗くなると寒くなっちゃうヨ。それとも砂の中で眠る?」
『移動したイ』
「体はあったまったのかな?」
『まあまあだナ』
のそのそと全身を砂から出したロッソはブルブルと体を震わせ砂を払うと、機敏な動作で――。
「こっちかよ」
俺の体を登り肩でとまり丸まった尻尾を伸ばす。
そんな俺とロッソの様子に対し、彼女は興味津々の様子で両腕を腰にあて下から覗き込むようにしてこちらを見上げる。
「ロッソがボク以外の人に話しかけるのも珍しいのに、肩に乗るなんてビックリだよ!」
「俺はまあ、なんか動物に好かれるんだ」
「へえ、カメレオンにも好かれるんだね」
『オレは別に気にいってなどいなイ。普通ダ』
「素直じゃないんだからあ」
長い袖を振り、けらけらと笑うローブの女の子。
『こいつが変な顔をしていタからナ。ちょっとした興味ダ』
「変な顔って……」
「そうかなあ。この人はイケメン…………だからね」
変な間があったよな……。別に無理して褒めようとしなくたっていいんだよ。虚しくなってくるだろ。
自分のことは自分が一番分かってるさ。皆まで言わずともな……。
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