第9話 氷
「よしよし、いい感じ」
青いオーラの流れを見て満足気に頷く。
四つの地下室を1セットとして上下左右にと考えたのだけど、それだと部屋と部屋の間に出入口ができてしまう形になってしまう。
そこで、各部屋に出入口を二つ作ることにしたんだ。たとえば、左上の地下室だと、上と左に出入口を作り、下と右には隣の地下室に続く通路を作成する。
こうすることで4つの壁全てに風穴ができることになり、風通しが良くなった。
風通しが良くなることで地下室の気温があがってしまうことを懸念したが、地下室の中央部分ならばほぼ変化なしだと思う。
入口付近は風が入って来るので若干熱くなっているかもしれない。
「畑用はこの作りでいこうか。居住空間はもう少し出入口の数を減らした方がいいかも」
「そうね。砂漠は夜になると急激に冷えるし、地下のいいところは気温が変わらないことだもんね」
居住空間は逆に機密性を高くし、温度変化を抑え快適に暮らせることをもくろむ。
二つの壁には通路を作らず、二か所だけ通すことにした。一か所だけだと全く風が通らなくなるので息苦しいかなと思って。
穴を塞ぐ分には穴を掘るより遥かに楽なので一旦これでいくことにしよう。
「畑用の地下室でも十分快適よね」
「だよなー」
笑顔で振り返ったタニアの長い髪がふわりと動く。
なんだかいい香りがした気がする。きっとさっき水浴びした時に使った石鹸の香りに違いない。
「まだ夜まで時間があるけど、魔力はどう?」
「あと一部屋はいける。あ、そうだ。みんな、まだまだいけそうかな?」
「もぎゅ」
「きゅきゅ」
「おう、任せておけ」と穴掘り軍団がそれぞれの鳴き声で応じる。
居住用の地下室……一応名前をつけたのだけど数字なんだよな。
2-1という名前だ。1は畑用で2は居住用。3は産業用のつもりである。ちなみに3はまだない。
将来的に鍛冶をしたり、とかに使えればなあと思って。
2-1は一番最初に掘った地下室で水浴びをするのに使っている。その隣が2-2になる。ここが次に掘り進めた地下室だな。
2-1には馬車に積んだ荷物が全部運び込まれていて、まずはその地下室に移動する。
床の一部を柔らかい状態に戻して、穴掘り軍団が掘り始めた。
深く、深く、まだまだ深く。
穴は斜めに掘っているので後から階段にするつもりだ。
「よし、ストップ。今日は俺の魔力残量のこともあるのでここで横に地下室を作ろう」
「もぎゅ」
「きゅきゅ」
俺の願いに応じ穴掘り軍団が一斉に部屋を掘り始める。
相変わらずすさまじい速さだ。この距離まで掘り進めたら土を持って行くだけでも一苦労である。
土の運搬も穴掘り軍団がやってくれるので俺はボーっと見ているだけだけなので申し訳なく思う。
「あ、またまたさーせん」
『だから、そこの子と接するのと同じようにしていいってば』
ぶすっとした顔で腕を組んだ姿で土の精霊が虚空より出現した。
「いや、そうは言っても、お願いするのだし」
『動物にもそんな態度をとってないでしょ』
ペコペコしながら土の精霊にお願いすると、ごっそり魔力を持って行かれ倒れそうになる。
タニアが後ろから支えてくれて、ふうと息をつく。
「お試しだけど、どうかなあ」
支えられながら壁を背に座り込む。
床はひんやりと冷たくほうと吐く息が白い。
指先もかじかんでくるほどだ。
「ふうー」
タニアが自分の手に息を吹きかけ体を揺らす。
彼女は俺より薄着だから余計に寒く感じることだろう。
堀り軍団は早々に退散し2-1地下室に戻った様子。
「結構寒いな。この分だとそこまで深く掘らずともいけそうだ」
「掘る? まだ掘るの?」
「うん、ここともう一部屋作ろうと思って」
「この部屋の目的は分かっちゃったー」
お。気が付いてくれたか。
「よし、答えを聞こうじゃないか」
「保冷庫よね。これだけ広かったら一年以上の食糧を保管できそうだね」
「俺たち二人と友達だけなら、そうだろうなー」
「あはは。お父さんや村の人たちも来てくれたら保冷庫を使ってもらおうってことね!」
「そそ。追加で保冷庫を作ることもわけないし。ここに住む目玉になるだろ」
「そうだね。保冷庫は高いし、魔力を補充しなきゃだし。ここなら自然に寒いものね。魔力も必要無いもん」
「だろだろお」
笑い合った後、タニアが指を口元にやり疑問府を浮かべる。
「ん? ここで十分足りるのにもう一部屋って必要なの?」
「ここよりもっと深いところだと、もっともっと寒くなるだろ。そうしたらさ、食材を凍らせることができるんじゃないかって」
「氷を作ることができるってわけね」
「確かさ、食材を凍らせると冷やすより遥かに長持ちするとか兵士時代に聞いたことがあって。高位の水の精霊使いなら凍らせて保管する魔法を使えるとか何とか」
「おもしろそう!」
「だろ」
保冷庫だけじゃなく、冷凍室まで備えているとなれば調達した肉や野菜を長期間保管しておくことができるのだ。
住む人にとって大きなメリットとなる。
地下で住むことに対し抵抗がある人が殆どだと思うけど、デメリットを上回るメリットがあれば移住しようかなと思う人も出て来るに違いない。
しばらく休んで息も整ってきたところで立ち上がり、右腕をあげる。
「よおっし、森に行くぞお!」
「森はどうしても慣れないわ。砂の街モーリスだけで暮らせるようになりたいところね」
「次は馬車一杯に食材を積んで戻って来ようじゃないか」
「採集なら手伝うわ。狩りはごめんなさい」
保冷庫があれば肉を長期間保管することができるからな。
今までは敢えて少量しか採集も狩猟もしてこなかったんだ。
そろそろ本気を見せる時が来たようだな。小さな動物たちだと侮るなかれ、特に鳥の目は優秀なんだぜ。
カラスに沢山仕事をしてもらわなきゃな。
そんなこんなで気が付けば一週間が過ぎていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます