第8話 砂の街モーリス(仮)

 さて、礫砂漠に戻って来たぞ。

 礫砂漠と呼ぶのも印象が余り良くないので、元々の村の名前であるモーリスと呼称することにしようか。

 う、うーん。もう一声欲しいな。

 

「砂の街モーリス」

「砂の『街』かあ、カッコいいかも」

「街じゃなくて村にしておこう。砂の村モーリス」

「街でもいいんじゃない?」

「元村の人が全員戻って来てくれても街と言うには遠いぞ」

「その辺はまあ、気分?」

「いずれ街の規模にまで、って意気込みを出したいってことか」

「そうそう、そんな感じ」


 まあいいか。タニアが何だかウキウキした様子だし。俺としてはそこまで村という呼称に拘りがあるわけでもない。


「それじゃあまあ、まずは馬車から荷物を降ろそう」

「うん!」


 日用品を詰め込んできたので、結構な量があるんだよね。

 そのため、友達を馬車に乗せることが難しかった。それでも、幌の上に登った剛の者や馬に乗っかる鳥という例外もいたので全員が馬車に乗れなかったわけではない。

 幌の上が乗車している状態なのかはともかくとして。

 

 荷物を地下に運び込んだら、地下室の増設作業に入る。といっても作業は穴掘り軍団の活躍ですぐに終わった。

 彼らは体力的にまだまだ行けるが、俺の魔力がもたないので地下室作りはじわじわと進めていくしかない状況である。

 焦っても進行速度が変わるものでもないので、長い休憩を挟みつつ地下室をもう一部屋作った。


「一つの部屋はもう少し広い方がいいかな?」

「この広さでも十分畑を作ることができるから、広さはこのくらいでいいと思うよ」

「丁度いい広さってことかな?」

「もう少し広くても全然おっけーだけど、これより狭いと扱い辛くなるかも」

「分かった。了解ー」


 全部同じ広さってのも芸がないし、将来的に多くの人が集まる広場や商店街も作りたいよな。

 あといくつか地下室を足したら、広い地下室も作ってみるか。


「ふいいい。水浴びするか」

「お疲れ様」


 タニアが入れ替えてくれた水筒を受け取り、さっそく口に含む。

 んー、うまい。

 

「そうだ、テオくん。ええと1-3だっけ、そこに土を敷いてみたいのだけど」

「そのまま敷いても水はけが悪くなるかな?」

「育てる植物によると思う。花壇でも底が漆喰のことがあるのね」

「難しいことはよくわからないけど……一部だけ元の柔らかさに戻すことはできるよ」

「一部を柔らかくすると魔力を使っちゃうんだよね」

「使うけど、ほんの少しだよ」

「それならテオくんの魔力次第だけど、先にやりたいことがあるの」


 ん、俺の魔力を心配してくれて土を敷きたいと言っていたのか。

 横穴を開けたりするくらいなら大した魔力を消費しない。

 地下室はそれなりに数が増えてきたし、試したいことがあるなら早い方が良いよな。

 

「何をすればいいんだろう。地下室の数が増えてきてからだと場所の問題が出て来るかもしれないからさ」

「地下室を作り直すのは辛すぎるわね……。テオくんの魔力ももちろんだけど、あの子たちの頑張りが無になっちゃうもの」


 お座りしているミーアキャットの頭を指先で撫でたタニアは我慢できなくなったのか、彼を抱き上げぎゅーっと抱きしめた。

 彼女は特にミーアキャットが気に入っている模様。

 俺の目線に気が付いた彼女は頬を赤らめミーアキャットを床にそっと置く。

 うん、本来の目的を忘れそうになっていたんだよな。彼女の気持ちは重々分かる。動物って可愛いんだよね。

 つぶらな瞳を見ているとすううっと引き込まれて時間を忘れてしまう。

 ほら、こんな風に。

 ツチブタの黒真珠のような瞳と目が合う。水面から顔をあげたので、鼻先には水滴が浮かんでいる。

 首を傾けてじっと見上げてきちゃって。


「テオくん」

「あ、すまん」

「わたしも似たようなものだったから何も言えないわ」

「それで、何をするんだっけ」


 気を取り直して、タニアが説明を始めようとして「見てて」とだけ言った。

 まずは見た方が速いってことだな。完全に理解した(分かっていない)。


「風の精霊さん、出てきて」


 彼女のスカートと長い髪がゆれ胸の前に広げた彼女の手の上に小さな人影が浮かんだ。

 人影に色が付き始め明るい緑色のワンピースを着た同じ髪色の少女の姿に変わる。

 大きさは俺がお願いする土の精霊と同じくらいで背格好も似ていた。

 この子が風の精霊かあ。土の精霊と色違い……なんて口にしたらどえらいことになりそうだ。

 一人ブルブルと心の中で首を振り青ざめる。

 くわばらくわばら。


「あなたを攻撃したりなんてしないわ」

「そ、そうだよな」

「風の精霊さん、わたしとテオくんに見えるようにしてもらえるかしら?」


 精霊の声は呼び出した本人にしか聞こえない。聞こえるようにするやり方もあるけど、余計に魔力を消費するから通常はやらないものだ。

 はてさて彼女の願いは聞き遂げられたらしく、風の精霊が小さな右手の指先を弾くと影となり消えていった。


「これで下準備完了よ。テオくんにも見えるかしら?」

「ん、何を……オーラみたいな青いモヤが見える」

「それが風の動きよ。植物を育てるには風の動きも大事なのね。入口が一か所だと風の通りがなくなっちゃうじゃない」

「風洞か。あと、日光も必要だよね」

「日光はL字型にして強い光を避けるか、小さい穴を天井にいくか開けるかかな?」

「それで風も通るかな?」

「風はそれだけじゃ足りないと思うの。入口を数か所作ればいいんじゃないかな」

 

 なるほど。入口を追加した後に風の流れが見える目で確認すれば確実ってわけだな。

 それにしても不思議な目だ。今は出口付近にゆらゆらと動く青いオーラが見える。

 オーラが見えたからと言って視界を遮るわけじゃない。


「さっそくやってみよう。ついでに日光の取り込みについても考えようか。穴の開け方によっては蒸し風呂になりそうで怖い」

「うん!」

「オススメの入口候補ってある?」

「そうね、4つの地下室が正方形に近い形で作られているから、上下左右に出入口を作ってみたらどうかな? 単純だけど」

「それで行ってみよう。作り直しもできるし」


 何事も試して見なきゃわからないよな。

 といっても穴を開けるのは俺たちではなく穴掘り軍団である。

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