第7話 もぎゅ
「村は主に農業で成り立っていたとタニアから聞いてます。元々肥沃な土地だったけど、急に干上がったとも」
「その通りよ。魔王の天変地異で村を放棄したの。それで村のみんなは王都に引っ越しよ」
「俺は農家の人を求めてるんです。礫砂漠になってしまったあの地で再び農業をやってくれる人を」
「私もアロルドも。あ、アロルドは私の旦那よ。王都でも農業をやっているけど、土地が狭くて農業だけじゃやっていけないわ」
「自分達が食べる分もですか?」
「あはは。テオくんが農家のことをよくわかってないことが分かったわ」
笑い方がタニアにそっくりだ。彼女の母親だから当然なのかもしれないけど。
土地が狭いから食べる分も作れないのかと思ったけどそうじゃないらしい。
果て、どういうことなのか?
答えはメリサではなく彼女の娘の口からもたらされた。
「野菜を育てるって言っても同じ野菜ばかりなのよ」
もこもこ犬と遊んでいたとおもったが、いつの間にリビングに来たのだろうか、全く気が付かなかったぞ。
「あ、そういうことか。色んな野菜を少量だけだと手間だけかかるし収入にもならないもんな」
「そそ。自給自足を、と思っても農具もいるし、やっぱり現金がいるのよ」
「土地が狭くて農作物も少ないから食べる用に別のモノを作るくらいなら少しでも売りものを増やしたい……ってわけだな」
「うん、そういうこと」
にひひと口角をあげ人差し指を立てるタニア。
なるほど、良く理解した。
王都と村では経済体系が異なるので農作物をそのまま王都の市場に売りに来るのか、まとめて商人や役人に渡しているのかは分からないけど「農作物を作る」という点では変わらない。
となると、十分な広さと適切な環境があれば農家一本でやっていけるってことだよな。
それなら俺の考えていたプランで問題ないはず。
「お母さん、テオくんからもう聞いた?」
「あなたに恋人がいるかはまだ聞かれてないわよ」
「テオったら、って冗談はともかく……お母さん、もう一度村で農業ができると言ったらどう?」
「タニアなら言わずとも分かると思っていたけど、あの陽射しと乾燥じゃ」
「それがさ、お母さん。あれ、テオくん、まだ言ってなかったの?」
母娘の会話を途中で打ち切ったタニアが「あれれ」と首をかしげ俺を見つめてくる。
つられて彼女の母親の視線も俺に向いた。
言おうと思ってたのだけど、その前にタニアが来ただけなのだ。決して言い淀んでいたわけじゃない。
「えっとですね、農作物を育てたいのは地下なんです。地下なら涼しいし強い日差しも当たらない。水も引き込んでます」
「タニアから見てどう? 農業はできそうなの?」
「もう少し工夫しなきゃ難しいと思う。だけど、何とかなりそう……たぶん」
地下で農作物を育てるなんて経験をしたことがないだろうから、断言できないのは当然だ。
植物を育成するには適切な気温、水、日光、あとは風が必要だったと思う。
俺には農作物を育てる知識はないから、全て適切でも育てることはできない。だけど、農業経験者なら話は別だ。
口ごもった彼女だったが、意を決したようにギュッと拳を握りしめ言葉を続ける。
「だから、うまくいきそうだったら来て欲しいの。それでね、しばらく家を空けたいの。でも、それほど時間はかからないと思う」
「分かったわ。行っていなさい。テオくんに迷惑をかけちゃダメよ」
「ありがとう、お母さん」
「上手くいくといいわね。私も手伝いたいところだけど、生活もあるからごめんね」
「わたしこそ農作業を手伝えなくて」
「家のことは気にせずに頑張ってらっしゃい。期待して待ってるからね」
ん?
俺はうまくいきそうならタニアの一家だけじゃなく元村人や他に農業経験者を募ろうと思っていたのだけど……。
今回王都に戻ってきたのはタニア一家に植物が育つか実験して育つようなら見学だけでもしてもらえないかってお願いしにきたのだ。
俺一人じゃどう転んでも農業はうまくいかないからね。
それが、タニアも実験に付き合ってくれるなんて思ってもみなかった。
「テオくん、勝手に話を進めちゃってごめんね。お父さんとお母さんを誘いたかったんだよね?」
「ううん、少なくとも雑草でもなんでも増えることを確認しなきゃ誘えないよ。今回はうまくいきそうなら協力をしてもらえないかってお願いをしようと思ってたんだ」
「絶対上手くいくよ!」
「言い切ったなー」
「任せて。これでも農家の娘なんだから」
コツンと拳を打ち付け合いお互いに笑う。
◇◇◇
日用品を積めるだけ積み込み、一路森に向かった。
目的はもちろん待っていてくれている友達たちである。
「おー。みんな元気だったか?」
「もぎゅ」
「きゅきゅ」
堀り軍団はみんな元気にやっていたようでホッと胸を撫でおろす。
彼らに負けじと砦からの仲間であるカラスとツバメに王都で友達になった虎柄の猫と白のふわふわした犬も吠えたり鳴いたりと大忙しだ。
「よおし、みんなで食事にしよう」
「今更だけど、異常に好かれるのね」
「意思疎通できるからね。だけど、小さく凶暴じゃない動物じゃないとダメだ」
「へえ。何でもってわけじゃないのね」
得心したとばかりにうんうんと頷くタニア。
動物と意思疎通できる能力は生まれついてのもので、俺だけの固有能力……かもしれない。
少なくとも俺と同じ能力を持った人に未だ出会っていないのだ。
まあ、俺の知り合いなんて大した数ではないので……いや、そうでもないか。
俺は兵士だった。その時に俺のような能力を持つ者は俺だけだと聞いたんだったよ。
動物と会話する能力とちょっとした精霊魔法を使うことがあって、単独で砦の守護を任された。
ただし、戦闘能力はない。
動物との意思疎通だって精霊魔法だってモンスターを攻撃する能力じゃないからね。
俺は動物が大好きだし、懐いてくれるのは嬉しい。
そんな彼らと通じ合えるなんて素敵な能力だろ? 戦う力より余程気にいっている。
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