第6話 サウナはよいものだ
「ふいい。こいつはいい」
思ったよりいいぞ、砂漠サウナ。
注意しなきゃならないのは、外に出た時に布を被ることだ。
馬車に積んできたローブが役に立った。直射日光を浴び続けると途端に肌が焼けそうになるので、ローブで防御しないとサウナどころじゃなくなってしまう。
灼熱の中、汗をかき、体の芯まで暑くなったら地下へ戻り水を飲みながら全身に浴びる。
この瞬間が気持ち良い。
数回繰り返すと「ととのう」と言われる状態になり、リラックス効果が増大する。
「いいねえ。こいつはいい」
「だ、大丈夫……きゃあああ!」
長く入り過ぎていたからだろう。心配したタニアが様子を見に来た。
タイミングの悪い事にちょうど素っ裸で水を被っていたので、彼女から悲鳴があがったというわけである。
いや、別に裸を見られたわけじゃないんだからそう叫ばなくても良いじゃないか。
「サウナが気持ち良くてつい、な」
「あ、頭をかかなくていいから! 隠して!」
「そうだった」
「も、もう……フラフラだったからひょっとしたらと思って」
「途中で一度声をかけに行けばよかったな、すまん」
「無事ならいいの。隣に行っているね」
何をとは言わないがぶらぶらさせながら、いそいそと体をふき服を着る。
「よっし、穴掘りを再開するか!」
「もぎゅ」
「きゅきゅ」
寝て魔力が回復したので作業再開とあいなった。
この分だと後二回くらいは土の精霊にお願いできそうだ。
「よおっし、ガンガン掘って、固めるぞお」
えいえいおーと腕を上げると掘り軍団んも一斉に声をあげた。
こんな感じで森と礫砂漠を往復する日々がしばし続く。
森で食糧も手に入るし、礫砂漠でサウナと休憩ができるのでこれだけでも生きて行くことはできそうだな、と考える自分に内心ぶんぶんと首を振る。
いやいや、日用品や装備は日々劣化していくものだ。消耗品もあるし砦時代と異なって支給品は一切ない。
現金収入が無ければいずれ息詰まる。
そのための地下空間の拡大なんだってことを忘れちゃならん。
◇◇◇
そんなこんなで王都に戻って来た。二週間ちょっとぶりくらいだろうか。
ちょっとした付き添いだけの予定だったタニアには申し訳ないことをした。一応、途中で「王都まで連れて行くよ」と打診はしたのだが、「テオくんが戻る時に一緒でいいよ」という彼女の言葉に甘えてしまった。お蔭様で王都まで往復する時間をかけずにずっと地下室作りに精を出せたわけである。
まずは久しぶりの手の込んんだ料理を……と行きたいところだが、先に目的から進めたい。
知っているか? 王都で一日暮らすにはお金がかかる。もちろん食事以外で、だ。
いや、王都の外に出て夜営をすれば問題ないのだけど、出たり入ったりは結構めんどうでね。王都は人の往来が多いが、王が住む街なのでセキュリティもしっかりしている。
となるとだな、門を抜けるためのチェックに時間がかかり、王都から出るにも決められた時間までに手続きをしなきゃならん。
更に一日に二度目の出入りについてはお金がかかってしまうのだ。王都にいて時間節約をする代わりに宿泊代を払うか、宿代よりは安い出入り料金を払って夜営をするか。
どっちにしろお金がかかる。
友達たちの多くは森で待っててくれているから、時間も惜しい。
とまあこんな理由もあって、すぐさまタニアの家に向かったわけなんだよ。
「ただいまー」
「あら、お帰りなさい。そちらが噂の彼ね」
タニアが帰るとすぐに扉口までパタパタとやって来たのは彼女の母親らしき人物だった。
髪の毛の色が彼女と同じで若々しい母親で……もしかして彼女の姉じゃないよね?
「思ったより遅くなっちゃって」
「あらあら、そんなに彼のことが気に入ったの?」
うん、これは姉じゃなく母親だな。姉だとこんな聞き方はしない。
判断基準はあくまで俺の主観である。
しかし、本人が目の前にいるってのに俺を出汁に母娘で盛り上がるとはこれいかに。
盛り上がるのはいいのだけど、そろそろ俺を紹介してくれないかな……。
ツンツンとタニアを肘で突っつくとようやく彼女が俺を紹介してくれた。
「この子が噂のテオくん。村の土地を買ってくれた人よ」
「テオくん、タニアの母のメリサよ。よろしくね」
「テオです」
人好きする笑顔を浮かべたタニアの母メリサと握手を交わす。
ちょうどその時、タニアが帰ってきたのを嗅ぎつけたのか黒いもこもこ犬が庭を走り駆け付けて来た。
「わんわん」
「ステラー」
もこもこ犬を受け止めるべくしゃがんで両手を広げる彼女の元へ犬がダイブ……せず横をすり抜けてしまう。
「こっちかよ!」
もこもこ犬にアタックされ倒れそうになりながらも彼をわしゃわしゃする。
「う、うう。ちょこっと会っただけのテオに負けた……ショック」
「ま、まあ。俺は特殊だから」
満足したらしいもこもこ犬は尻尾を振ってようやくタニアの元に向かう。
膨れていた彼女だったが、やはり愛犬は可愛いのかすぐに頬が緩んでいた。
「ああなったらタニアはしばらく動かないわ」
「そ、そうなんですか」
「ステラに会うのがしばらくぶりだからね」
「気持ちは分かる」
「うんうん」と完全同意だとばかりに首を縦に振る。
「それじゃあ、テオくん。奥へどうぞ」
「え、はい」
「わざわざ来てくれたのは、何か話があってと思って。主人は今出ているから私で良ければ聞くわ」
「ありがとうございます」
察しがよくてとても助かるよ。
タニアの母に導かれ、ダイニングテーブルに腰かける。
「どうぞ」と紅茶とクッキーを出してくれた彼女は俺の向かいに座った。
「さっそくですが、お願いというか聞いていただきたいことがあると言うか」
「ふむふむ」
「ええとですね、売って頂いた土地なので気が引けますが」
「気にしなくていいのよ。私たちだってテオくんが買ってくれたからお金が手に入ったんだもの」
たどたどしい俺に対してもにこにこしたままの彼女。
そんな彼女に対し初対面で緊張していた気持ちが氷解していった。
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