第3話 頼んだぞ、堀軍団!
「あ、あの。売るって土地のことですか?」
「そうだよ。娘から聞いていたのかな。村だった場所は今売りに出しているんだ。少しでも村人の足しになればとね」
「え? タニアの一家の土地だけじゃなく、村全体を、ですか?」
「おや、娘から聞いていなかったのか。そうなんだ。村人全員が賛成してね、枯れた土地でもまとめてなら何らかの用途に使えるかもしれないとさ」
そう言って苦笑いをするタニアの父が大きく肩を竦める。
タニアの家は村長一家なのかも。少なくとも村人全ての意見をまとめる役割を任されるほど彼らから信頼されていることは確かだ。
土地って領主が所有しているのかと思ったが、違うところもあるんだな。
ともあれ、村丸ごとの土地を購入できるなんて素敵な話だ。
目の前に夢のような話が転がっていたら食いつくのが人ってものだろう。
「販売価格を教えてもらえますか?」
「もちろんだよ」
と見せてもらった紙に土地の場所と広さ、そして価格が記載されていた。
「お、おお。随分と安いんですね」
この価格なら王都外の小さな農場を買うのとほとんど変わらないじゃないか。
思わず口にするが、タニアの父は目をつぶり首を横に振る。
「最初はもう少し高い価格にしていたんだ。農業も牧畜もできないうえに王都からも距離があるからね」
その地で自給自足できず、食べ物は他から持ち込まなきゃいけない。
それなら王都の外の小さな農場を購入した方が断然良いと思うだろうな。
……とここまでは普通の人の考えである。
しかし、俺は違う。
まとまった金もここにある。
といっても、俺が農業について素人なのは変わらない。
「買わせてください。あともう少し色をつけさせていただきますので、農家だった元村人の誰かから助言をもらいたいんです」
「助言も何も。あの土地で農業はできないよ。完全に干上がってしまって、礫砂漠になっているからね」
「実際に見てみるまで必ずとは言い切れませんが……」
「おもしろう! テオくん、わたしが付いて行ってもいいかな?」
話に割って入って来たタニアがぐいっと俺の腕を掴む。
「タニアをずっと雇うお金までは持ち合わせてないんだけど……」
「おもしろうだから付いて行くだけだからお金なんて要らないって!」
「食事代くらいは出させてもらえるか」
「ありがとう。畑のことは任せて! ほんとうに農業ができるなら、だけどね」
彼女だって仕事があるだろうに、いいのかな?
つい話を進めてしまったが、勢いだけの自分に反省する……が、乗せてしまった手前彼女に水を差すのはちょっと。
そこで、彼女の父と目が合う。
「タニアのことなら心配せずともいいよ」
「あ、しかし」
「なんてことはないよ。今の時期は大してやることはないからね」
「そういうこと! ちょうど暇な時期なの」
片目をつぶる父娘の仕草がそっくりだった。
彼女らは王都でも農業をやっているのかな? いつが忙しいとか俺にはわからないけど、父親もそう言うなら甘んじて助けてもらうことにしようっと。
幸い、魔王が討伐されてモンスターの危険も激減したし、彼女を危険な目に合わせることもないだろうから。
万が一の時は、俺がなんとかする……きっと。心意義だけは買って欲しい。
◇◇◇
「うはー。確かにこれは農業どころか生きていくのも厳しいな」
「言ったじゃない。それでどうするつもり?」
タニアの大きな目がワクワクで満ちている。
そんなに期待されても……。彼女には何とかできる、と言い切っちゃったもんな。期待の視線も当然と言えば当然か。
タニアの父から購入した土地は兵士の給金三年半分くらいだった。
なので、一年半分のお金は残っている。
そのお金の一部を使って馬車を用意した。馬車から降りた俺は一面に広がる乾いた大地に「うはー」と声を漏らしたってわけさ。
それにしても見事過ぎる乾いた土地だな。
地面は完全に乾燥し、熱気がもわもわとあがっている。赤茶けた大地にはポツポツと緑があった。
植物ってすごいな、これほど乾いた土地にでも生えてくるものなのだな。
この熱気と乾燥は人が住めるレベルではない。
これが礫砂漠と言われる土地なのか。馬車から出たばかりだというのに額に汗がにじむ。
その場で膝をつき、かりかりと指先で地面をひっかく。
「よし、一旦戻ろう」
「やっぱり、難しいよね。お金のこと、お父さんに相談するね」
「いや、戻ると言っても王都に戻るわけじゃないよ。来た道を少し引き返す」
「何か策があるの?」
「そそ、まあ、物は試しってやつだよ」
王都から馬車で二日。ここに至るまでには緑豊かな自然もあった。
硬い岩盤だらけだったらと思ったけど、元々は村だったこともあって柔らかい場所もありそうだったからなんとかなると思う。
一日経過する頃には馬車の中には収まりきらず、外にもゾロゾロと友達がついて来てくれることになった。
てなわけで、再び灼熱の乾いた大地に戻って来たぞ。
「頼んだぞ。俺の友達!」
「もぎゃー」
「ぐるるる」
「きゅきゅ」
「もきゅ」
集まったるはそうそうたるメンバーである。
アナグマ、ツチブタ、イタチに似たミーアキャット、トゲトゲが可愛いヤマアラシの四種だ。
よくもまあこれほどの友達を集めることができたものである。それぞれが一匹じゃなくて、多いものは十匹以上いるんだぜ。
彼らは一斉に地面を掘り始める。
「す、すごい。こんな沢山の動物たちを操って、この子たちの力もこれほどなんて」
「小さな動物たちって実はとんでもない能力を秘めているんだ」
圧倒され開いた口が塞がらないタニアに親指を立てて自慢する。
そうこうしている間にも人一人分ほど深さまで掘られ、更に深く深く彼らは掘り進んで行く。
地上からならだかな斜面を下り、五メートルほどの深さまで進んだところで四角い地下空間ができあがっていた。
このままではいつ崩れてきてもおかしくない状態なので一手間加えなきゃな。
「次はどうするの?」
「まあ見てて。ここからは俺の力の見せ所だぜ」
と偉そうに言ったが、それほど大したことをするわけではない。
一人で砦を任されるってことは砦を一人でメンテナンスしていく能力があるからである。
動物たちが補修ポイントを発見してくれて、彼らだけでも補修できることが殆どだが、破損が大きい場合や悪天候の時に崩れるのをふさいだりってことは彼らじゃ難しい。
そうなった時は俺の出番だったというわけである。
今からそいつを見せる時だ。
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