第5話 コロニーテロ

 海戦の際に撮影された写真をカールが受け取り、目を見開く。


「ミニチュアを撮影して私を騙そうと……」


 カールが、写真の在りえない状況を見てそう呟き、部下の深刻な表情を見てそれが事実であると悟った。


「こんな兵器どもにどう勝てばいいんだ」


 彼女の頭の中に、選択肢が一つ浮かぶ。


「戦略だ。戦略兵器を持とう」


「戦略兵器のあてはあるのですか?」


「核兵器を作る」


 海戦の大敗によって連邦は条約に調印することを決め、条約によって多額の賠償金と鉱産資源が豊かな土地を奪われて戦争が終わった。


 そこから、三年の月日が流れる。核兵器が使われることは一度もなく、小さな紛争も起きない束の間の平和を三つの国の人々は過ごした。


 しかし、その三年の間にも帝国では大軍拡が行われた。無数の戦車部隊と、完全に要塞化された国境線。ミサイル基地が、連邦内の飛び地にまで作られた。その戦力は、連邦どころか、連合共和国と同等とも噂された。


 二体の鋼鉄の怪物と、ローブを被った男が描かれた風刺画の載った新聞をカールは読んでいた。


 大量に配備されたミサイル駆逐艦と自走式のミサイル発射台。それらの研究過程で生まれた重力を振り切れるロケットは最大の産物だった。


 帝国民に宇宙移民という言葉が、少しずつ近づいていた。共和国は三年の間に大量の円柱状の宇宙コロニーを作り、一足先に宇宙に移住していたのだ。


 共和国の住民は七割が既にこの星の上に居なかった。宇宙移民の政策を進めるには、人口の少ない帝国は最適だった。


 時代の流れは、宙に向いていた。連邦も帝国も、宇宙コロニーを共和国から買い取ることで、宇宙での夜明けを迎えることを決めた。


「帝国の議会を、宙に移そう。そうしなければ、棄民に見える」


 議会をコロニーに移した帝国や共和国とは対照的に連邦は地上に残したままだった。


 それから二年後、戦略兵器が生んだ国同士の平和は静かに崩れていく。


 戦争では兵器が最も強く、帝国と共和国の勝利は揺るがなかったが、テロであれば、連邦の人間の魔法ほど素晴らしいものはなかった。正確には、魔法の持つ爆発力ほど強力なものはなかった。


 棄民政策によって連邦の人間に溜まった不満が、奇怪な形で爆発した。


 連邦の人間のコロニーが団結し、新たな国家ナシュオン王国を名乗る。それらの生産した人型の杖は絶大な性能を誇り、二つの議会コロニーのパトロール艦隊へ襲撃を行った。


 最初に犠牲となったのは、杖部隊の進路上にあった共和国所属のエクスプロージョン級ミサイルコルベットの三番艦EX3。量産性を売りにした共和国の艦艇は、怒りと共に出力を増幅させた杖を捉えられぬまま、爆沈させられた。


 五機の杖は、残りの艦隊を無視してエアロックをこじ開けコロニー内に侵入した。


 帝国の戦闘を続けるコロニー内の基地で、一機の機体と青年が都合で出撃できていなかった。


「なんで俺が出てはいけないんです!」


 青年ザッツは、整備兵に異議を唱えていた。


「こいつはビオカウンターって装置が通信装置に干渉しちまうんだ。だからこの機体では出撃できない」


 そんな整備兵の言葉の直後、コロニーの外壁から内部に音が響く。


「そんな場合じゃないでしょう!」


 青年は整備兵を投げ飛ばし、白い機体のコックピットに飛び込んだ。


「こいつの名前はリアレとか言ったっけ」

 

 リアレは近くにあったアサルトライフルを持って発進し、コロニーの外に飛び出た。


「こいつら、空気を抜く気か!」


 三機の生物的な外観の機体が、コロニーの外にいた。放熱板とレドームが蜻蛉のような印象を見た人間につける。


 それらは駐在艦隊の攻撃を躱しながらコロニーの要塞砲を破壊し、さらに外壁に向けて魔法を打ち込んでいた。


 リアレは問答無用の重金属ライフルの連射で、それらを攻撃する。狙いを余りつけずに放たれたそれは、弾幕になってそれらを破壊した。


「重金属ライフルなら通じる……」

 

 周囲を眺めるザッツを強烈な精神のエネルギーが襲う。


「なんだ? 通信がおかしいぞ」


 すぐに、遠くから接近する物体があることと、徐々に通信のエラーが強くなることに気づいた。


「奴が出どころか!」


 そちらに向けてライフルを撃つが、通信へのダメージのせいで当たらない。遠くから接近していたそれがリアレの横を通り抜ける一瞬で、ザッツはそれが航空機に近い形なことに気が付いた。


 その航空機はすぐにその場を過ぎ去り、反逆したコロニーの一つに入る。


「やはり、特別な機体がいたか。おい、戦闘用の奴を出しておけ」


 航空機から降りたリベッチオは、近くのメカニックに命令を出し、すぐにこの騒動の指導者の元へ向かった。


 そこへ、コロニーのエアロックをこじ開けてリアレが現れた。


「なんだと!? そいつで侵入してくるとは……」


 リベッチオは近くのハッチを開け、地下にあった巨大な機体を起動させる。


 地面がせりあがって付近にいた人間を巻き込みながらリアレの前に現れたそれは、人間の5倍以上のリアレのさらに7倍の巨体で、リアレに迫った。


「バケモノか!」 


 リアレはすぐに入ってきたばかりの穴から脱出する。


「逃がすものか!」


 巨大な青い怪物は、手のように見える2基10門のレーザー砲で着地口付近に大穴を開け、コロニーの外に脱出した。


「あんなことをすれば、コロニーの空気がなくなってしまう! あれのパイロットは何を考えているんだ!」


 奇行に見えたそれに、ザッツは叫んだ。


「あんな愚か者どもを生かしておいてなんになる!」


 通じるはずがなかったが、怪物からの反論の通信が入った。


 

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