第4話 ルイン沖海戦

「ラビノ隊。出るぞ!」


 ラビノ率いる青いローブを纏った12人の魔法使いが、杖に乗って戦列艦から飛び出した。


「デケードを出せ!」


 空母ウイングレイズのカタパルトが、蒸気を出しながら灰色の航空機が発進させた。灰色の機体はすぐに亜音速に達し、帝国第二艦隊の上を通り、戦艦イスマルクの上空を飛んで、ラビノ隊と会敵する。


 デケードはステルス性が極めて低く、最高速も低い。これらの原因は、変形機構にあった。変形し、人型になったデケードは、腕部についた無砲身のレーザー銃を魔法使いの一人に向けて放った。


「豆鉄砲が効くか!」


 青いローブは、光線を弾いた。すぐに、12人からの反撃の魔法がデケードを襲う。


「そんな弾速でデケードに当てられるものか!」


 デケードが再び変形して亜音速になり、上空に飛んで魔法を躱す。すぐに魔法使いの隊列の上から急降下しながらレーザーを撃つが、やはり効果はない。


 海に向けて急降下し、追いきれない魔法使いを尻目に、海面を風で巻き上げながらその場を去った。


 アングルドデッキに戻ってきたデケードの伸ばしたフックが、空母のワイヤーに引っかかり、デケードは動きを止める。


「私が出よう。Mark3を出してくれ。今の距離なら可変期の航続距離は必要ない」


「何を言っているんですか。ローダンセ議員。あなたがこの艦に乗っていることすら機密事項なんですよ」


 艦載機用の昇降機の前の端で整備兵に怒られた議員は、仮面を手に取り被る。


「これで、私はただのパイロット。セヴォンド・ラジーア大尉だ」


「屁理屈にもなってないですよ」


「私より優秀なパイロットがいるか?」


 さんざん揉めた後、甲板からハンドガンを持った金色の人型の機体が発進した。


「アルストロメリアMark3フライトカスタム。こいつなら……」


 Mark3が飛び始め、全身のスラスターで凄まじい加速を行う。全身の推進機を用いて亜音速で飛行し、ラビノ隊に爆撃を受けている戦艦イスマルクの上空へあっという間に到着した。


 十発以上も爆撃を受けながら、今だ健在な戦艦を尻目に、ラビノ隊の攻撃の矛先はMark3に向いた。


 空中での戦闘が始まる。戦艦からの必死の対空砲火を高速で躱しながら、魔法を打ち込むラビノ隊と、機体を少し捻るだけでそれらを外すMark3。


「こいつ、上手い!」


 ラビノはそう叫び、ハンドサインで部下に広く散開させた。


「見えた!」


 魔法使いの一人の動きを読み、Mark3はハンドガンの引き金を引いた。極超音速の重金属粒子が放たれ、魔法使いに直撃する。それは、人を身に着けていたものごと融解させて墜とした


「「スエット!」」


 友人が墜とされ、名前を呼んでしまったことで動きが鈍った二人をさらに撃ち落とした。すぐに9人はその場から逃げ出した。


「いい気分ではないな。生身の人間を墜とすのは」


 彼女らを追おうとしたMark3を、小型の杖が取り囲む。Mark3は直ちにその包囲から抜け出し、杖の一つを撃ち落とす。


「そういう手合いか!」


 急加速で杖を振り切りながら、逃げるラビノ隊を追う。道中で遭遇した戦列艦に急降下射撃を加え、三隻ほど轟沈させた。


 しかし、もう少しで武器の射程にラビノ隊を入れられるというところで、記録にない艦艇の反応があることに気が付き、警戒して高空に舞い上がった。


「我々は助かったのか?」


 ラビノ隊は、その艦艇に着地した。


 超軍団魔法矢発射装置を備えた新型戦列艦は、その臼砲を高空のMark3に向ける。


「我々の着地が遅れていたら、巻き込まれていたのか?」


 そう訪ねるラビノに、艦長は首を傾げた。


「それを聞く意味はあるのか? 君はここにいるだろう」


「ケッ」


 ラビノは、近くの椅子に音を立てて座った。


「なんだ? 下がやけに静かだぞ?」


 下の状況を示すモニターを注視したセヴォンドは、魔法の力の奔流を感じた。


「何かが来る!」

 

 静かに痛々しい声でそう叫び、さらに上空に逃げ出す。次の瞬間、無数の、光をはなつ矢が、Mark3を追って臼砲の砲身から飛び出した。


 Mark3はそれを大きな動きで回避し、臼砲を持たない戦列艦の元へ急降下して、機関部を撃ち抜いた。光る矢は、Mark3を追って戦列艦の上に降り注ぐ。


「まだ追ってくるのか!」


 Mark3は海面を飛び、後ろに向けてフレアとチャフを放出した。それらは、矢や海水とぶつかり、高温の煙の柱を作った。そこへ、すべての矢は次々と突っ込んでいった。


 すぐに最高速でMark3はその場を去った。


 戦いの始まりからずっと潜行していた戦艦ネイビーが空中に浮上した。


「全機帰還させろ。放散爆裂砲発射用意」


 ネイビーの艦首が開き、現れた穴が赤い光の粒子を出し始める。


「自動標準完了。エネルギー充填100%」


「撃てえ!」


 赤い閃光が、発射された。すぐに三つに分かれ、それらが合流してぶつかり、無数の光の束に拡散する。


 光の束は次々と戦列艦を貫き、二つ折りにして爆沈させていった。


「この艦しか、残らなかったようだな。撤退するぞ」


 一隻残った新型戦列艦は高速でその場を去った。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る