第3話 第二次三国同盟

 内陸部の要塞線に向けて、連邦の一号大隊の3000の騎兵が進んでいた。


 列車砲と榴弾砲の弾幕が、爆音を立てながら連邦の陸上軍を文字通り粉砕していく。連邦の一号大隊の3000人の騎兵は、戦闘が始まってから三時間でほとんどが肉塊と化した。


 少し遅れて到着した飛竜騎兵が地上からの対空砲火を受け、次々と撃ち落とされながらも、高度1000mほどから要塞に魔法で出した人間ほどの体積の鉄塊を落とし始める。


 鉄筋コンクリートのトーチカは時速約400kmの鉄塊の直撃には耐えられず、破壊されていった。


「重戦車を出せ!」


 『WW』に掲載されていたティガー戦車の後期型を参考にした百両の重戦車は帝国にとって決戦兵器だったが、早期に出撃させることが決まった。


 輸送用の列車から発進したティガー十両がコンクリートと鉄筋の残骸を踏み越え、攻撃の止んだすきに造られた簡易的な橋で川を渡る。


 連邦軍の地上魔法部隊で主に使用されている『魔法』は貫徹魔法であり、魔力の塊を高速で打ち出して、約450mの距離から60mmの鉄板に穴を開けることができる。


 ティガーの正面装甲は100mmだ。そして、主砲の88mm砲は2000mの距離から84mmの装甲版を撃ち抜くことができた。


 蹂躙だった。騎兵部隊が壊滅し、駐屯地から逃げ出す魔法使いたちをティガーが時速40kmで追い、次々に粉砕していった。


 開戦からひと月が経った時、陸軍は内陸の三つの市を簒奪していた。


 陸での圧倒的な勝利と対照的に、海の戦闘は帝国の大敗であった。購入したばかりの海軍戦力の半分は、すでに海の底に沈んでいた。


 その原因は、連邦軍のたった一人の魔法使いにあった。金髪碧眼に白い肌。身の丈よりも巨大な杖に乗って空を飛ぶ少女ラビノ・ラビノの爆撃魔法は、500kgの爆弾を投下した時と同じ威力で、帝国の対空砲で撃ち落とせないほど初速が速かった。


「第一艦隊は壊滅。第二艦隊の艦艇でも対応できるとは思えません」


 慌てた顔の海軍将校が、震えた声でカールに助けを求めた。


「大丈夫だ、明日到着する連合共和国の洋上空母機動部隊は戦局を変える力を持っている」


 彼女は将校にそう伝え、幾つかの試作機の開発を見て回る。連合共和国で完成したが扱いに困っている幾つかの技術を取り込もうと試行錯誤している研究者を、皇帝は嬉しそうに見ていた。


「なぜ笑顔なんです? 開発は難航しているんですよ」


 それを近くで見ていた少年ザッツ・ゲルトが、彼女に突っかかった。 すぐに彼の上官マイル・ラヒムが頭を下げにやってくる。


「申し訳ありません陛下」


「いいさ、彼はまだ我々への差別を知る世代だからね。空母の建造が間に合わずにただの人間種族の国家に助けを求めたことに腹が立つこともあるだろう」


 僅かに自分より低い身長の少年ザッツの頭を、カールは笑顔を向けながら撫でた。


「君はもうすぐ飛行機乗りか。ぜひ、頑張ってくれたまえ」


「分かってますよ。あなたに言われなくてもね」


 少年はそう言ってカールに背を向けて歩き出した。


「ザッツ君。口を閉じないか」


 冷や汗をかきながら、マイルがザッツを連れて行った。彼女は、それを微笑みながら眺めている。


「あの時の少年が三年ほどであんなに元気になるとは」


 開戦から二か月目の始め、この戦争での最後の戦闘となるルイン沖海戦が始まった。


 帝国最後の第二艦隊と、連合共和国の第十二洋上空母機動部隊。戦艦三隻、空母一隻、巡洋艦四隻、駆逐艦十四隻の合同艦隊だった。


 それに対するは、連邦の第五艦隊。魔法戦列艦十八隻、魔法防壁艦五隻。


 船の数は22と23でほぼ変わらず、砲戦では合同艦隊が有利で空戦では連邦艦隊が有利であるとカールは考えていた。


  

 連邦の12番戦列艦から飛び出した杖に乗った偵察係と、共和国の戦艦イスマルクから発進した偵察機がお互いを空中で発見した。

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