第2話 独立駆除作戦
三か月後、帰還した使節団は綿火薬を含む圧倒的な技術を持ち帰った。
「よくやった! 素晴らしい」カールは笑顔で彼らを迎えた。
「すぐに、これを利用した武器の開発を始めよう」彼女の開発させた武器の矛先は、西の魔物に向けられることを予定していた。
族長となってから半年後、連邦の知識人の所へカールは訪れた。顎髭を蓄え、深いしわのおおい老人は、机を挟んで自身の向かい側の少女の行動に首をかしげていた。
「確かに、連邦はあの土地に手は出さん。だが、それは魔法を封じるからなのだ。勿論奴らが広いマクウサ川を越えられぬから連邦に手出しができない。連邦が血眼になって対策する必要がないという理由もあるが……。マヤ女史のようなオルカメ族は、魔法を主に使うはず。なぜ、その場所へ進みたがる? まあいい、私が情報を流さぬことで君たちに被害が出てはいけない。何を知りたいのだ?」
「どんな魔物が出るのかが知りたい」
「……人型の魔物だ。全身が甲冑以上の耐久性を持ち、レイピアで頭を刺し貫いても効果はなかったらしい」
「ありがとう、ではもう一つ。地形についての報告はあるか?」
「平野だが、若干の起伏があった。そして詳細のわからない建造物がある。みればわかるだろう」
「それは……非常に有益な情報だ。感謝する」
カールは立ち上がり、老人に深く頭を下げた。
「そういう商売だ。私の知ることは有益でなければ困る。帰る前に、茶でもどうだ?」
老人は茶葉の瓶を持つが、カールは首を横に振った。
「今は急いでいるから遠慮させていただく。また今度の機会があれば、その時はぜひ頂こう」
少女は、礼をして老人の小屋から去った。それと入れ違いになってリベッチオが小屋に入る。
「新しい族長の少女は、あの土地に何をするつもりだと思いますか?」
「盗み聞きか、行儀の悪い」
「彼女らは、西の土地を手に入れるつもりらしい」
「オルカメ族が減るのはまずいのでは?」
「彼女は、策がある者の目をしていた。大きく減りもするまい」
ごく一般的な感性を持った連邦の官僚リベッチオは、オルカメ族の作戦に不信感を抱き、それを上官に報告することにした。
カールは技術者を集め、技術開発局という名の研究組織を作った。
カールは砲の開発と綿火薬の製造に、自身と同族の技術者の時間を費やした。後装式の80mm口径の砲の開発と製造は、オルカメ族のもつ金属資源と、その加工技術により三か月で終えられた。
技術者達の間で計画された榴弾砲の試射が行われる。数百メートル先の樫の木に向けて砲を打つというものだ。
研究者と共に、カールは砲の後ろに設けられた仮の観覧席からそれを見ることになった。
カールは観覧席の中に自身が族長になったことを連邦に報告した際に手を振ってきた二人の少年を見つけて、微笑んだ。そして、次男がカールに憧れていると度々語っていた技術者カック・ゲルトを思い浮かべる。
「あの子たちは、カックさんのところの?」
「そうです。大人数でなければ他人を招待しても良いと所長が仰ったので」
その榴弾砲の打ち出した弾は、的になった遠くの樫の木の幹をいくつかその爆発によって破壊し、扇状に薙ぎ倒した。
「我々は、素晴らしい武器を得た! これがあれば西の魔物に勝利できる」
それを見たカールは、笑顔で技術者たちを絶賛した。
全部で十二門の砲は魔物をすべて西の土地から追い出すには足りなかったが、魔法なしに魔物を打ち砕き、土地の3%を占領することを可能にさせた。
すぐに有刺鉄線を占領した範囲に張らせ、それを撤去しながらコンクリートで壁を作らせていった。
コンクリートの壁を半分ほど作り終えたところで、再び選挙の時期がやってくる。しかし、広い土地を占領できたことで彼女は選挙に圧勝し、族長を続けることが可能になった。
その後、一年のうちに魔物に占領されていた土地の南、全体の3割の部分を奪い取り支配した。そこに工場を立て、対空砲の研究が始まった。さらに、ナーガから輸入したジャガイモの生産も怠らなかった。
オルカメ族は、カールを皇帝にして、アルカムエス・ライヒつまりアルカムエ帝国という国家を名乗り始めた。
そして、さらに二年かけて西の土地は完全にオルカメ族の物となった。魔物がいた土地には工場が立ち並び、大陸の中で最も高い工業力を持った存在に彼らはなった。
蒸気船が毎日のように港を出入りし、工業製品を売りに出しに行く。時には、過去の時代に奴隷として売られた者の子孫を連れ戻すこともあった。
連邦へ売り出す魔鉱石の量は減り、高く買う他国への量を増やす。
遺跡があった場所だけは保護され、大量の軍需工場とそれを守る基地、さらに開発が完了した88mm対空砲と、建造する時間のなかった戦艦や巡洋艦の主砲を流用した榴弾砲鉄筋コンクリート造の要塞。
軍需工場を繋ぐ列車の路線を利用できる純国産の列車砲が製造され、十二分に連邦を狙えるように新たな線路が引かれた。
三年の間に付近の国同士で統合したマドスナッザ及びシデン連合共和国から提供されたレシプロエンジンの技術は彼女の計画に絶大な効果を与えた。
空母の製造が始まり、それに合った水上機の開発も始まる。そして、開発が完了するまでの海戦能力を補うために、戦艦二隻と巡洋艦六隻、駆逐艦二十隻を購入した。
そして、連合共和国に遺跡の建造物を売り渡した。連合共和国と王国はアルカムエ帝国に同盟に入ることを打診し、帝国はそれに応えた。
この同盟は、三つの独立国が同盟を結んだ二度目の例だったことから第二次三国同盟と呼ばれた。
要塞を作り、輸出を減らし、敵国から様々な物を購入したアルカムエ帝国はついに連邦からの宣戦布告を受けた。
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