第四話「配信助手と新たな仲間」



「あ、いたいた────こうして話すのは、久しぶりかも?失礼するね」


 リリィは嬉しそうに手を振り────そして、一人でお茶会を行っていた彼女に話しかけ、対面の席に座る。

 彼女が話しかけた人物もまた、リリィと同様に貧民育ち────なんなら、リリィと出身地すらも同じなのである。

 彼女の名はアイラ•イリエル────『ラレンティーヌの花園』に於ける、主人公の幼馴染のポジションに該当する存在である。

 彼女は『ラレンティーヌの花園』内に於いては、リリィの恋路を支援するサポーターとしての立ち回りを担っていた。

 彼女は感情が表には出さないように努めているものの────リリィから話しかけられた事に対する喜びを隠しきれず、口角が上がる。

 

「そうだね。貴方とこうして話す機会は、最近無かったから……あの女のせいでね」


「……?」


 ────しかし、嬉しそうだったのは束の間の事だった。

 彼女は今のリリィを取り巻く状況を、あまり快く思っていない────自分という友人を頼る事もなく、あの貴族の元にリリィが入り浸っている状態を────快く、思っていないのだ。


「……最近、どう?あの人の配信に出てるみたいだけれど」


 アイラは冷静を装いつつも、さり気なく彼女に最も気にしている事を尋ねる。

 配信を見る限りでは、リリィは楽しそうではあるが────しかし、その背後で何があるかまでは分からない。

 リリィがあの配信の為に。酷使され続けてる可能性だってあるのだ。

 故にこうしてアイラは、彼女に探りを入れる必要があると考えていた。


「ひょっとしてアイラちゃん、配信見てくれてるの?」


「勿論。私が貴方の活躍を見逃すはず無いじゃん」


 それに、あのグロウリアとかいう女に何かされていないか────それを確認するためにも、配信を見逃すはずがないじゃん。

 と、そんな本音を辛うじて隠し切ると同時に、アイラは平静を装い続ける。

 よく見れば手首は小刻みに震え、手に持ったティーカップを落としかねない様子であり、側から見ればバレバレの演技ではあったが────幸いにも、主人公故か変な所で鈍感なリリィには、どうやらその演技は無事に通用したようだった。


「それで、忙しくはない?辛かったらいつでもやめて、前みたいに私と一緒に遊ばない?言いづらいんだったら、私が直接あの人に物申すけれど」


「あはは、そこまでされなくても……確かに忙しくはあるけど、その分楽しいかな。リアちゃんはああ見えて可愛いし、良い子だからかな……一緒に居るだけでも、すっごくすっごく楽しいの」


「そう────って、待って。リアちゃん?」


「……?リアちゃんはリアちゃんだけど、それがどうかした?」


「──────」


 アイラ•イリエルは絶句した。

 そして、必ずかの邪智暴虐かもしれない貴族をリリィの側から除かなければならぬと決意した。アイラには配信がわからぬ。アイラは、彼女の幼馴染である。幼少期を共に過ごし、共に遊んで暮らしてきた。故にリリィに近づく邪な気配(当社比)に対しては、人一倍に敏感であった。


 しかしアイラにも常識はある。

 貴族に逆らうとロクな事にならない事は────彼女はよく、知っている。

 たとえあだ名呼びという特権を先に奪われようとも、アイラはまだ冷静を装い続ける。

 

 最初にリリィがグロウリアと接触したと聞いた時は驚きはしたものの、即座に何かしらの行動に移そうとは思わなかった。

 リリィはなんだかんだで、私の元に戻ってくるだろう────そんな慢心にも似た余裕が、彼女の焦りを取り除いていたのである。


 しかし現実はどうだろうか。

 リリィは常日頃からあの女の部屋に入り浸る様になり、幼馴染である自分と会話する機会も限られる様になってしまった。

 なんなら彼女は、リアちゃんという愛称でグロウリアの事を呼んでいるではないか。

 自分には彼女からのあだ名はなく、未だにアイラちゃんと呼ばれ続けているというのに……自分は一緒にお風呂に入った事もある仲だというのに、幾ら何でもあんまりである────!


 ……というのが、アイラ•イリエルの考えだった。

 

 要するに彼女は、幼馴染を取られた事に対する憤りを感じていたのである。

 これが対象が異性だったら話は変わっただろう。

 リリィの恋路の為にも相手を見定め、そしてその道が正しければ可能な限り導く────頼れる友人として振る舞っていただろう。


 しかし彼女を陰ながら守る為の大切な役割────友人のポジションだけは譲れなかった。

 その立ち位置は、アイラ•イリエルの存在価値と言ってもいい。

 彼女が自己を保つ為にも、必要な事なのだ。


 故に今の彼女は、憎き宿敵────グロウリア•ダークウィルを排除しようと考えていた。

 そして、そうとも知らずリリィは────


「そうそう、リアちゃんと一緒にダンジョン攻略配信を行うって話になってるんだけど、メンバーが足りなくて……アイラちゃん、時間があったら付き合ってくれる?」


「…………」


 ────なんという僥倖だろうかと、アイラは思う。

 グロウリアを間近で認識し────そして対処する上では、絶好の機会であると言わざるを得ない。

 自分の立場を脅かす相手の懐に、潜り込める────この機会を、アイラが逃す筈もなかった。


「うん、勿論。いずれ、グロウリアさんには挨拶に向かわなきゃって思ってたの────その、ダンジョン攻略配信?に私も参加させて」


「ほんと?やったぁ!これでリアちゃんが集めた人を合わせて四人だ〜!」


 これでリアちゃんの為になるだろうと思い、はしゃぐリリィ。

 しかし、彼女は知らない。

 彼女の為に思って集めた人材が────他ならぬ、グロウリアに仇なそうとする者である事を。


(待っててね────リリィ。私が必ず、あの女の化けの皮を剥いでやるんだから!)


 アイラは微笑みながら、そう決意する。

 彼女にとって、リリィは守るべき存在────守らなければならない存在。

 己の存在意義を、立証するための存在。


 故に、それを脅かす存在は敵だ。

 ただでさえ『ラレンティーヌの花園』内でも思いが時折溢れていた彼女ではあったが────この世界に於いてリリィが、グロウリアという新たな友達を得た事で、いよいよ彼女の思いは止まらなくなった。


 そしてもう間も無く、彼女とグロウリアが接触しようとしている。

 遠からず────彼女とグロウリアが衝突するのは、目に見えている事だった。


 

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