第三話「悪役令嬢と新たな仲間(2/2)」
「で、結局何の為にここまで来たの?わざわざ政治自慢をしに来たわけではないでしょう?」
「おっと……それもそうだった。俺とした事が、本題を語っていないままだったな」
カリスがわざわざこの学園に来てまで、自分に会いに来た理由────ヒカリにはそれが、分かっていなかった。
故に彼に尋ねる────果たして、何故に自分に話しかけに来たのか?
そしてその答えが今、彼の口から明かされた。
「────一度、君に謝っておきたいと思ってね」
「……貴方が私に、何の理由で?」
意外にも、深々と頭を下げてきちんと謝罪を行うカリス────つい最近も、ヒカリはこういう光景を見た気がした。
しかし、彼が謝る理由────ヒカリにはそれが分からない。
「勿論それは、あの日の決闘の事だ……俺自身よく覚えていないものの、あの時の俺は殺す気で君に挑んでいたようだ。故に、一度謝っておく必要があると思っていた────結果として謝罪が遅れてしまった事も申し訳ないが、罪滅ぼしとしてなんでも一つ、叶えられる範囲で君の願いを叶えたいと思う」
「いや、あれは事故みたいなものだったでしょうし、なんでも一つって……」
────まさか、この男がここまで尽くす男だとは、ヒカリにも想像できなかった。
いや、想像する事自体はできた────ただ直接それを味わうと、思ってた以上に驚いてしまうというだけだ。
確かに『ラレンティーヌの花園』に於いても、周囲に異常なまでに尽くす彼の描写はあったものの、実際にこうして張本人として目の当たりにすると、衝撃が強い。
なんでも一つ願いが叶えられる────その言葉はあまりにも魅力的だし、それは相手を信用していなければ出ない言葉だ。
一体いつ自分は、彼からそれほどの信用を勝ち取ったのだろう?という疑問もあるにはあったが、今はどの願いを叶えるかでヒカリの頭はいっぱいだった。
今の彼女には、あまり欲というものはない。
配信暮らしに対する拘りはあるものの、今はそれに熱中しているだけで、ふとしたキッカケで冷めて一瞬で辞めかねない────ヒカリにとっては、その程度の位置付けに値する拘りだ。
けれどもまぁ、それ以外に求めるものがないのも事実。
それにちょうど今、彼女は一つの悩みに直面しているのもまた事実である。
故に、彼女は────
「実は────ダンジョン攻略に挑戦したいのだけれど、人手が足りないの」
「人手が?……あぁ、なるほど。君の実力なら並の冒険者を遥かに凌駕するだろうが、肩書きとしてはまだ学生か。人数が、必要なのか」
「えぇ、その通り。だから、もし良かったらだけど────一緒にダンジョン攻略に、挑戦してくれない?」
「…………」
カリスは彼女の言葉を聞き、そして熟考する。
確かに自分の力量ならば、グロウリアやリリエルと肩を並べて戦う事は可能だろう────しかし彼も、決して暇というわけでは無いのだ。
こうして謝罪が遅れてしまうぐらいには、彼は王の役目に追い回されている。
故に彼は、一つの妥協案を出す。
「なんでも願いを叶えると言っておきながら申し訳ないが、流石に俺は忙しくて付き合えない」
「……まぁ、それはそうよね」
ヒカリ自身、それが理由で断られるのは分かっていた。
もし仮に協力を得られたら、配信の同接者数はそれはもう凄まじい事になっていただろう────という可能性もあった為、ダメ元で聞いてみただけであった。
「けれども、君に人を紹介する事はできる────君や俺には及ばないものの、年若い少女でありながら王国の精鋭たちを凌駕する実力者だ」
「へぇ、それは凄い……って、うん?」
ヒカリはここで、一つの疑問を抱く────『ラレンティーヌの花園』内において、その様な人物は登場していただろうか?
カリスと縁がある人物は、非常に限られている────その様なネームドキャラが居れば、自分が知らないはずがない。
これもまた────イルー三兄弟の時と同様、自分がこの世界に現れたが故の変化なのだろうか?と、ヒカリが考えている間にも、カリスは言葉を紡ぐ。
「それに、その実力はもう発揮できている────腕の方は、心配要らないはずだ」
「……?というと?」
「簡単な話だ。彼女は俺の護衛代わりを務めていてね────今まさに、君の真後ろに立っている人物の事だよ」
「────ッ!」
彼の言葉を聞き、そしてヒカリは咄嗟に振り向いた。
────そしてそこには確かに、彼の言葉通り一人の少女が居た。
褐色肌の、無表情な少女────確かにそこに居る人物。
されど、つい先程まで彼女は────全く、気配を感じさせなかった。
人並み以上に人の気配に敏感なヒカリですら、容易に欺く程の気配遮断────なるほど確かに、その外見からは想像も出来ないほどの力量を感じさせられた。
「彼女の名前はアイリス────俺がつけた名前だ」
「貴方が……?」
「あぁ。元々は貧民の少女でもあり、そして俺に襲いかかってきた賊でもあった」
「え……」
確かにカリスは、多くの人物に襲撃されてきた人物ではあるが────しかし、その縁を使って自分の護衛にするとは、流石にヒカリもこれは想像ができなかった。
彼の貧民に対する期待と信頼は、思っていたよりも大きいらしい。
「その時、中々良い動きをしていたものだからな────見つけ出して声をかけて、そして衣食住の提供の対価として訓練を重ねてもらって、なんやかんやあって俺の護衛に落ち着いた」
「そのなんやかんやが気になるのだけれど」
「まぁ護衛といっても形式的な物に過ぎない。元より俺には護衛が必要ない故な────彼女を護衛にしていたのは、貧民に役割を与えるという方針を周囲に示す為という意味合いが強かった」
「…………」
「貧民もまた、素晴らしい力を秘めている────それを示す為の策だ。だがまぁ、その目的なら────君の配信に出てもらった方が都合が良い」
「あぁ、なるほど……」
彼にもまた、考えがある様だった。
貴族を絶対視するこの王国の現状を打破する為にも────ヒカリという、既に貧民の少女を導いた実績を有する存在にアイリスの扱いを委ねる事で、よりそのイメージを強めようとしているのだ。
ヒカリの配信を、新しい王政の広告塔にするというのがカリス•ヴァリーゼラの考えの様だった。
この時点に於いて、配信が持つ影響力に目をつけている点に於いては、やはり彼は流石であると言わざるを得ないだろう。
新しいものに目をつけ、改革を好むその発想は────おそらく、前の王からは出ない物だっただろう。
ヒカリ自身、それによって損する事はない。
彼女は何も支払わずして、大きな戦力を手にしたのだ。
それに彼と王国の助けになるのなら、ヒカリから文句など出るはずがなかった。
「分かった────しばらくは私の所で、彼女の面倒を見る感じ?」
「ん?そこまでしてくれるのか。けどまぁ、助かる。俺や王国の騎士たち相手では、どうも年相応の会話は出来そうにないみたいだからな────折角なら彼女にも、立場の近い友人を作ってもらいたいと考えていた。君はともかく、リリエルであればすぐに打ち解けられるだろう」
「君はともかくって何よ、君はともかくって」
「アイリスについて何か困った事があれば、気軽に王城の扉を叩くと良い。君ならきっと顔を見せるだけで通れるさ」
「え、私顔パスで通れる待遇になってたの?いつの間に?」
「それではまた、君の今後の活動が上手く行く事を願っているよ。アイリスも、暫くはそこのお姉さんに面倒を見てもらいなさい。気軽に戻ってきて構わないからね────グロウリアお姉さんに、迷惑かけるんじゃないぞ」
そう言ってカリスは一礼をした後に、そのまま図書室を立ち去っていった。
この空間に残されたのは、ヒカリと────そしてアイリスという名前の、無口な少女だけだった。
「…………」
取り敢えずまぁ、色々言いたい事もあったヒカリではあったが────彼女はそれをぐっと飲み込み、そして────。
「……取り敢えず、本を借りて部屋に戻ろう……」
そして、今は積み重なった問題を放っておいて、目の前の問題を気にかける事にしたのだった。
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