第二章 悪役令嬢、ダンジョンの覇者となる
第一話「悪役令嬢と夏への備え」
学園決闘大会が終わり、数ヶ月の時が経過し────そしていよいよ、ヴァリーゼラ王国にも夏が訪れた。
学生たちは皆、イベント満載な夏休みに心躍らせており────そしてヒカリもまた、その例外ではなかった。
「夏だ……待ちに待った、夏が来たーーーーーーーー!!!!!」
「わっ!?今日のリアちゃんなんかやたらテンション高いね!?」
普段は比較的大人しいヒカリによる、今までに無いほどの感情の発露。
それがあまりにも意外であったため、リリィは動揺を隠しきれなかった。
そしてその疑問の答えを得るためにも、彼女は尋ねる。
「リアちゃんって、夏が好きなの?今までそんなイメージなかったけど……」
「……まぁそうね。そもそもこれと言って、好きな季節とか無かったかも。私には関係ない話だったし……あぁでも、冬はソシャゲのイベントが盛り沢山で、お医者さんがサンタさんしてくれた事もあって良い思い出が多いかな」
「……????」
浮かれているが故か、普段はしない様に心がけていた前世の話までしてしまうヒカリ。
当然リリィがその内容を理解出来るはずもなく、彼女は首を傾げながら疑問符を浮かばせていた。
「────まぁともかく、夏という季節が好きなわけではなく私が好きなのはそう────自由!自由といえば、あるでしょう?夏休みになってから、許される様になった事」
「夏休みになってから、許される様になった事……」
リリィはヒカリの問いかけに一通り頭を悩ませ、そして────答えへと辿り着く。
「────分かった、ダンジョン攻略ですね!」
「そう!夏休みになって、ようやく────ようやく!ダンジョン攻略が!解放されるの!あぁ、ここ最近は再生数も低迷(当社比)していく中……遂に!この時がやってきたと言っても過言では無いわ!」
「あぁ、なるほど……配信に関係のある事だったんだ。通りでリアちゃんがはしゃぐわけだ」
ヒカリのテンションが高い理由────それを知って、リリィは納得する。
ヒカリが配信に向ける情熱は、恐ろしい程高い。
まるで、配信をする事だけが生き甲斐であるかの様に思える程、彼女は配信に全力を尽くしている。
配信者活動ではなく、動画投稿者としての活動も重要視しており────以前リリィが、何故ここ最近は大型企画の撮り溜めが多いの?と尋ねてみた所、彼女は────
『────知らなかったの!?夏休みは、配信者にとって運命の時!!!!!多くの人が配信サイトを自堕落に堪能して時間を無意味に費やして虚しさに苛まれてくれる今こそが!絶好の!稼ぎ時なんだよ!?!?!?』
────と、1時間近く力説され、再び動画の撮り溜めに付き合わされる羽目になった。
別にヒカリは、生粋の配信人間というわけではない。
ただ単に彼女は、生前から────一度、興味を抱いたものに対する執着が凄まじすぎるだけなのだ。
それに対しての興味関心が無くなるまで、彼女は寝ずにそれに専念する。
それ故に彼女は、何度も何度も看護師に叱られ続けてきた────それへの対抗策として、どの様に看護師の目を盗んで徹夜するか奮闘してきた彼女の長い戦いの歴史があるのだが、その話は一旦置いておこう。
とにもかくにも、配信者/動画投稿者にとって、夏というのは非常に重要な時期。
その為の布石を、彼女は幾つも用意していた────そしてダンジョン攻略も、その一環との事らしい。
「学業なんてどうでも良いわ!夏休みは休みなんだから、学業に縛られる必要はないの!という事で、頑張って働くわよ!」
「なんだか凄まじい矛盾を感じる……」
基本的には距離感が近いリリィに、ヒカリが翻弄されるというのが二人のコミュニケーションに於ける定番になっているのだが────ヒカリがこの様に、自分の興味に突き進んで行く時に関しては、立場が逆転してしまうというのがお決まりの流れだった。
彼女の放つ凄まじい圧に気圧され、リリィがヒカリに翻弄される側に回るのだ。
最近は彼女はそれに慣れつつはあるものの、それはそれとしてやっぱり変な性格をしている子だなぁと思わざるを得なかった。
果たして彼女に、私以外の友達は出来るのだろうか────?
それがここ最近、リリィが抱いている疑問であった。
「まぁともかく、前言った通り夏休みは多くの集客が見込めるわ────故に、大型企画を動かすには、今!しか!ない!故に、その為のダンジョン攻略配信なの!」
「なるほど……」
「そして今、リリィが編集してくれている動画は────その、布石になるってワケ!」
彼女は、リリィが操作しているウィンドウを指さしてそう言った。
ウィンドウにて編集中の動画素材────それは、リリィがダンジョン攻略に気をつける点についてまとめ、語っている映像であった。
ヒカリは今まで、一度もダンジョンに潜った事がない。
だというのによくもまぁ、ここまでの情報をまとめ上げられるものだなぁとリリィは感心せざるを得なかった。
実際ヒカリは、ゲームとしてこの世界の情報を事前に知っているという、ある種のズルの様な事を行っているものの────しかしそれでも、ゲームでの知識と実際の世界としての知識には一部乖離が存在する。
故に、事前に図書館などで調べ物をして、情報を吟味していった上で台本を制作している。
説得力がある動画を作れるのは、その努力の賜物であると言っても良いだろう。
「言ってる内容は覚えておいて損は無い情報が多いと思うから、リリィも編集ついでに内容を頭に入れておいてね。絶対、必要になると思うから!」
「うん。私も凄い大事な事言ってるなぁって思う────けどリアちゃん、一つ忘れてる事……ない?」
「……?何が?」
とある残酷な事実に気づいてしまったリリィと、未だに彼女が何に気づいてしまったのかが分からないヒカリ。
リリィは────ヒカリにとって、あまりにも残酷すぎるそれを口にするかで悩みはしたものの、彼女の為を思って────そして、その事実を口にした。
「動画内では、大前提すぎて語られてないけど……安全の為に、学生は原則四名のパーティーじゃないとダンジョンに潜れないから────私たち二人じゃダンジョン、行けなくない?」
「あ…………」
────そう、それは前提条件すぎるが故に、ヒカリが完全に認識していなかった事実。
原則として学生は、安全の為に四人一組のパーティーで行動しなければならない────なにせ王国の中央には、未だに踏破された事が無いと謳われる最大規模のダンジョンがあるのだ。
故に、その危険性は計り知れない。
むしろ、四人一組で許可が出るだけでもこの世界の寛容さ────言い方を変えれば、無責任さが現れていると言っても良い。
しかし、ヒカリにとっては────未だにリリィ以外に友達が作れないヒカリにとっては、その現実はまさに絶望的であると言わざるを得なかった。
彼女はあと────二人も、二人も仲間を見繕う必要がある!
それはひょっとしたら、魔人ヴァリーゼラとの戦いよりも遥かに困難な試練かもしれないとヒカリは思う。
先ほどのハイテンションはどこへやら────がっくりと項垂れた様子のヒカリに、リリィは慈悲を示す。
「え、えっと。取り敢えず私には、一人は付き添ってくれそうな友達に心当たりがあるから、任せて!あと一人は────」
────そして、ここでリリィは気づく。
彼女はヒカリに対して慈悲を見せ、彼女の代わりにメンバーを集めようと試みていた────しかしそれでは、彼女から機会を奪う事になってしまうのでは無いだろうか?
そう、それは────彼女が自分の力で、友達を作る機会だ。
人と喋る時に緊張してしまう彼女に対して、友達を作れと課すのはとても厳しい事である────ずっと彼女に付き添い続けていたリリィは、その事を良く理解している。
────しかし果たして、このままで良いのだろうか?
このままではヒカリは、一生成長できないままなのでは無いだろうか?
「あと一人、あと一人は……」
リリエル•ラレンティーヌは葛藤する。
それはまるで、我が子を一人で家の外へ送り出して良いものかと葛藤する、過保護な母親の様である。
事実としてリリエルは、ヒカリの事をか弱い小動物の様な存在として捉えている事が多い────今回もまた、その考えの一端が現れた一例であると言えるだろう。
彼女は、何度も何度も可能性を吟味した上で、そして────心を鬼にして、答えを出す。
「あと一人は────リアちゃんが、頑張って集めて────!」
「わ、私が────!?」
「大丈夫、リアちゃんならきっとできる!リアちゃんはできる子!リアちゃんは天才!だから……頑張って、リアちゃん!」
「え、えっと……う、うん!頑張ってみるね!?」
────こうして、すっかりいつもの関係性に戻ったヒカリとリリィであった。
そしてこの様な経緯によって、ヒカリは────自分の手で、パーティーに加えるメンバーを集めるという試練を課せられたのだった。
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