第十五話「悪役令嬢と選手控え室(1/2)」
グロウリア•ダークウィルとカリス•ヴァリーゼラ────『ラレンティーヌの花園』内に於ける、両者の因縁は非常に強い。
ただ単に、婚約破棄という大きな関係性はあるものの、それ以上の確執がそのゲームのシナリオには存在していた。
というのも、カリス王子を選んだ際のシナリオ────カリス王子ルートのラスボスが、何を隠そうグロウリア•ダークウィルその人なのである。
王子である以上、常に完璧である事を父に求められる続け、精神が壊れかねなかった日々────そんな中彼は、これが当然の事であると自分に言い聞かせる事で己の心を誤魔化していた。
偉大なる父を、嫌いになってしまわないように────父に求められるまま、常に完璧であり続けてきた。
その為にも、現在の婚約相手では完璧を志すには不十分であると考えた。
グロウリア•ダークウィル────確かに強く、高潔な人物である。
だがしかし、その家柄は王族には釣り合わない。
父に何度、その件で苦言を呈されてきたか分からない。
故に、カリス王子は────己の婚約相手に、別れを告げる事にした。
彼女に対して、恋愛感情があったかは分からない。
難しい立場でありながら、一人高潔に歩む彼女を────慕うような気持ちは、確かにあった気がしていた。
けれどもそれは、第一王子には不要なものだ。
己が王道には、不要なものだ。
カリス王子はその様に考え、そして己の心を切り離した。
何度も、何度も己の心を封じ────そして、包み隠した。
しかし、その心を暴こうとする人物が居た。
リリエル•ラレンティーヌ────『ラレンティーヌの花園』に於ける主人公。
カリス王子ルートに於いて、彼女は第一王子としてのカリスではなく、一人の人間としてのカリスに寄り添い続ける。
そして、カリスは受け入れるのだ。
己が心を────第一王子としてではなく、確かに存在する自分自身の心を受け入れる。
その果てに二人は、恋愛の道に進むのだが────それを快く思わない人物が居た。
言うまでもなく、かつてカリス王子に婚約破棄を告げられたグロウリアその人である。
家柄がつり合わないという理由で、自分との婚約を破棄したというのに────今では、自分よりも遥かに家柄で劣る少女と恋愛感情を結んでいる。
その事実が、グロウリアのプライドに傷をつけたのだった。
もう何も奪われない為に、完璧で絶対的なる経歴を好む彼女────グロウリア•ダークウィルにとって、リリエルは今めっちゃ気に食わない相手ランキングの一位にノミネートされたのである。
故にグロウリアは、リリエルに陰湿な嫌がらせを仕掛け続ける────しかし、リリエルと第一王子は彼女の妨害を乗り越え、より一層仲を深める始末である。
やがてグロウリアはその経験を重ね、より一層捻れた自分の心を拗らせていき────そして最終的に、王国を脅かす敵へと変性する。
かつての決して一線は超えなかったグロウリアの面影は消え、人を消す事に躊躇いを抱かなくなった彼女は、封印された魔の力を解放し────そして、魔女へと至る。
王国の為にも、変わり果てたグロウリアと対峙するリリエルとカリス。
カリスはリリエルを下がらせ、炎刃ヴァリリアスを構える。
そして魔女グロウリアはそれに対抗する様に、二本の氷刀を編み出す。
『グロウリア•ダークウィル────お前は、かつての俺自身でもある。完璧である事に囚われ、苦悩し……そして、人の道から外れる可能性を秘めていた。だからこそ、俺は────変わり果てたお前と、向き合わなければならない!さぁいくぞ、決着の時だ────!』
決意を決めたカリス王子と、魔性へと堕ちたグロウリア。
二人のイベント戦は演出が拘り抜かれて居た事もあり、一見の価値がある。
ヒカリもまた、このイベント戦に心奪われ────特に、グロウリアの苦難に同情していた彼女にとって、魔女グロウリアの存在はとても強烈なものであった。
故に、彼女が用いていた氷刀の事も鮮明に覚えており────こうして、氷刀グロリアスを編み出すに至ったのであった。
「リアちゃんのそれ、本当に凄いよね……剣が空中をふわふわ浮いてる様子、初めて見たかも」
リリィは、ヒカリが試しに編み出した氷刀を見ながらそう呟く。
決勝戦────その控室。
準決勝を終えて、疲れ切った二人は十分な休息を取り────そして、来たる決勝戦に備えていた。
「えぇ、私も感無量よ……実際にこれが目の前に、確かに存在しているなんて、本当にもう……!グロウリア•ダークウィルになれて良かった〜!」
「いや、リアちゃんは最初っからリアちゃんだよ……?けど確かに、リアちゃんは凄いよね。これなら、決勝戦も突破できそう!」
リリィは嬉しそうにそう言った────そしてその瞬間、控え室のドアが開かれる。
その人物はバァン!と大きな音を立てて扉を蹴り開き、そして────
「それは────どうかな!?!?!?」
と、喧しい声でそう言いながら現れた。
その人物は、つい先ほど死闘を繰り広げたばかりの相手────イルー兄弟たちであった。
カッコよく登場する事ができてご満悦のカイルと、扉が壊れてたらどうしようと一人頭を抱えるゲイルと、相変わらず眠そうな……というか既に半分ぐらい眠っているネイル。
意外と強い事が判明したチュートリアル担当ことイルー三兄弟が、この選手控え室に現れたのだった。
「……何しに来たんですか?」
テンションが高いカイルに対して、極めてローテンションで返答するヒカリ。
目に隈があるグロウリアの外見も相まって、非常に不機嫌そうに見えるが────そんな事を気にせず、カイルは己の言いたい事を告げる。
「君たちに、一つ忠告して起きたいと思ってね────カリス王子は、いつも以上にハッスルしてる様だったよ」
「というと……?」
「うむ。僕たちは怪我が少なかったからな────あの試合の後、早速カリス王子の試合を見に行ったんだ。結果、どうなったと思う?」
カイルは試す様にヒカリに対して問いかける。
一方ヒカリは、『ラレンティーヌの花園』内に於いて他の選手の試合を見る事ができなかったというのもあり、彼が何を言いたいのかよく分からない。
けれどもまぁ、一応は返事をする事にした。
「どうって……普通に、カリス王子が勝ったんじゃないの?」
「勝った────という点に於いては正しい。だが、あれは普通ではなかった────10秒だ」
「……10秒?」
「あぁ。10秒だ……10秒で、対戦相手は炎に包まれジ•エンドだ。彼にしては珍しく、初手から切り札である炎刃ヴァリリアスを用いているみたいだな」
カイルの言う通り、この大会に於いてカリス王子は初手から切り札を切る戦い方を用いている。
その戦法を取った理由は、傷つきたくないから────傷ついてしまえば、王に何を言われるか分からない。
故にカリス王子は、初手で相手を焼き払う戦法を取っていた。
その圧倒的なまでの初見殺しっぷりに、多くの選手が無念を残したという。
ヒカリはゲーム内でそれを味わっているため、初手で炎刃で焼き払ってくるというのはもう既に知っている情報ではあったが、それをわざわざ告げてきたという事は────
「……ひょっとして、忠告をしに来たんですか?」
リリィが彼らに問いかける。
リリィにとって、その行いはとても意外なものである様に思えた。
なにせ、彼らはプライドの高い貴族だ────それに、リリィの事を貧民として見下し、グロウリアの事を敵対視していた。
故に、彼らがこうして勝者に対して忠告を行うなど、とても考えられなかったためである。
「忠告?違うね。これは僕たちの威厳を保つための策だ。この僕に勝ったんだから、第一王子ぐらいねじ伏せてくれなきゃ困るからな!」
「……あぁ、なるほど」
自分に勝った以上他の誰かに負けるのは許せない────どうやら、そういう心理による行動だったらしい。
なるほど、その理由なら確かにそういう行いもするだろうと、リリィは深く納得するのだった。
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