64 アイテムボックスに拘って… その64

 タナミナ兄妹の武器を作った。ナイフだけどその辺の業物わざものより上等な物だったらしい……ゴブリンを斃した現場を見られてたらしく譲ってくれと五月蠅うるさい探索者が居たらしい……メンドウナ。

(だから護身用だから止むを得ない時以外は逃げろつったんだよな……)

 身の丈に合わないモノを身に着けてると、災いは向こうからやってくるんだよな……ハァ。

━━━━━━━━━━━━━━━


──いい武器を貰ったなら、戦いたくなるってもんだ!──


シュパァンッ!


ぼわっ……シュンッ……ことっ


 偶々、ダンジョンの入り口を歩いていたらゴブリンを見つけた。まだこちらに気付いてないようで(新しく作った靴のお陰だ)少し近付いてもこちらを発見してないみたいだし(新しく作った服のお陰だ)折角だし試し切りをしてみた(走っても足音を出さないのは(ry))


「……ゴブリンが豆腐のように切れた……」


「凄いね、タナ兄ちゃん!」


 目前にはゴブリンのドロップ品の魔石(極小)が転がっている。これはゴブリンを斃せば最低限落とす物で、討伐証拠品として提出しなければならない。探索者のランクFから、こいつを100個。或いは偶に生えている薬草を100束納品するとランクがEに上がり、第1層の全域を歩けるようになる。勿論納品すればそれなりのお金になるんだけど……


「ゴブリンでも俺らが斃すには素手じゃあなぁ……」


 ナイフなんて落ちてるのを見たことないし、武器といえそうなのは持つだけでも苦労しそうなショートソードとか……それも破損して武器として使えそうにない鉄屑が殆どだったし。たまぁーにナイフっぽいのがあっても、使い潰された錆びだらけで折れそうなのとか……


(ありゃスライムとうっかり戦って酸で溶けた奴だろうなぁ……)


 兎に角、拾える武器はロクでもないのばっかだったんだよ……



「兄ちゃん……これ、コージ兄ちゃんに怒られないかな?」


 先程から目に入るゴブリンを何匹も狩っているとミナに大丈夫? と訊かれる。


「あー……まぁ……いわなきゃ大丈夫だろ?」


 危険になりそうになって報告が行けば兎も角、今の所は問題なく楽勝モードだ。


「本当にぃー?」


 心配性だなぁーと笑いながら、またゴブリンを発見!


「いっけぇーっ!!」


ズバッ!


 こちらを発見した頃にはゴブリンは切り裂かれて致命傷を負い、


バシュッ!……


 と、魔力がほどかれて消失。その残滓の魔石(極小)をことんと落とすのみ。調子に乗ったタナたちは……その様子を見られてるとも知らずに魔石(極小)を30個も得て探索者ギルドの受付嬢を驚かし、褒められて某木の人形ピノ●オのように鼻をぎゅんぎゅんと伸ばすのだった……


※比喩表現で実際に伸ばした訳ではありませぬw



 懐が温かくなり、甲司こうじへの手土産てみやげもいつも通りの量を確保し、ルンルン気分(死語w)で新たな我が家への帰り道……見知らぬ探索者だか冒険者が道を塞ぐ。


「……?」


 道の真ん中に突っ立ってて邪魔だな……と思いつつ、タナミナは道の端に寄る……が、また道を塞がれる。


「何だよ?……邪魔なんだけど」


 タナが邪魔そうにいい、ミナはタナの後ろに隠れて様子を見ている!


「いや……すまなかった。何といえばいいか言葉の選択をだな……」


 はぁ?……いってる意味がわかんないんだけど?……という顔で、おっさんにしては若い男を見るタナ。


 ミナは静観している!


「あー……では正直に話そう。是非、そのナイフ……かな?……を、譲って欲しい!」


「無理」


「さすが兄ちゃん、即答!」


「何故っ!?……金かっ!?……金なら……ほら!」


 と、札束を懐から取り出され、タナの前に出す冒険者らしい余り若くはなさそうな男。


(アイテムボックスからかな?……でも、札束1つね……)


 つまりは100万円の札束ということだ。


「金の力でどーこーしよーという訳?」


「何を!?……君だってこのナイフを買った訳だろう?……なら、金で取引したって問題無い筈だ」


「いや……これ、命の恩人に作って貰った奴だし、俺の護身用っていってたから……」


「うん!兄ちゃんの命を護るんだから売るのはできないよね!?」


 ミナからの援護射撃もあり、護身用の武器だからと諦めて貰おうとする。唯まぁ……そのナイフでゴブリンをビシバシ切り裂いてたからなぁ……魔法の武器とでも思われたかも知れないなぁー……ヤバカッタカナ?


 そして……帰宅。今日は何の問題も無く昨日と同じように、風呂入って、飯食って、兄ちゃんに拾った物を……アイテムボックスのリュック毎渡して。代わりの空のリュックを貰って、その日は寝た……んだけどね。


 明日……翌日っていうんだっけ? 今日……いや、昨日か。


「ナイフを売ってくれ!」


 っていってきてた男の人が、探索者ギルドを介して迫って来たんだ……。


「いや売らねーし」


 では済まないことに気付く。ハァ……メンドウってこーゆーことかぁ……タシカニ、メンドウダワ……orz


「だから、コージ兄ちゃんに怒られない?……って訊いたジャン!」


 イヤソノ……いわねーけど、ミナのドヤ顔がムカツク……コーカイしてんだからいうなよ……ハァ。


━━━━━━━━━━━━━━━

 色々と問題があるから命の危機が迫る以外では使うなと、甲司の言葉を今更ながら理解した元小学生だった……。そら、問題解決能力があるならいわねーわなw

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