59 アイテムボックスに拘って… その59

 タナミナ兄妹の買い物を探索者ギルドでした帰り、まだ明るいからと油断していた所に背後を尾行する誰かに挑発する兄妹。いや、気付いてたからといって挑発するのヤメロや……

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──6日目 その2──


「誰?……後を付けてるのは」


「気付かれてないと思ったら大間違いだぞ?」


 ちなみに前者がミナで、後者がタナだ。くるりと振り返ってふんぞり返って見下す格好でカッコつけてた……タナ、それカッコ悪いと思う。


「ふっ……バレちゃあしょーがないな……」


 隠れ潜んでいた影から出てくる見すぼらしい痩せ過ぎの大人が現れる。髭面で大人と判断したが、シワと髭が無かったらひょろ長い子供にも見える……


(まぁ声が低いし、大人の男だよな?)


 じりじりと近付いてくる痩せ過ぎの髭親父が


すちゃっ


 ……とナイフを抜いた。これでもう言い逃れができないだろう……


「さ……怪我したくなかったら、金目の物を出せ。おっと……知ってるんだぜ?……さっき、色々と物を買いこんでいただろう?」


 はぁと溜息を吐き、僕はタナミナを抑えて前に出る。一応は年上だしな……いうべきことをいっておくか。


「残念。買ったのはこいつらの為の道具類と消耗品類だけだ。金も尽きたし金目の物なんて無いぞ?」


パンパン……


 と、ショルダーバッグ(中)を叩く。こいつは重量軽減を付与しただけで、中に入るのは見た目分だけだ。少ししか入れてなければバレないだろうと重量軽減率は50%に抑えてあるが……


※中型のバッグで15リットル程度の容量がある。



「ふっ……俺様の目は節穴じゃねーぞ?……「デス・バッファローの皮」を買っただろう?……ありゃあ1万や2万じゃ効かねー筈だ……そいつを寄越しやがれ!」


 ちっ……と聞こえないように舌打ちをする甲司こうじ。それは背中の小型のリュックに入っている。スパイダーシルクで造った代物で内容量拡張20倍に重量軽減80%を付与してある。両肩を通す部分は頑丈な麻で作ってはいるがそちらには頑丈付与をしてある。そのままではシルクのリュックということで盗まれそうなので染色して安い木綿に見えるようにしてある。


 ……流石に染色スキルはまだ生えてないので母さんに任せたけど。


(勿体ないっていわれたけど、盗まれる方が勿体ないよな……さて、それは兎も角この状況どうしたもんかなぁ……?)


 じりじりと接近して来た髭親父が残り3mの彼我の距離を切ったら多分……一気に襲い掛かって来るんだろうなぁ……


 じっとりとした冷や汗(脂汗?)がひたいを流れるのを感じる。背後じゃ兄妹が何かヒソヒソと喋ってる。


(何か仕掛けるのかな?)


 と思ったのも束の間……


「時間切れだ……死ねっ!」


 と、一気にダッシュを決める髭親父。そのタイミングで背後の兄妹が動く!


がっ!


「僕を足台にしただとっ!?」


(逆ジェットストリームアタックかよ!?)


 いきなり背中に衝撃を受け、ジャンプしたのはミナ。単純に飛び上がっただけで体を軽くする為に何も持ってなかった!


「死ねぇーっ!!」


 と、死角となる地面を駆けるのはタナ。こちらも荷物は置いて身を軽くし……その辺で拾ったであろう枝を手に持っていた!


ばしぃっ!!


いでぇっ!?」


 髭親父の向うずねにワンヒット、そしてナイフにワンヒットさせて叩き落す!


「ミナ!」


「うん!」


 髭親父の背中に


どげしっ!


 と着地したミナは即座に髭親父から飛び降り、地面に落ちているナイフを拾って距離を取る……


「……大したもんだ」


 僕は呆気に取られてその迎撃の様を見ていたけどそのままでは不味いと思い、アイテムボックスに仕舞ってたロープを取り出す……転ばぬ先の杖、用意万端なら憂いなし……という奴だったか?


「取り敢えず、この人を拘束してくれる?」


 もう一撃と頭に枝アタックをかましているタナとナイフを持って殺気を放ってるミナに苦笑いしつつ指示する。


「「うん、わかった!」」


 髭親父をナイフで牽制してるミナはある程度距離を取っていつでも迎撃できるようにしており、拘束役はタナに任せるようだ。僕はタナにロープを渡し、ミナを見る……察したミナがナイフを渡しに駆け寄る。


「ギルドに……「うん!」……あ、あぁ……頼んだ」


 ナイフを手渡してから放り投げていた荷物を取り、その荷物を僕に押し付けるとダッシュで駆けて行くミナ。


「……タナよりしっかりしてないか?」


「そらそうだろ……俺の妹だぞ!?」


「あーうん、しっかり解けないように頼んだぞ?」


「おう、任せとけ!」


 暫くするとギルドからの応援が来た。勿論ミナも一緒だ。


「探索者ギルドの者だ……こいつが?」


「おう!……このひげおやじがナイフを持って襲って来たんだ!」


「……あ、これがこの人の持ってたナイフです」


 という訳で、警察ではないのでやや簡易的な現場検証を行いメモを取る探索者……というよりはギルドの職員たち。その内に本物の警察官がおっとり刀で駆け付けた。犯人と凶器は警察官に引き渡され、探索者ギルドの取調室に同行する……


(またあそこに行くのかな?)


 とうんざりしていると、僕とタナミナは応接室で調書を取った。嫌そうな表情をしてたので気を利かせてくれたらしい……。結局、



・どんな状況で襲われ(帰ろうとして歩いてたら背後から声を掛けられ、襲われた)

・どのように対処して(兄妹より年長の僕が対応し、2人が背中の死角から迎撃した)

・あのような状況に落ち着いたか(ナイフを蹴り落とし、僕が用意したロープでタナが拘束した)



 ……と、質問されて事実をそのまま答えて取り調べは終わった。トラブル放題過ぎるだろ……ハァマッタク……orz


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 髭親父は何だったのかというと……子供や弱そうな探索者を狙った連続強盗犯だったそうで、少しだけど報奨金が出た。ので、2人の手柄なので全額兄妹に渡しておいた。甲司は殆ど見てただけだったしね(ロープを渡したり指示出しはしたけども)

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