ダンジョン素材の求め方

44 アイテムボックスに拘って… その44

 そこそこの貯金ができてはいるが、真っ当にダンジョン素材や魔物ドロップ品を買おうとすればすぐに枯渇する程度しか貯まっていない甲司こうじ……如何いかせん、地上の普通品質であっても物価が高騰こうとうしているご時世な訳で、更に高品質な物品は目ん玉が飛び出す程に高いのだ……

 そんなインフレな世界ではあるが、甲司の今必要としているのは高額な物でなくていい……普通品質が最高級な地上の素材ではなく、普通以上の品質に成り得るダンジョン産か魔物ドロップ品が欲しい訳だ……できれば、現状で破損していて見た目は低品質の物が好ましい……どーせ修繕できるのだから!

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──あそこに見ゆるは初心者探索者?──


 見張り始めてはや幾星霜いくせいそう……といっても、まだ2箇月って所か? 冬になっても冷たい雨が降るくらいで雪なんぞ降ったことはないという……理由は知らないけど雲ができて雨が降ることも数年前に比べて減ったとか。どちらかというと晴れの日が多いこの国だけど水不足で飲み水に困ったことはないそうだ。何故か?……そりゃ水を生み出すスキルを持ってる人が多いからだそうだ。


 代わりに、自然の水は飲料じゃなくて作物を作るのに必要だからといって上流の農作地帯に引き込まれて下流の一般人が住む辺りには流れてこない……要は自然の水を飲んだことはない訳だな。飲用の水は水道を通って配給されてるんだけど全てその地区の担当の水スキル使いの人が生んだ魔法スキルの水……ということだそうだ。まぁ……水生成魔法っていうのは空気中の酸素と水素を化学式の通りに結合してるだけらしいけど……


※未熟な人は空気中の水分(水蒸気)をかき集めて水にする……で誤魔化すらしい。また、水属性魔法だけじゃなく、火属性魔法でも生成可能……文字通り、酸素と水素を混ぜて燃やしてできた結果、水になる訳なので(水属性魔法使いは燃やさなくても結合させられるらしい)




「あれ?」


 随分とみすぼ……いや、怪我をして足を引き摺ってる少年少女の探索者が歩いていた。一応、包帯を巻いてるけど血がにじんでいて如何にも痛そうだ。


「……」


 実は、布加工スキルがレベルアップした際、傷の治療効果がある包帯を作れるようになった。


 所謂いわゆる


「巻くだけでゆっくりとだがHPが回復する包帯」


 という物が創れてしまったのだ……通常、包帯の役割とは。



◎怪我を保護する

◎薬や消毒薬を塗ってからガーゼで保護してから巻いて怪我の部位に雑菌が入りにくくする



 と、大雑把にはそういう用途で用いるのだが……。


 まさかの、


「巻くだけでHPが徐々に回復する」


 転じれば、


「巻くだけで傷が消えていく」


 包帯となる訳だ。まぁ……万が一ということもあるので、御守りのつもりで3ロールだけ小銭入れのアイテムボックス(処女作)に入れて持ち歩いているんだけど……



「ちょっと君……」


「……?」


 怪訝けげんな顔でこちらに目をやる少年。いや、僕も中2の小僧だけど……背格好はどっこいどっこいかな?


「何?あんた」


 一緒に歩いている少女が怪訝というか敵意が滲む顔でにらむ……怖っ!


「いや……怪我してるみたいだから……大丈夫?」


 はぁ……と溜息を吐く少女。


「見りゃわかるでしょ?……あんた目が不自由なの??」


 いやそりゃ……気付いたから質問してるんだけどさ……


「僕、包帯を持ってるんだけど……それ、かなり汚れてるから交換した方が良さそうだと思ってさ……」


 布加工スキルで包帯を作ったと説明する。


「そう……そりゃ清潔な包帯の方がいいとは思うけどな……」


 一般的には布製品は高い。安い食料に比べても、貧乏人には中古の衣類の方が高いのだ。一括で料理スキルで大量生産できる食料に比べると衣類はスキル持ちですら大量生産という訳にはいかない。


 甲司みたいに1人で各種スキルを所持していれば流れ作業で糸を作って布にして加工して……と、布製品を製造できる者は珍しいのだ。


※極め過ぎだろw←複合したスキルを有効活用してたら極めてしまっただけ



「大丈夫。着られなくなった服をほぐしてから作った物だから……余り元手は掛かってないし」


「古着か……汚くないのか?」


「きちんと糸から布にした時に洗ったから問題ないよ」


 実際には糸にした時にまとめて洗浄したんだけどね。布の時より魔力消耗が少ないんだ。


「そっか……悪ぃな……あー……あっちでいいか?」


 どうやら信じてくれたようだ。流石に包帯は一般的に売ってる店ではこんな子供が作った物を売る訳にはいかない……清潔な工場で大量生産した、一定の検査をパスした製品しか販売できないのだ。


 昔は工業製品で殺菌剤とか使ったりUV光で殺菌したり……無菌に近い密室で生産とか授業で聞いたけど、今はそんなスキル持ちを働かせてるって話だ。収入はいいんだけど、魔力が枯渇寸前するまで働かせられるから、管理官のさじ加減で一つでは……下手をすると死人が出るとか……怖っ!



「この辺でいいかな」


 と、道から離れた場所に腰を落ち着ける少年。少女は僕から受け取った包帯を……最初はぢぃ……と見たり匂いを嗅いでたけど。


「足出して、交換する」


 と、少年の前にしゃがみ込んでから、足を太ももの上に抱え込む。


(裏山……いや!羨ましくなんて、ない!!)


 と、独り嫉妬しっとしそうになったり視線を外したり……


「ありがとう。これ……要る?」


 と、血と化膿した汚れが付いた包帯(結構臭う)をくるくると巻いてたが……


「あぁ、汚れが落ちれば再利用できるでしょ?」


 と、布加工スキル内の洗浄を用いて受け取った汚包帯おうたいを洗浄する。これは接触しないと発動しないので一旦受け取ってスキルを使う……ちなみに持ち歩いてた水を染み込ませてから発動した。そーしないとレベルが上がった洗浄スキルでも汚れが落ちそうも無かったし……そして。


「「え……えぇーーーっ!?」」


 目前で……血の赤と、化膿の黄緑色と、土の茶色が混ざった斑色の包帯が徐々に薄まっていき、恐らくは安く入手した頃の薄汚れた色をも通り過ぎ、製造された頃のそこそこ綺麗な白へと戻っていった……


「「時間が巻き戻ったっ!?」」


 興奮して鼻息も荒く……そんなトンデモなことをいわれるが、


「いや、布製品の洗浄スキルだよ。他の素材には全く効き目無いんだけどね?」


 無茶苦茶対象が狭いが、その分効果は高い。該当する製品の製造直後と同等の色合いまでは綺麗になるのだから(流石に繊維の地の色までは白くはできない。漂白剤を使えばわからないけど……)


「所で、足の具合はどう?」


「……え?」


「かなり深い怪我だったんだから、包帯巻いたからってすぐ治る訳……え?」


 少女が憤慨ふんがいしつつ説明する間、少年は足の痛みが無いことに気付き、


スクッ!


 と立ち上がり、


トントン……


 と怪我をしていた足で……片足で軽いジャンプを繰り返していた。


「ちょっ!……タナっ!……怪我してるのに何を!?」


「んー……もう、全然痛まないんだよ……」


「……っ!?」


 少女は、


「そんなバカなっ!?」


 と声にならない声で少年……タナといったっけ……の足をしゃがみ込んでさすりながらている。


「……あんた、何者だ?……俺で「包帯」とやらのテストをしたって訳だよな?……何が狙いだ?」


 少年がこちらを睨みながら詰問きつもんしてくる。少女は傷の具合を見ようとすると、包帯は空中に溶けるように消えてしまう……どうやら効果時間が終了したようだ。


(一定HPを回復した後、消滅するのも時間通り。どうやらこの少年の怪我は回復可能なHPよりは怪我の程度が軽かったようだな……まぁ骨折は無理だけど酷い大怪我も治せるからこんなもんか?)


「なっ……これっ……」


 少女は混乱しているが、下手をすると逆上して襲って来るかも? そう思った甲司は残り2つを手に少女に押し付ける。そして……


「取引がしたい」


 ……と。


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 ダンジョン素材の回収者のゲット、なるか?

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