第51話 魔物災害がない世界

 ハリーと王と私たち勇者との話合いが行われて、数日後、上級の大型魔物が王都に現れた。

 今まで、各地で魔物災害を起こし、魔物を一所に集めていた。それをやめてすぐに魔物の一体が王都に乗り込んできたのだ。

 魔物災害の話を最近聞かないと思っていた騎士や貴族、平民でさえ驚いていた。この地に都を開いき王都に魔物が現れたのは初めてのことだったから。

 王と勇者はなぜ魔物がこの地に訪れたのか、理由は明白だったけれど、国民には何も伝えていなかったため大混乱だ。ザックとエリアス副団長は落ち着いているように見えた。

「私が国民の非難を手伝うよ」

 そう言って前線にハリーがやってきた時もザックは冷静に「それでは私が殿下の側にいます」と言った。それなのに、私が「じゃあ、魔物退治に行ってくる」と言った途端に、「エリオット、殿下のことは頼む」と言って私についてこようとしたのだ。

「ザック、私は大丈夫。一人じゃないし、三人いればあの魔物は確実に私たちで倒せるから、あなたは騎士団長でしょう。ハリーについて国民を守らなきゃ」

 私がザックの手を取って瞳を見つめる。ザックは渋々頷いた。

「早くしないと、王城まで来てしまうぞ」

 リックが急かす。私はそこにたくさん人がいたにも関わらず、頬に口付けをした。ザックが目を見開くし、ハリーがすごい顔をしてこちらを見ている。でもそんなの構っていられない。

 死に別れることはきっとない。それでもお互い戦いに向かうのだ。何が起こってもおかしくない。あの時、キスしとけば良かったなんて後悔はしたくなかった。

「じゃあ、行っておいで。ちゃんと無事に帰っておいで」

 ザックの声が諦めたように、それでも、優しく響く。ザックの手が頭を撫でて離れていく。私は頭から手が離れた瞬間に踵を返した。

 ハリーの顔がチラッと見えた。さっきまですごい形相で見ていたけれど、今は優しく手を降っている。

ー王太子殿下なのに、そんな気軽に私に手を振っていいのかな。

 少し躊躇ったけれど、私もハリーに手をふり返しながら、歩く。

 私の向かう先にはリックとテオが待っていた。

「さあ行こうか」

 テオが言う。

 私はテオの家族と部屋から出てきた女の子のことを思い出す。彼らは平民で貴族よりも危険な場所にいる。

「テオ、大丈夫?」

 私の言葉にテオが笑顔で頷いた。

「家族のこと?きっと大丈夫だと思う。何かあったらすぐに逃げるように言ってあるからね」

「じゃあ、あの彼女は?」

 テオが首を傾げる。

 そこでおしゃべりの時間は終わる。王都の門を突き破って入ってきた熊のような形の魔物が目の前に見えた。目視で二メートルを超えている。下手をすると三メートルあるかもしれない。こんなに大きな魔物が一体で王の血を求めてやってきたのだ。一体だったのは幸いだ。二体いると私たち三人では確実に仕留めるのは難しくなる。

 何も言葉をかけないけれど、リックが先陣を切って突っ込んでいく。テオが風魔法で魔物の動きを封じる。とは言え、これほど大きいと勢いを削ぐぐらいだ。それでも大量の魔力が必要になる。リックが双剣で魔物の両足を切り付ける。それで倒れてくれればいいのだけど、そんなに都合よくいくはずがなく、痛みに耐えかねた魔物は大暴れを始めた。

 王都の平民の家が数軒壊された。テオがその傷に向かって水魔法でさらに切り込みを入れる。大地についている片方の足を土魔法で大地に取り込む。テオはこれ以上大きな魔力は使えない。それでもここまでお膳立てをしてもらえば、私がとどめをさせる。

 私は大きな剣を振り上げ、風魔法を使いながら大きく跳躍して、魔物の魔石のある箇所目掛けて大剣を振り下ろした。暴れる魔物の体はジッとしてくれているわけではない。それでもその動きを読んでドンピシャな所に剣を振り下ろす。大きな剣はその重みも手伝って、魔物の体内部に沈んでいく。私は追い討ちをかけるように、自分の全体重をその剣の鞘に乗せる。熊のような魔物の動きが止まり、るように倒れていく。

 私はそのまま魔物の中心に刺さった剣と一緒に魔物が倒れるのに合わせて体を魔物に預ける。地面に倒れても魔物がクッションになり私への衝撃は少ない。そ地面に倒れた魔物の上から、もう少し剣を突き刺す。カツンと剣と魔石が触れ合う音が鞘を通して聞こえてくる。私は剣を力を入れて90度回した。普通なら黒い色の血液が魔物から吹き出すのだけど、私は水魔法を応用して、魔物の血液をコントロールする。私は自分の剣を引き抜き、血液に乗せて魔石を魔物の中から外部に取り出した。

「いつ見ても、その技術はまね出来ないんだよね」

 テオが関心しながら呟いた。

 大きな透明な魔石を手にとり、水魔法で血を洗い流す。

「魔物の解体は騎士団に任せようぜ」

 リックが明るい声で言った。

「一体ずつなら、俺たちで対応できるし、上級でも騎士団で対応できるな」

 私も思っていたことだ。私は大きく頷いた。

「それにしても、ちょっと王都の端とはいえ、家が壊れてしまって大変だよね。これは王家の予算で家を建て直してあげれるかな」

 テオの声で周りを見ると、十数軒の家が崩壊している。

「大丈夫だろ、今まで魔物災害のための研究に出していた予算や魔物災害被害者に出していた予算をこういうのにあてていけばいいんだから」

 リックの返答に私とテオは顔を見合わせた。

「リック、大人になったね。政治的なこともしっかり言えるようになって」

 私がそう言うと、テオもうんうんと頷く。リックは怒ったように頬を膨らませた。

 

 

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