第50話 ロビンは転生者なの?
テオの涙が自然に止まるのを待った。
「ありがとう」
テオが優しい顔で笑った。いままでも優しい顔だったけれど、目の奥の何かが違って見えた。
「で、これからどうしようかな」
テオが改めて、今回の問題に向き直る。
「父上には話ができたし、兄上にも話す機会を設けてくれると父上がいった。あとは、アレキーサ王国とホー帝国の王にどうやって伝えるか、じゃないか」
リックが珍しく的を得たことを言った。
テオがリックの頭をぐしゃぐしゃにする。
「たまにはいいこと言うじゃない」
テオの声が弾んでいるように感じた。私も少し嬉しい。
私はロビンを見る。
「ロビン、他の国の王にも話をする必要があるよね」
ロビンは軽く頷いた。
「王の血に魔物が反応しなくなれば、問題なんてなくなるのになぁ。他の国に説明して回る必要もなくなるのに」
リックがボヤく。
テオが勢いよくリックの肩を掴んだ。
私も思わず顔を上げる。
ーなんで今まで考えつかなかったんだろう。そうだよ、王の血に魔物が反応しなくなればいいんじゃないか!
私とテオが同時にロビンを呼ぶ。私たちの声は思った以上に大きなものだった。
「「ロビン、ねぇ、さっきリックが言ったことは出来ないの?」」
ロビンが軽く頷く。
「「できるってこと!!」」
私たちの声は揃いすぎるほどに揃っていた。
「実は今、ヘンリーがやっていることがその過程なんだ。すぐには難しいけれど、ヘンリーが次の代に譲る頃にはきっと反応しなくなると思う」
「「それはどういう意味?」」
やはり、声が揃う。私はテオ見て、テオも私を見る。私たちは少しだけ笑いあい、もう一度ロビンに向き直る。リックは私たちのやりとりを静かに見ていた。
「魔物たちは過去の勇者の血を覚えていて、反射的にその血に向かっていくようになったんだ。そこへ行けば、より美味しいものが食べられると反射が形成されたんだ。ただ、当時の勇者がその身を魔物に投じて500年以上経つ。その血に反応しても美味しい食事にありつけないことに気づいた魔物たちからその反射が消えてきてる。そこに、ヘンリーが血を薄めて魔物災害を起こした。魔物の反応はますます弱くなる。しかもその血で人がいない所に魔物を集めたりしている。その血を求めて集まったところで利がないと分れば魔物の反射も消えていくんだ。動物と違うところは、魔物たちが繋がっていることだ。王の血の反射がなくなった魔物が増えれば、この世界の魔物全体に広がり、例え、王の血を使ったとしても魔物が集まってくることは無くなるんだ。
テオバルトもギプソフィラもパブロフの犬って知っているだろう?その原理だよ。反射だよ。反射は消すこともできるんだ。だから、各国の王に説いてまわらなくてもいいかもしれないね。
あぁ、でも今すぐ辞めて欲しいなら説明して回った方がいいかもね。もちろん、ウィルス王国の国王から依頼してもらうという手もあるかなと思うよ」
ロビンの口から「パブロフの犬」なんて聞くとは思わなかった。テオも目を丸くしている。
「僕は確かにパブロフの犬って聞いたことがあるよ。でもあれはベルを鳴らしたら犬から涎が出るってことだったよね?反射を作る方の話でしょう。反射を消すなんて聞いたことないよ」
テオはロビンが前世の記憶に踏み込んできたことはスルーして、パブロフの犬について話してる。私はそれよりもロビンが前世の、地球のことを知っていることに驚く。
「そうだね、心理学を学んでる人じゃないと知らないかもしれないね。でもあれは反射の研究でどちらも実証されてるんだよ。反射を作ることも消すこともできるって」
「なんで、ロビンはそんなこと知っているの?私の記憶でもテオの記憶でもないんだよね?それは誰の記憶?ロビンも本当は前世があって、私たちと同郷なの?」
私はテオの前世が気になった。今、この世界が一番大事だ。その気持ちは変わらない。それでも、この魔王に前世があり、それが地球でパブロフの犬を知っていると言うことは同じ世代に暮らしていた可能性があるわけで……。私の頭の中にロビンの可愛い声が蘇る。「君には幸せになってほしいから」この言葉はどうして出てきたんだろう。
私の頭にぐるぐると巡る疑問。
「私は魔王だからなんでも知っているんだよ」
私の疑問にロビンは寂しそうな顔をしてそう答えた。テオとリックはそんな私たちを見ている。
リックが明るい声を出した。
「何にしても解決策があるんだ。良かったじゃないか!父上に各国王に手紙を書いて頂こう。それでも説明を求められたら俺たちが出向けばいいだろ。兄上と父上と俺たちで前向きに話ができる。俺はロビンにあってから一番気分がいいよ」
私の訝しげな顔をリックの大きな手が覆った。
「フィラもさ、グチャグチャ考えなくていいじゃん。フィラはこれから幸せに暮らして、それで、魔王になるんだろ?じゃあ、過去じゃなくてさ、未来に向いて幸せに暮らすための知恵を出そうぜ」
指と指の隙間から、リックの黒い瞳が覗き込んでくる。
私のグルグルと巡っていた疑問や不安がリックの掌に吸い込まれていくように感じた。本当に良い友人だ。
私は顔を覆っていた大きなリックの手を自分の顔から引き剥がしながら「ありがとう」と呟く。
窓の外、月が西の空に大きく傾いている。
私たちは長い時間話をしていたようだ。もうすぐ月は西の地平線に沈み、代わりに太陽が顔を出す。
「久しぶりに随分長い時間話をしてたね」
テオがみんなを見て笑った。
「ロビン、付き合ってくれてありがとう」
テオはロビンにも向き合う。
ロビンは小さく頷いて優しく笑った。そして、私たち三人の体の周りをくるくると回ってスーと消えた。
私たちはロビンの消えた場所はしばらく見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます