第36話 魔王に対する認識

「ロビン!!ねぇ、私分かったかも!!」

 リリーがいることを忘れて勢いよくロビンに話かける。

「フィラ様、きちんと来てください。キトとは言えオスです。肌を隠してください」

 私はリリーの声で自分の体が半分しか隠れていないことに気づいた。こっちの寝巻きは浴衣みたいに前が開いていてウエスト部分の紐を結ぶタイプのものだ。

 ロビンが私の姿に顔をピンクにして布団に突っ伏した。

ーああ、ついつい、やってしまった。

 私は止まって、きちんと寝巻きを着る。ウエストの紐もしっかりと結んだ。

 リリーがそれを見て、安堵のため息をつく。そして、何かを察しているように早々に退室して行った。


「で、何が分かったんだい?」

 リリーが出て行ったことを確認してロビンが言葉を発する。

「ねぇ、もしかして王の魔物災害実行部隊は魔法研究所の人たちなんじゃないの?」

 私は少し声を落として思いついたことを口にする。誰かに聞かれては問題だから、実はリリーが出た後にこの部屋全体に結界魔法をかけている。城ややしき全体に対して結界魔法を使うのは難しいけれど、部屋くらいの大きさなら容易くできる。

「ふふふ、それは違うよ、ギプソフィラ。でも、一生懸命考えたんだね」

「考えてるよ。やっぱり魔物災害は人類に必要ないよ。それなのに、何を勘違いしてるんだろうって思う」

 私は俯いて拳を握る。今回はロビンが助けてくれて魔物災害に遭わず帰還できた。何度か魔物災害には勇者パーティーの旅の中で出会でくわしているけれど、本当に悲惨なものなのだ。

 私たちが死に物狂いで戦っても町の半分以上が助からない。助かった人も魔物の大群のトラウマで外に出られなくなったり、身体的に後遺症を残す人が半分以上になる。勇者も騎士団もいなければ、なす術もなく町の人は死んでしまう。

 人口をコントロールする必要はない。王は神ではないのだから。

「ギプソフィラは真面目だね。必要かどうかは別にして、今日はそのことを話に来た訳じゃないよ」

 そう言ってロビンがキトの姿のまま手招きした。

「こっちに来て座るか、横になるかしたらいいよ」

 私はロビンが丸くなっている自分のベッドに乗って、ロビンの隣に膝を抱えて座った。ロビンが満足そうな顔をする。

ーロビンかわいいな。

 キトの姿のロビンが表情をくるくると変えるのがなんとも愛らしい。

「ねぇ、それで、アイザックとはどうなったの?」

 ふいうちだった。

「え?」

 一気に顔が火照る。

「あぁ、良い関係を築けているんだね」

 ロビンがとても優しい目をしてこちらを見ていた。その目に顔の火照りが落ち着いてくる。

「うん、生まれて初めての恋人だよ」

 私は落ち着いて言葉を紡ぐ。恥ずかしさよりも幸福感の方が強い。私は無意識に手を胸に置いた。

 ロビンは満足そうに頷いた。

「ロビン、ありがとう」

 ポンっと言葉が飛び出した。ロビンはまた小さく頷く。

「実は明日なんだよね、ハリーとの会食。ザックには自分から言うから私からザックと恋人になったことは伝えないんだけど、明日の会食の時には伝わっているかな」

「どうだろうね」

 ロビンの声が少し低くなる。私は少し慌てた。

ーロビンは、明日、魔物災害のことを話すと思っているのかな?

「ロビン、明日は王と謁見させてもらえないか聞くだけで魔物災害のことは伝えないよ?」

 私の言葉にロビンがクスリと笑いを漏らす。

「うん、知ってるよ」

 私はその言葉に自分が早とちりしたことに気づいた。恥ずかしくなってまた頭に血がのぼる。私は膝の上に額を押し付けた。

 ロビンが赤くなった私の頬に手を伸ばす。肉球が柔らかく私の頬に触れる。私は少しだけロビンに目をやった。

 さっきまでの恥ずかしさがぶっ飛んだ。

 猫の姿のロビンが右の前足を伸ばした状態で可愛く優しい顔をしてる。

ーなんだこのかわいい生き物は!!

 私は思わず、ロビンを抱きしめた。

「ロビン、私、あなたが魔王だってこと忘れそうになるよ」

「魔王って悪の存在じゃないからね。世間の魔王=悪って認識は変わらないだろうけど、できればギプソフィラにはその認識を改めてもらえると嬉しいな」

 私はロビンを膝に抱えたまま、勢いよく頷くのだった。

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