第35話 タイミングの良いロビン
私がロビンのことをなんて説明しようかと考えているとザックが不意に私の頭を撫でた。私は驚いた顔になる。
「フィラ、私はずっと君のことを見てきたんだ。君が今一生懸命に何を話すか考えてるのは分かっているよ。真実をそのままに話せないんだね」
私は思わず頷いた。ロビンが魔王です。でも魔王は悪じゃなくて王が私たち国民を苦しめてる張本人です。なんて言えないよ。しかも、ロビンに後を継いでほしいと請われているなんて……。
「ロビンは決して悪じゃないよ。それだけは信じて」
「神の使いだったか?」
「うん、そう。この世界を見守っている存在だよ」
「そうだな。分かった今はそれで納得しておくよ」
そうして、また胸に顔を引き寄せられる。
「こんな時にすまない。それでもどうしても聞いておきたかったんだ」
私は小さく頷いた。私はザックと恋人になることばかりを考えていてロビンのことは頭の隅に追いやられていたけれど、ザックの頭にはロビンがチラチラとしていたのだろう。
私は真っ白な毛並みのロビンを頭に思い浮かべる。
ーかわいいよねぇ。
私の顔がデレっと崩れた。ザックが上でため息を吐く。
「今白いキトを思い出していただろう?名をなんて言ったかなぁ。アレはオスだろ?ちょっと妬けるな」
「名はロビンよ。そう?ロビンに嫉妬しちゃうんだ、ザックは」
どこが面白いのかも分からないままに笑いが込み上げてくる。私がクスクスと笑っているとザックがもう一度私を抱きしめた。
「離れがたくはあるけれど、今日はもう勇者塔の方に帰りなさい。もう月が出て随分と経つせめて月が天上の一番高いところに行く前に帰りなさい」
「えー。離れたくない」
思わず出た言葉に自分でもびっくりする。言葉が最後まで出た後、慌てて口を手で塞ぐ。その一部始終を見ていたザックが私の頭に口付けをした。
「これからもっと時間を作って会いに行く。二人で領地にも帰ろう。フローラルティア様とゲオルクの墓参りにも行こう。これから沢山の時間を今まで以上に過ごそう。
だから、今日は勇者塔の方に帰りなさい」
最後の言葉と一緒に体を離された。
私は首を縦に振る。
「いい子だね」と言って頭を撫でる手を振り払う。
「私は子供ではなくて恋人ですから、そういうのはいいです」
自分で思っているよりも大きな声が出た。
「すまない」
ザックが項垂れてしまった。私は慌てて、ザックを抱きしめる。
「そんな顔しないで下さい」
「こんな風に私を抱きしめるのはこの世界で君だけだろうな」
そう言って笑うザックに私も釣られて笑う。笑いが収まった頃に、私は自分から席を立つ。
「それでは帰ります」
我儘を言って困らせたくはない。
ザックも慌てて立ち上がり、玄関までエスコートしてくれる。
帰り際、ザックが「ハリーには私から話すから」と言った。私はハリーの存在を失念していた。ハリーは祝福してくれるだろうか?
ーハリーに伝わってから皆にも報告しよう。
私はリリーと共にきた時と同じ馬車に乗り、家路についた。
勇者塔に帰ると部屋の前にロビンがいた。もちろん白いキトの姿で。
まだリリーがいるため、ロビンはニャーと鳴く。私はロビンを抱き、自室に入った。
「ロビン、着替えるから見ないでね」
そっとロビンに囁くと、ロビンが私だけに聞こえるように「見ないから安心したらいいよ」と返事した。
リリーにピンクのドレスを脱がしてもらい、結い上げてあった髪を下ろす。部屋についているバスルームでゆっくりと体をほぐす。
きっとロビンがきてなかったら、ここでザックとのことを思い出してもっとニマニマしただろうなと思うし、もっとリリーに聞いてもらっていたかもしれない。馬車の中でも、結局何だかボーとしてしまって、リリーに話が出来なかった。
浴槽の中で手足をグーっと伸ばす。何だか、霧がかかったようにぼんやりしていた視界が晴れてきた。
「ねぇ、リリー、ザックと恋人になったよ。初めての恋人だよ」
リリーが目を細めて嬉しそうに「良かったですね」と言った。
「フィラ様が勇気を出された結果です。恋人関係を楽しんで下さいね」
私は笑顔で頷いた。そう、きっとロビンがいなければこのままリリーに色々と恋人の作法見たいなものを聞けただろう。でもロビンが私の部屋でニャーと鳴いた。
私はそこで話を切り上げて、浴槽からも出る。鍛えているから引き締まった体をしていた。胸はそれほど大きくない。女らしくないその体を見てほんの少しため息が出た。
ーザックはこんな体の女でも触りたいと思うかな。
私がそう思った瞬間にまたロビンがニャーとなく。まるで思考を見られているみたいだ。いや、実際見られているのかもしれない。
私は体を拭いて寝巻きを着た。髪は自分の魔法で乾かす。
「フィラ様はお器用でいらっしゃいますよね」
リリーが関心した声を出す。火魔法と風魔法を組み合わせてドライヤーがわりにしているのだけど、これが普通は難しいらしい。関心しているリリーも水魔法においては上級魔法が使える。私は全ての魔法を満遍なく使えるけれど、全ての魔法が中級魔法だ。もっと魔法の腕を磨けば上級魔法も使えるようになるのだけど、私は剣士になりたかった。だから、魔法は中級を満遍なく使いこなせるようにして剣の鍛錬に重きを置いてきた。今ではエリアス副団長のように剣と魔法を組み合わせて戦えるようになった。
魔力量は生まれつきのところが大きいけれど、剣も魔法も努力次第でいくらでも上を目指すことができる。頑張れば報われる。騎士団は戦う専門だけど、魔法の研究施設も国にある。そこではあらゆる魔法の研究がされている。今は剣と魔法を組み合わせて戦うために最適な魔法は何かという研究テーマも取り扱われている。私のこのなんちゃってドライヤーも研究機関が聞きつけて聞き取り調査をして行った。まだ、多くの人が簡単にこのなんちゃってドライヤーを使うことはできないけれど、そのうち、簡単にできる方法を魔法研究所が解き明かしてくれるだろうと思う。
ここまで考えてハタと気づく。魔法研究所の幹部に魔物災害を実行する部隊があるのではないか?
多分、ロビンは知っているはずだ。
私は急いで、私のベッドの上で寛いでるであろうキトのロビンのところに向かった。
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