はらわたの熱きを恃み鳥渡る

 作者:宮坂静生(1937-)


 恃む、という言葉が好きである。自分一人にしかわからないかもしれないけど、それがあることによって、自分が自分であるもの。自分自身でいられるもの。支えであり、柱であり、自分を構成し、形づくっているもの。

 と言っても、それが何なのか、はっきりとは言えない。ただ、そういう概念に憧れているだけかもしれない。もしかしたら俳句なのかもしれないが、それは、そうと言えるほど、自分にとって大きなものだろうか。

 そんなもやもやした思いからこの句に目を向けると、清々しさに打たれる。空を渡っていく鳥たちは、自分の「はらわたの熱き」を恃んでどこかへ行くのだ。孤独で、困難もあるだろうその旅を支えるのは、いつも鼓動している心臓、胃や腸など、自分の大事な体の、その中枢部分だ。それは生きているという実感そのものだ。どんな立派な理想よりも、まずは体こそが資本である。魂とかガッツとか、そういう観念的なものではなく、「はらわた」というしっかりとした具体物が選択されているところに、作者への信頼を覚える。

 一日の終わりに鳥の散らばる空を見てこの句を胸に浮かべれば、私たちもまた、世を渡っていく一羽の鳥に過ぎないということに気づく。この句は作者が、自分も含めたたくさんの人びとに贈るエールとしての一句かもしれない。

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