甘え上手な銀髪後輩ちゃんの勉強法 ～テストで満点とったらご褒美に『えっち』したい～

甘え上手な銀髪後輩様の超天才的な学校生活（私は天才なので保険体育の授業で大人げなく無双してしまって心苦しいけど、これが天才であるが為の悩みなのよね凡人には分からないわよね天才でごめんなさいね編）

　私の名前は山崎シエラ。

　最終的には首藤シエラという名前になるかもしれないどこにでもいるような超天才にして最高にクールで最高にかっこよくて、首藤清司という最高の彼氏の彼女である天才児である。

「……次の授業は体育、ね」

　黒板に記されてある時間割に目を通して見ると、そこには無情にも『体育』という女の敵の名前が記されていたのであった。

「シエラちゃん？　そろそろ更衣室に向かわないと教室で男子が着替え始めるよ？」

「……。んー？　うわー！　本当じゃん！　歌乃ちゃんありがとねー！」

「もー！　ダメだよシエラちゃん！　あ、それともまだ傷が痛む感じ？　取り敢えず保健室でも行く？」

「大丈夫大丈夫！　心配してくれてありがとね歌乃ちゃん！　だーいすき！」

　私が寝泊まりの場として活用している首藤家の一員にして、私の友人であり、同級生でもあり、義妹にあたる首藤歌乃が体育を前に憂鬱な気分に陥っている私にそれとなく声をかけてくれた。

　ふと気がつけば、周囲の男子生徒ども――先輩の方がもっとイケメンで格好いいのだが、まぁ凡人共にあのレベルを求めるのは酷だとは我ながら思うのだけれども――が制服姿の私に向けて不躾な視線を送ってきやがっているのである。

　どうせ美少女にして高嶺の花であるこの私にその貧相な身体を見せて一目惚れさせようだなんていう算段に決まっているだろうが、どちらにせよそんな発情期の動物どもの企てに乗るつもりなぞ更々ない。

　私は慌てふためく男子どもを無視し、私が赤面する様を期待しているのであろうヤツにはギロリと睨み付け、歌乃ちゃんに誘われるがままに体操服が入った荷物を手にとってから教室を後にした。

「……ところでシエラちゃん。さっきのアレ、男子にはご褒美だったりするよ？」

「えー？　心当たりなーい！　私、何かしちゃってたかなー！」

「……今までのシエラちゃんを知っている状態でこのシエラちゃんと触れ合うと色々と混乱するなぁ……」

「――黙って。いい？　黙って。学校内での私はそういうキャラだって、事前に報告したばかりじゃないの」

「あぁ、良かった。実を言うとそっちの人間関係クソザコ天才美少女（笑）の方にすっかり慣れちゃったんだよね私」

「……なんで美少女の後の語調が笑っていたのかしら……？」

「おっと、これはご褒美の流れ。厳しくお願いします」

「ご褒美じゃないんだけど!?」

　廊下をすたすたと歩きながら、私は思わず素を出しながら先輩の妹であらせられる彼女と更衣室に向かいながらそんな雑談に興じていた。

　幸いというべきか、噂好きな女子生徒は更衣室に既に向かっているし、男子生徒はまだ体育服に着替えている最中であるので、こうしてのんびりと歩んでいても十二分に体育の授業には間にあう。

「さーて！　この体育が終わったら暫くの間体育ないんだよなぁ。嫌だなぁ期末試験」

「どうせ歌乃ちゃんは今回も学年1位を取るくせに」

「どうかなー。去年はそうだったけど、今年はダークホースがいるからなぁ」

　ちらりと、含みがあるような笑顔でこちらを向いてくる彼女ではあるのだが……実を言うと、満点を取ったら先輩にご褒美を貰うというシステム自体は相変わらず続投しているので、私は期末試験で満点を取るつもり満々なのである。

「とはいえ、そうは簡単に学年1位の座は渡さないからね？」

「そうね。歌乃ちゃんが私と同率1位になる事を心から祈る事にしましょうか」

「はは、シエラちゃんったら相変わらずのドSっぷりだねぇ。さっき見せたようなドSな性格を他の人に見せればいいのになぁ……とは思いつつ、そっちの方のシエラちゃんも大好きな私なのでした」

「……まぁ、他のクラスメイトを騙しているのには変わりはないけどね」

「いやいや、別にいいでしょ。要はSNSと現実の性格が違っているのと同じ現象なだけだから。現実世界と空想世界のキャラが違うだけでしょ？　同じように家と学校でも性格が変わる人いるし、同級生と先生で態度が変わる人だっているでしょ？　シエラちゃんは小難しく考えすぎだよ」

「……そうかしら」

「嘘を嘘だと信じる人ももちろんいるけれど、嘘を嘘だと分かって楽しむ人もいる世の中だからね。まぁ、一番良いのはなりたい自分になることだって私は思うね」

　まるであの日のお義母様が私に聞かせてくれたような言葉を口にしている彼女を目の当たりにして驚きと感動が半々であった。

　同じ血が流れているからか、あるいは同じ環境で物事の基準を学習したからか、彼女は時折、私が憧れているお義母様のような事を口にするのであった。

「だってほら！　私Vtuberとか大好きだし！　後、バ美肉おじさんとかも大好きなんだよね！　男が女の子のフリをしているのがかわいくてかわいくてたまんないのよねー！　だから、ついついスパチャという名の逆パパ活しちゃうの！」

「歌乃ちゃん!?　何を言っているの歌乃ちゃん!?」

「そう言えばシエラちゃんは機材関係とか得意そうだよね!?　どう!?　これを機に私を逆バ美肉おじさんにして、ネットという電子の海で罵倒という罵倒と誹謗中傷の数々をその身に受けるというドM活のお手伝いをしてくれないかな!?」

「色々と倒錯的すぎるわよ貴女!?　まぁ機材があれば出来ますが!?　なんならモデル作成も動画編集も出来ますが!?　だって私は天才ですから!?　とはいえ義理の妹をそんな世界に送り込むのは義姉（あね）として見過ごせません！　却下よ却下！」

「あはは、だよねー」

　そんなあまりにも馬鹿馬鹿しいやり取りをまさか学校で出来るだなんてまさに夢のようで、そんな経験をさせてくれた……いや、その経験をしようと決心するだけの自信を私に持たせてくれた先輩に私は心の中で感謝していた。

「ところでシエラちゃん、どうしてさっきぼーっとしてたの？　もしかして……アレ？　なら保健室に送るし、体育の先生にも説明しておくけど」

「大丈夫。全然違うから安心して」

　そう口にした私の表情をまるで小動物のように覗き込む歌乃ちゃんは何かに気付いたのか、ははーん、と訳知り顔を浮かべてみせたのであった。

「あー。そういう事ね。うわ、しょうもなー」

「……何よ」

「別にいいじゃん。体育が終わった後は昼休みでしょ？　休み時間中に兄さんとキスできないからといって、そんなに不貞腐れる必要とかなくない？　バカップルか？　バカップルだったね」

「はー!?　全然違いますけどー!?　別に先輩とキスなんかしたい訳じゃありませんけどー!?　向こうが勝手にされるだけなんですけどー!?　まぁ確かに今日はキスもしたけど数自体は少ないんですけどー!?　まだ6回しかしてないんですけどー!?　別に体育で着替えないといけないから先輩とキスできなくて残念とか思ってませんけどー!?　何なら折角先輩と一緒にいられる昼休みだっていうのに汗をかいた状態の私を見られるのが滅茶苦茶、恥ずかしいってだけですがー!?　そもそもなんでこんなに暑いのよ6月の梅雨のボケナスゥ！」

　そんなこんなで私はとっても知的で冷静に彼女に反論したのだが、当の彼女は私の反論の余りの正当さに驚愕でもしたのか「シエラちゃんって発情期の猿だったりするのかな。いや、猿のほうがまだマシかも」と見当違いな言葉を口に出しながら、ドン引きしたような表情を浮かべていた。

「ふーん。じゃあ、昼休みのキスはしないんだー。朝ご飯食べる前にやっていたおはようのキスとか、いってきますのキスと、学校頑張ってねのキスと、１時限目の休み時間のキスと、2時限目の休み時間のキスと、3時限目の休み時間のキスを散々やっておきながら、昼休みのキスはしないんだー」

「しないわよいえするわよ！」

「私の親友が発情期のチンパンジーすぎる……っと、ふわぁぁぁ～～～……」

「あら随分と大きな欠伸（あくび）ね。これから体育だって言うのに大丈夫？」

「……いや、その。色々あって……」

「そうなの？　眠りについたのはいつも通りだったと思うのだけれども」

　歩きながらの話の途中でいきなり大きな欠伸をしてみせた歌乃ちゃんである訳だが、基本的に私の眠る場所は彼女の自室を借りており、基本的に彼女と一緒に眠りにつくのが最近の私の生活である。

　欲を言えば先輩と一緒に寝たかったのだが、それは流石にまだ早いからダメと、お義母様に釘を刺されたし、お義母様の信用度を下げる必要性もないので、やむなく言うことを聞く事にしたという経緯があった。

「実は寝つけなくて……」

「――は？」

「……うん、その、ね？　程々にしよ？　真横で先輩先輩言いながら布団の中でもぞもぞするの止めよ？　ね？　実を言うとシエラちゃんがうちに泊まる事になって1週間が経ったけれど、私はずっとその所為で寝不足と言いますか……まぁ、うん。いやらしい声を出すの、本当に止めよ？　ね？　昨日も3時間ぐらい横でされた時は本当に寝れないって思ったから……」

　若干、赤面しながら。

　目の下にちょっと黒いクマが出来ている彼女は本当に困っていると言わんばかりの表情を浮かべて、切実にそう訴えてきた。

「――な。な、な、な……!?」

「本当にお願いだから、義妹の横でオナ――」

「にゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

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「あ、ボール行ったよ！　おなにゃあああちゃん！」

「その誤解を招くような名称は本当に止めてくれないかしら歌乃ちゃん!?」

「えー。お姉ちゃんみたいでいいじゃん。発情期淫乱猿（おなにゃあああ）ちゃん。うん、いいじゃん！」

「よくないわよっ!?」

　私がみっともなく悲鳴をあげてしまった後だというのにも関わらず、無情にも時計の針は過ぎ去っていき、私は先輩のキスという機会を奪いやがった体育の授業に勤しんでいた。

　今日の授業は体育館で行われる男女に分かれてのバレーボールであり、2人1組のペアを組んでの授業……という名を借りたボール遊びのような授業であった。

　――『じゃあ2人1組のペアを作って』という体育教師の死刑宣告（めいれい）を聞いた瞬間、私は友達0人という過去を思い出して動けなくなっていたのだが、心優しい歌乃ちゃんはそんな私の心情に察してくれたので私のペアになってくれたのは本当にありがたく、先ほど彼女が言ったようなふざけた名称にとやかく言えないのが現状だったりする。

「今度こそ取ってね、おなにゃああちゃん！」　

「だーかーらーそーれーはーやーめーてーっーてーばー!?」

　とはいえ、こんなのは軽い児戯のようなものだ。

　これなら昼休みの後でも多少の制汗剤を使用すれば、汗の匂いを気にしないまま先輩と仲良く昼食を取る事が出来るだろうと私は安堵していた――。

「――ひぎぃ!?」

「あ。またシエラちゃんがレシーブを失敗して顔面にボールぶつけてる。大丈夫？　これで軽く20回目だよ？」

「ふ、ふん！　大丈夫に決まっているじゃないのよ！」

「すごい涙目で言われても説得力ないよシエラちゃん」

　――安堵していた筈だったのだが。

　天才である私は現在進行形で、とんでもないほどの辱しめを義妹から受けていた。

「いや、最初はね？　私の寝不足の所為で下手クソなボールを投げてるのかなって思ったんだよ？　まさかシエラちゃんが只単に下手クソって思わないじゃん普通。人間関係クソザコと恋愛経験クソザコに加えて、更に運動神経クソザコまでつけるのは流石に属性過多じゃないかなシエラちゃん」

「ち、違うの！　頭の中では天才の私が天才的な動きで天才的なトスをしているのよよ！」

「頭の中で出来ても現実で出来てなかったら意味ないんだよシエラちゃん」

「そうね！　ぐうの音の出ないほどの正論ね！」

　そもそもの話であるのだが。

　私は超記憶持ちの天才だからと言って、運動性能も同じように超天才な訳がないのである。

　本当に恥ずかしい話ではあるのだが、私は昔から運動が苦手だった。

　いや、本当の本当に苦手なのは運動だけで！

　本当にそれ以外は超天才的に出来るんです！

　運動だけは何故か出来ないんです！

「にしても、シエラちゃんってスポーツが苦手なんだね」

「そりゃそうでしょう!?　だってルールがあるのよ!?」

「デスゲームでも始める気なのかな」

　そう言うと彼女はやれやれと言わんばかりため息を吐いては、まるで考え事をするように顎に手を当ててみせた。

「うーん。取り敢えず見た感じ、そもそもシエラちゃんの手の形が違うね。後、レシーブする時は目を開けないと駄目だよ？」

「目を開けたら怖いじゃない!?」

「あー、うん、そうだね、期待してごめんね」

「期待してよぉぉぉ……！」

　私は号泣しながらすがりつくと、彼女は凄く面倒くさそうな顔を浮かべては、様々な妥協案を出してくれた。

「取り敢えず、正面からボール受けてみたら？」

「正面から!?　ボールが頭に当たったらどうするの!?　怖くて出来ないわよそんな事!?」

「目を開けよう。そして、避けよう」

「私にそんな高等複合動作ができる訳ないじゃない!?」

「四の五の言わない。はい、行くよ」

　そう言うと彼女は私に向かって円を描くようにボールを投げてくれた。

　私はそんな彼女の期待に裏切らないべく、絶対に目を閉じないぞと固く決心し――。

「――はっ！」

「おぉ」

「出来た！　見た！　ねぇ見たわよね！　やった！　出来たわよ歌乃ちゃん！」

「うん、出来たね。目を開けるのは。でも、手も足も動いてないのはどうなの？　目を開けるだけとか誰でも出来るよシエラちゃん」

「……え？　目を開けて……ボールを見つつ……手と……足を……動かす……ですって!?　無理よ！　そんなの人間に出来る訳ないじゃない!?」

「今までどうやって生きてきたのシエラちゃん」

　本当にどうすればいいんだろうこの人、という声を出しながらも、彼女は私に色々な改善案を口にしてくれた。

「……取り敢えず、ボールを見るのに一生懸命になりすぎてたね。後は身体を動かすだけなんだけれども……」

「そこが難しいのよね」

「うーん。こうなったら身体に覚えこませるしかないね。じゃあ、本当に痛くないボールをゆっくり投げるから、シエラちゃんは気構えずに目を開けて、身体を動かして、ボールをレシーブしてね」

　それ、と彼女は先ほどよりも本当に遅くてゆっくりと落ちてくるボールを私に提供してくれた。

「はっ！　――ひぎぃっ!?」

　この速度なら多分出来そうだと決意していた私ではあるのだが、歌乃ちゃんが投げたボールがやってくるよりも前に物凄い勢いでレシーブをしたら、勢い余った自分の腕が顔面に当たった。

　すごく、いたかったです。

「いたぁ!?　――ぼえぇあ!?」

　今度はボールが頭にぶつかってきた所為で驚いてしまった私は、驚きのあまりそのまま体育館の床の上に転倒し、思い切り頭を床にぶつけてしまった。

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああんんん！！！」

「うわぁ！　シエラちゃんがすごく大人げなく泣いてるぅ⁉」

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「ところでシエラ」

「何かしら先輩」

「さっきの4時限目の授業の時にシエラの泣き声みたいなのが体育館から聞こえてきたんだけれども……心あたりある？」

「先輩は馬鹿ね。私は超がつくほどの天才よ？　私は天才なので保険体育の授業で大人げなく無双してしまって心苦しいけど、これが天才であるが為の悩みなのよね凡人には分からないわよね天才でごめんなさいね」

「そっか」

「そうよ」

「なら、なんでその超天才様が保健室のベッドの上にいる訳なの？」

「天才的な頭脳と天才的な運動神経が合わさってしまった結果、人間の身体という脆い肉体が私の超天才的な力を前に耐え切れなかったからでしょうね」

「そうなんだ」

「そうなのよ」

　そんなやり取りを挟みつつ、手の指全てを突き指した挙句、軽い脳震盪を引き起こしては両目をまるでガチ泣きしたかのごとく赤く腫らし、体操服姿で保健室のベッドの上で横たわる彼女の話相手になりながら、俺たちは昼休みの間、保健室の一室で2人仲良く彼女が作ってくれた弁当を食べたのであった。

「今度、俺たち2人で市民体育館に行ってバレーボールの練習する？」

「……あれ怖いからやだぁ……怖かったから頭なでなでしてぇ……」