甘え上手な銀髪後輩ちゃんは暑がり屋さん

 俺は放課後、後輩の勉強を見ている。

 俺が勉強を見ている後輩は普通の後輩と違う点が幾つかあるのだが──取り敢えず、2つほど列挙させて頂こうと思う。


 まず1つ目。

 彼女は銀髪だ。

 

 そもそも、彼女の名前は山崎やまさきシエラと言うのだが、名前の時点でなんかこう異国の美少女感が凄い。


 そして、2つ目。

 男にとっては大変喜ばしい事なのかもしれないが、俺はあくまで先輩なのでこれにはいつも大変頭を悩ませているのである。


 ──というのも。


「せんぱーい。今日暑すぎませーん? あ~つ~い~で~す~。せんぱ~い。ひ~や~し~て~」


「ボ、ボ、ボ──! ボタンあけすぎだろ!?」


「えへへー。先輩のえっちー」


 彼女は何故かこういうスキンシップをやたらとやってくるのである。

 しかも、彼女はかなりの美少女な訳で。

 更には、目が勝手に二度見してしまうぐらい物凄いモデル体型な訳で。


 そんな体つきの彼女が合服になって、いつもよりも肌を晒して、その状態であるのにも関わらず、白シャツのボタンを外している!


 4月であるというのにも関わらず、暑い暑いと口にしてはわざと白シャツを開け放ち、そこから見えるおっぱいがちょうどいい大きさでありながらも大変健康的でよろしいのだ!


「──じゃねんだよ、俺!」


「あれれー? 先輩どこ見てるんですかー? あは、やらーしー」


「ちがっ……別に見ようとした訳じゃなくて……!」


「先輩のえっちー。私は真面目に勉強してるのに……えー? 信じられなーい。先輩だけ不真面目くんですねー?」


 目を逸らして抵抗を図る俺をニヤニヤと見つめては面白そうに笑う彼女であった。

 しかしながら、彼女はこう笑っている間だというのにも関わらず自身の胸を俺の視界に入れさせようとしているので、俺は必死になって彼女の胸から視界を逸らし続けている。


 ──だって直視したら、俺のあそこが直立しそうだもの!

 そしたら、絶対にこの美少女すぎる後輩にからかわれるに決まっているではないか!


「エ、エアコンつければいいだけだろ……!」


「今は4月ですよ? 環境に悪いんで私は我慢しますとも。そんな事よりも私は先輩に冷やしてもらいたいってお願いしているんですけどねー?」


「自分で冷やせばいいじゃん……!?」


「そう言えば、私のご先祖様って北欧かどっかの国の出だそうでしてー。私のおばあちゃんも私と同じ銀髪なんですよー。隔世遺伝ってヤツでしょうかー。なので、私、暑いのには滅法弱くてですねー」


「そういう体質的なものを解決できるのが人間の知恵の結晶であるエアコンだろうが!? 我慢するなよ⁉」


 俺が我慢できなくなったらどうするつもりだよこの美少女!

 だが、彼女は嘘をつくかのようにニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてみせる。


「実は私、エアコンアレルギーでして。エアコンをつけると死んでしまう星の元に産まれちゃいましてー。まぁ、その代償として学園最高の美少女になりましたがー」


「絶対噓だろ……!?」


「ま、嘘ですけどねー。そんな事より先輩にも喉とか脇に汗疹が出来ますよねー? 汗疹が出来たら勉強集中できなくなりますよねー?」 


「ま、まぁ……そりゃ、そうだけど……!」


「それと同じように女子の胸にも汗疹が出来るんですよー」


「──はい?」


「という訳で、せんぱーい。私の胸に汗疹が出来ないようにふきふきしてくれたら嬉しいですねー?」


 そういうと彼女は白シャツの胸を強調してみせた。

 ……確かに、まぁ、うん!

 あそこが蒸れて、勉強に集中できなくなったらイケないもんね!


「――じゃねえんだよ俺⁉ ここ学校! ここ神聖な学び舎! こんな場所で女の子の胸を触るだなんていけませんよ⁉」


「むー。強情。御託はいいんでさっさと拭いてくれません?」


 むすっとした表情を浮かべてこちらを一瞥してくる彼女を横目に、俺は思わず席から立ち上がって、教室に1つはあるであろうエアコンのリモコンを探す――のだが。


「あれ……あれ……あれ⁉ リモコンがないんだけど⁉」


「そういえば私がこの教室に来た時にはありませんでしたね。全くどこに行ったのやら検討がつかないですねー? 困ったなー」


はかりやがったなお前……⁉」


「えー? 私、知らなーい」


 飄々とした表情でけらけらと面白そうに笑う彼女だったのだが、中々動こうともしない俺に対してしびれを切らしたのか、ついに本腰を入れて動き出したのであった。


「そう言えば先輩。私がテストで満点を取ったら先輩がご褒美をあげる……って約束

でしたよね?」


「え、あ、うん。そうだったな」


「テスト、ですよね? なら、? 報告するの忘れてましたけど、今日の数学の小テスト、満点だったんですよ?」


 彼女の整った顔がぐぐいと俺の眼前に寄せてくる。

 それだけでもかなり暴力的であるというのに、彼女の吐息が俺の顔面に少し吹きかかっただけで俺は昨日、目の前の美少女にキスをされたという記憶が蘇ってきて途端に恥ずかしい気持ちになってしまった。


「……あれ? ……もしかして、ないんですか……?」


 先ほどまで嬉しそうな顔を浮かべていた彼女は途端に悲しそうな表情を浮かべてみせた。


 ころころと表情を変えてみせる彼女はまるで万華鏡を思わせてとても魅力的だとは思うのだが、やはり、目の前の美少女が悲しそうな表情をして気にしないという男子高校生が果たしているだろうか。


 絶対にいない。


「ない、って……もしかしてご褒美の事か?」 


「……はい。そうです。……そうですよね……ご褒美はもっとちゃんとしたテストでやるべきですもんね……あはは……私ってば1人で勝手にご褒美貰えるって思い込んでいたんですね……バカだなぁ、私……」


 とても悲しそうな雰囲気を漂わせながら、彼女はどこか遠い目をしていた。

 

 ……不味い。

 このままでは彼女が『小テストで頑張る必要性が無い』と思い込んでしまえば、本当に不味い。


 基本的に学校で行われる小テストというものは先生方が生徒の理解度を確認する為に行われるのが目的だ。


 それに一度作った小テストの問題を期末試験で流用してくる例なんて何度もある。


 であれば、小テストで何度か満点を取れる実力がついたのであれば、自ずとテストでも結果が出せるようには作られているのだ。


 小テストに出題された問題を徹底的に対策すれば、来週行われる中間テストで絶対にいい結果が残せるというのに、それをわざわざ無下にしてよいものだろうか?


 それに折角彼女が頑張ったというのに、それに対してのご褒美がないというのも可哀想な話だと思う。


 人生で初めて、小テストとはいえ、満点を取ったのだから、彼女に勉強を教えている俺は彼女に何かしらのご褒美をあげるべきではないのだろうか……!?


「OKだ! ご褒美OK! 小テストでもテストはテスト! 人生初の満点を取ったんだからご褒美をやるというのが先輩というものだろう!?」


「……先輩はちょろいですねぇ」


 小さい声でそういう後輩ではあるのだが、俺は敢えてその言葉を聞き流すことにした。

 確かに我ながらこの後輩に甘いとは思うのだけれども……!

 でも、これは目の前にいる後輩の為であって、俺の我欲だとか肉欲は全く関係はなくてだな……⁉


「やった。じゃあ……ご、ほ、う、び。くださいな?」


 ボタンを外し、無防備になっている彼女の胸元がぐぐい、と俺の方に押し寄せられてくる。

 

 彼女の胸が揺れる度に、俺の眼がその揺れを逃さまいと言わんばかりに釘付けになってしまう。

 彼女の胸の肌を網膜に焼き付けようと言わんばかりに両目が彼女の胸を見入っている。


「先輩ったら視線が釘付けじゃないですかー。ふふふ、やらーしーですねー?」


「ち、違っ……! こ、これは……!」


「野性的で素敵なお目々ですよ……? でも、優しく拭いてくださいね……?」


 俺の身体に密着するように彼女の胸が俺の胴体にくっつく。

 彼女の胸の弾力という弾力に全ての意識が一瞬、持っていかれそうになってしまう感覚を覚える。


「あは。せんぱーい。心臓ドキドキしすぎですよ?」 


 俺に密着している彼女だからこそ指摘できる俺の心臓の拍動音。

 こんなにも至近距離で、血の繋がりが一切ない異性に心臓の音を聞かれるだなんて、産まれて初めての出来事であった。


「タ、タオルは……!?」


「先輩のお手々でやるに決まっているじゃないですか」


 そんな彼女の更なる発言に戸惑う俺を嘲笑うように、彼女はまるで獲物をいたぶるかのように嗜虐的な甘い声で囁いてみせた。


「私の胸、他の女子よりも少しばかり大きいんですよね。異国の血のおかげでしょうか? その所為でよく谷間に汗が流れ込んで困るんですけどね。なので、そこを拭いてくださるのが今日の先輩にして貰うご褒美という訳ですよ……?」


 確かに彼女の胸は大きい。

 まるで男の夢が詰まっているかのように大きい。

 俺の理性を突き放してしまうぐらいに大きくて、俺の頭がおかしくなってしまいそうになる。


「ほら、早く観念して私の胸を拭いてくださいね……? いいんですよ……? これはただのご褒美で、ご褒美だから先輩は合法的に触れるんですよ……? だったら、いいじゃないですか……? いけないことなんてありませんよ……?」


 彼女の胸と違った柔らかさの手が、おっぱいと同じ肌の手が、俺の手を逃がさないと言わんばかりに包み込んで、俺の手を彼女の胸へと誘導していく。


「男の人にこうして胸を触らせるの、産まれて初めてです。私の初めてをどうか楽しんでくださいね……?」


 ──俺は放課後、後輩の勉強を見ている。

 俺が勉強を見ている後輩は普通の後輩と違う点が幾つかあるが、取り敢えず、一番の問題点を挙げさせて頂こうと思う。




















「えっちすぎるんだよォォォオオオ!!!」












 かくして、俺は彼女から逃げたのであった。




━╋━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




「あ。せんぱーい。逃げないでくださいよー。ご褒美ちゃんとくださいよー。もー。先輩のヘタレー。ま、これからもずっと満点取り続けるんで先輩は逃げられないんですけどね……?」


 彼の後ろ姿にそんな声をかけて、私はシャツのボタンを締め直す。

 こんな破廉恥な姿は彼以外に見せたくもないし、見せる訳がない。

 まぁ、これに関しては恋する乙女としましては至極当然の考えである訳なのだが――。


「……あれ?」


 そこまで色々と考えついて、私はとある結論を出してしまった。


「もしかしなくても、さっきの私って……かなりのド変態だったりしないかしら?」

 

 普通に考えてみよう。

 普通の女子が学校で胸元を開けて、誰かがいつどのタイミングで入ってくるかも分からない状態で異性に胸を触らせる。


 うん。

 そうね。

 そんなの――。


「――そんなの誰がどう見ても変態のやることじゃないの⁉」


 にゃあああああああ、と私は奇声をあげながら机に向かって頭をガンガンと何度も叩きつけた。


「変態よ! ド変態よ! 私ってこんな変態女だったの⁉ ノリと気分で好き勝手言っていたらヤバイ雰囲気になっていたじゃない⁉ どこのAVよ⁉ まぁ確かに? 毎日頑張って育乳に励んでいましたが⁉ 中学校1年の時は無だったもの! 壁よ! 平よ! Aだったわよ! アレから5年も毎日頑張って育乳運動をやりすぎたら脂肪が無くなりそうになったという恐怖を抱えながら大切に大きくした私の胸は人生の財産よ⁉」


 はぁはぁ、と肩で息をしながら、私は落ち着くべく1時間ぐらい素数を数えた。


「……944873、944887、944893、944897、944899、944929、944953、944963、944969、944987、945031、945037、945059、945089、945103……うん、今の私は落ち着いている。すっごく落ち着いている。1から945103まで素数を数えられたぐらいだからすっごく落ち着いているのは誰がどう見ても確定的に明らか。……ふん、何を慌てる必要があるのでしょう。所詮、胸を触らせる程度なんて夫婦間では当たり前のこと。そう、私は当たり前の事をしているだけのこと。そう夫婦――夫婦ゥ⁉」


 夫婦とは、世間一般的には男女を意味する単語である。

 そう、男女。


「な、な、な……!」


 女は、そうね、私ね?

 じゃあ、男は?

 それはもちろん、大好きな、あの――。


「にゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉」

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