首なしライダーと疾走す!

龍神雲

首なしライダーと疾走す!

 花火が一つ、二つと上がり、やがてパラパラと無数にそこかしこの空で光の粒子が弾けて大輪を咲かしていく。夏の風物詩の象徴である花火は、この時節ならではの定番だ。だが私が今いる場所は、そことは無縁の場所の奥多摩のトンネル内にいる。そう、今日こそ決着をつけるのだ、奴と──。

 フルフェイスのヘルメットを目深に被り、エンジンをふかしながら時刻を確認する。奴が現れる時間帯は決まって十時──刹那、バババという音と古めかしいエンジン音の臭気が漂ってきた。振り向かなくとも奴、W1ダブルワンに乗る首なしライダーだと分かる。


「今日こそ私が勝つ!」


 そして奴と並走した瞬間、フルスロットル全開で一挙に加速していく。因みに私のバイクはニンジャ400だ。首なしライダーは何も喋らないし、そもそもが喋れないが、私から引き離されないようにして並走していく。


 ──中々、振り切れないわね……


 だが諦めなかった。トンネルを抜け、渓谷見えるコーナーを利用してぶち抜き、つきはなそうと考えていた。そして直に渓谷が見えるコーナーが見えてきた。思いきり加速して曲がろうとした刹那、急に奴は加速して私の前に躍り出ると、減速しながら蛇行運転を始めた。右に、左に、おまけに減速とブレーキまで掛け、私の視界を遮っていく──


「ちょ……邪魔!」


 だが文句を言ったその時、首なしライダーの姿がふっと消失し、目の前に大きなトラックが出現した。


 ──あ、ひかれる……!


 走馬灯のように思い出が流れ始めるが、直後、ぐいっと腕を引っ張られトラックとは反対側の歩道の砂利へとバイクと体ごと投げ出された。強く道路に体を打ち付けられてしまったが、腕と膝を擦りむいただけであとは何処も酷い怪我はなく、バイクも車体に少し傷が入っただけで済んだ。体を起こせば、奴が──首なしライダーがエンジン音をふかし、待機していた。だが奴が待機し、見詰める先には私ではなく、コーナーのガードレール下から見える渓谷側の景色の方面だ。首なしライダーはそちらに体を向けていた。


「……?」


 首なしライダーが向ける視線──と言っても頭がないから今一分からないが、とまれ、視線を向ける先は下だった。だが今日も勝負はつかず、私を一瞥いちべつするように首なしライダーは引き返して行き、勝負はお預けとなった。そして家に帰宅してテレビをつけて初めて分かったことだが、私が投げ出されたコーナーから見えた、渓谷のガードレールの下では、女性が首を吊っていたというニュースが流れていた。同時刻に運転を見誤ったトラックがその渓谷のガードレール下に引き込まれそうになったのは、偶然とは言えないかもしれない。トラックを巻き込み、私を巻き込み、首を吊った女性は死地へと誘おうとしていたのかもしれない──


 ──もしかして、首なしライダーは助けてくれたのかな……?


 首なしライダーが取った行動が分からないが、勝負の決着がついた暁に直接、奴から問い質すのもいいかもしれない──


「決着がつくまで、これからも変わらず勝負よ!」


 声高に宣言すれば、エンジンをふかす音が木霊した。奴なりに応えてくれたのだろうか。そしてこの終わりなき走りの勝負がついたのは、夏休みがあけてからのことになったが、奴との勝負がついた後も私は変わらず、そこで疾走している。

 勿論、首なしライダーと共に──

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