Episode.5「It could be explained」

「これが去年度、学校が刊行かんこうした冊子さっし。全部で8冊ある」

そういいながら、ほたる君は机に並べられた資料を指さした。

「それを全部調べてみたけど、オカルト研究部の活動報告かつどうほうこくなんてどこにもっていなかった」

 私たち3人はそれぞれ、何冊かを手に取って中を調べる。確かにどの目次にも、「オカルト研究部」なんて項目こうもくはなかった。


去年度きょねんどのものにっていないなら、もっと前に発行はっこうされたものにはっているんじゃないかと思ったんだ。それがこっち」

私たちが一通ひととお見終みおわった後、ほたる君は奥のロッカーにしまわれた百はあろうかというほどの冊子さっしを指さした。そしてその中から、数十冊すうじゅっさつを引き出す。


「そうしたら、34年前と33年前の二年間だけ、オカルト研究部なる部活の活動報告書かつどうほうこくしょ掲載けいさいされた冊子さっし発行はっこうされていたことが分かったんだ。見てごらん」

渡された冊子さっしの中をあらためる。黄ばんだ表紙にダサいフォント。いかにも30年前らしい。


「うわ、ほんとじゃん」そうくんが驚く。

「やっぱり、昔にはあったんだ」あおくんが喜んで、その活動報告書かつどうほうこくしょのタイトルを読み上げる。

「『理科室の亡霊ぼうれい』、『家庭科実習室のポルターガイスト』、『音楽室のかい』……。学校の七不思議ななふしぎを調べるって感じの活動だったんだね」


 それを見ながら、私は頭の中に猛烈もうれつき上がってきた違和感を言語化しようと、思わず口をはさんだ。

「でも、もしオカルト研究部が実際に昔あって、それが二年間で廃部になったのなら、あのうわさは何よ。『オカルト研究部が実際にあるのに入れない』なんて、そんな言い方のうわさが立つかしら」


「え、どういうことだ?」そうくんが首をひねる。あおくんが補足した。

「昔あったオカルト研究部が廃部になったのなら、うわさは『オカルト研究部があったけど入れなかった』ってってことだよ」


 ほたる君はあごに指を当てて、しばし考え込んだ。

「それを説明するには、ちょっとこの学校の歴史から話さなくてはならないんだ。実は、今から35年前、ある女子生徒が旧校舎きゅうこうしゃで……」

「それはさっき聞いたわ。省略して」私は不愛想ぶあいそうに言ってしまった。早く真実しんじつが知りたかったのだ。

「えっと、そうなんだね。とにかく35年前に事件があった。そして、34年前と33年前、つまりその次の年とさらにその翌年よくねんの二年間だけ、オカルト研究部が活動しているんだよ。つまりこの部活は」

「その事件と関係あるんだな。多分、事件にショックを受けた生徒たちが怪奇現象かいきげんしょううわさするようになって、それで急遽きゅうきょ発足したんだ」はぁなるほどな、と言いながらそうくんが口をはさむ。


「……うん、そうだろうね。この部活が学校の七不思議ななふしぎを中心に調べていたのも」

「ショックを受けた生徒たちは、事件が起きた旧校舎きゅうこうしゃ怪奇現象かいきげんしょうが起きると思ったんだ。自殺した生徒はいじめで自殺してから。それで、学校が呪われたんじゃないかって考えたんだね」今度はあおくんが閃く。


「……その可能性が高いだろうね。そして、これを見てごらんよ。32年前の5月の冊子さっしだ。オカルト研究部が廃部になってから、最初に発行はっこうされたものだね。ここには、元・生徒会長の言葉で、こう書いてある。

『去年までオカルト研究部があり興味深い活動報告かつどうほうこくも受けていたのだが、その正体はその名にたがわず奇妙きみょうなものであった。まず、とう研究部に誰が所属しているのかは、私でさえ知らないのである。おそらく生徒のうち誰一人も、本人たちは別にして、そのメンバを知っている者はいないであろう。プライバシの問題とやらで、一部教員にのみその名は知られていたのである。

 そして彼らは、新入生の勧誘かんゆうを行っている様子もなく、部室棟ぶしつとうにさえその部室を持ってはいなかった。いったいどこで誰が活動しているのか全く不明と言わざるを得ない状況であった。

 しかし彼らの活動が、3年前の悲劇ひげきで傷ついた生徒の心と学校の風紀ふうきなぐさめるものであったことは間違いない。私もあの悲劇の少女と同年のよしみがあったから、一人の当事者としてオカルト研究部の活動にはなぐめられたのである。つまり彼らの活動は主に、オカルト現象を否定し、あの悲劇の呪いの不在を証明するものであったからである』。

どうだろう、これは極めて面白い史料しりょうだよね」

言い終わると、彼はその冊子さっしいを開いて私たちに見せた。確かに、少し古い字体じたいでそう書いてある。紙束かみたばを手に取ると、かびの臭いがツンと鼻をした。


「面白いとは思うけど、結局オカルト研究部については分からないままじゃない。当時の生徒会長でさえ分からないんだから。

それに、あのうわさの件、どうしてうわさが過去形にならなかったのかも分からないわ」私は反論した。

「そうかい? 納得のいく説明をつけることは、可能ではあると思うよ」少し鼻を伸ばして、ほたる君が言った。少し腹が立つけれども、こういう時は探偵が話すと相場そうばが決まっているのだ。これだから、

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