機械人形と秘密の恋

「オルガ、今日の予定はどうなっていたっけ?」

「ハイ、キョウハ シマ ノ ミマワリ ト、サカナ ヲ トル アミ ノ テンケンデス」

「そうか、じゃ行こうか?」

 僕は、オルガという女性型アンドロイドと一緒に絶海の孤島で暮らしている。


 ここには、生活に必要な施設と半永久的に発電可能な発電装置で電力があり、不自由ない暮らしをしている。


 元々、育児用アンドロイドだったオルガは、科学者であった父と母が、サバイバルが必要な所でも対象を守ることが出来るようにアップデートしてくれていたものだ。

 育児用なら人と同程度の腕力しか出ない様に作られているが、あらゆる身体能力が、育児用より数十倍もパワーアップしている。

 荒れ狂う海の中でも、足についている小型のスクリュウー型のジェット推進装置で自在に移動ができ、空も移動が出来る。

 水中なら水を取り込み、陸上なら空気を取り込んで、それを噴射して推力を得るというわけだ。


 嵐の中の点検で、何度か危険な目にあった時も、余裕で助けてくれた。


 小さかった頃は、母の様に思っていたが、長ずるに従って姉の様に思い、今はサバイバルワークを一緒にこなすパートナーという感じに変わっていった。

 それは、オルガの容姿が、ずっと変わらないせいもある。


 ずっと美しい女性の容姿でいるからだ。


 アンドロイドだから当たり前だとわかってはいるが、オルガのサポートは、常に私を立てくれるからだ。

 しかし、ある時、アンドロイドのオルガが、物思いにふけっているように考え事をしていた。


「どうしたオルガ。初めてじゃないか、ボーとした感じで考え事をしてるなんて」

 僕は、オルガの状態を心配した。

 このアンドロイドが壊れたら、島の施設のメンテナンスをこなすことが困難になる。

 とても、一人では、一日で終わる分量ではないからだ。

 怠れば、ジリ貧になってしまう。


「ハイ。ナンデモ アリマセン。スコシ カンガエゴト ヲ シテイタモノデ」

「考え事? オルガのAIは、そんな人間みたいな事も出来るのか?」

「ワカリマセン。 ナニカ モウヒトリ ノ ワタシ ガ、メヲ サマス ヨウナ カンジガ シテ」

「感じがして? もう一人の? プログラムに問題でも出たのかな?」

「イイエ、ジキガ キタラ ソレガ シラサレル ト ダケ ヘンジ ガ アリマシタ」

「ふーん、そうなのか?」

 時期が来たら?

 いったい、何の時期だろう?


 ある時オルガに、地下の最深部にある所についての話があった。

 その施設は、島の施設とっての重大なモノがしまわれてあるから、決して近づかないようにと施設のコンピューターからも指示があった場所だった。


「ここは、いったい何だい?」

「ハイ、コレカラ ゴアンナイ イタシマス」

 オルガは、扉のセンサーに手を触れ、ドアを開けた。

 そのドアのセンサーは、僕は持っていなかったので、気になってはいたものの開けて中を見ることは出来なかった。


 中に入ると、冬眠カプセルが一台設置してあった。


「オルガ、もしかして、僕をここに入れて、冬眠させようと? そんなに危険な状況なのか?」

 毎日見回って点検をしてきたが、海は嵐の時以外は静かで、海の生物にも悪い影響はなかったはずなのに。


「イイエ、コレヲ ゴラン クダサイ」

 オルガは、カプセルの上部のカバーを開けた。


「あ、これは、オルガ? どういうことだ?」

 僕は、アンドロイドのオルガと冬眠カプセルの中の女性と見比べ、そっくりなことに驚いていた。


 オルガは、また、物思いにふけるような感じで、一点を見つめ、そして話し始めた。


「ジツ ハ、 ワタシハ、 コノ ジョセイ ノ イシ ヲ コピー シタ アンドロイド デス」

「え?」

 僕は、驚いた。

 オルガは、この女性に似せて作られたアンドロイドだったというのか?

「それは、どういう事なんだ?」


「ハイ、 アナタ ノ チチウエ ト ハハウエ ガ、アナタ ヲ トウミン サセルト ドウジ ニ、イッショ ニ イタ アシスタント ノ ジョセイ モ トウミン サセマシタ。 ソシテ、 ワタシハ、 二人の安全を守る事と、あなたを先に目覚めさせ、成人に育てるよう指示をされておりました」

 オルガの口調が、途中から変わった。

「私は、あなたが成人する頃に、私のモデルになった本当のオルガを目覚めさせ、役割を終えるように指示されております」


 僕は、絶句した。


「それは、どういう?」

「時間がありませんでした。カプセルは2台。あなただけをカプセルに入れ、アンドロイドを残しても、やがて孤独に死んでしまう。あなたの父上と母上様は、悩みぬいた末、助手であったオルガに、あなたの未来を託したいとお願いしたのです」

「そ、そうなのか」

「そして、冬眠の解凍時間を20年程度ずらして、目覚めさせることになったのです」

「……」

「解除プログラムの実行は順調に行われています。やがて、この女性・オルガが目を覚まします。そこで私の役割は終わりとなります」

「ちょっと待って、役割が終わるって、まさか?」


「はい。オルガ本人が目覚めると同時に、私の機能は停止します」

「そ、そんな」

 僕は動転した。


 アンドロイドのオルガが停止。

 それはアンドロイドとしての死になるのではないのか?

 

「それは、嫌だ、拒否したい」

「できません」

「何故だ?」

「私は、あなたがオルガという女性を好きになるように、同じ容姿で作られました。人間のオルガが目を覚まし、同じ容姿をしたのが二人も入れば、あなたは混乱します。だから、停止は回避できません」

 アンドロイドのオルガは、表情一つ変えずに答えた。

「い、嫌だ!」

 僕は泣き崩れた。

 オルガという女性が目覚めるのは嬉しい。

 この島で暮らす人が増えるという事だから。

 しかし、僕を育て、守ってきてくれたアンドロイドのオルガが死んでしまうなんて。


「どうか、諦めてください。人が、強い決意を持って生きていくように、私も定められたプログラムに従って生きております。ですので、その定めに従わないのは、わたしには許しがたいことなのです」


 僕は、涙を流しながら、アンドロイドのオルガの話を聞いていた。


「どうか、泣かないでください。人間のような感情は持ち合わせていませんが、あなたと暮らしてきた思い出は、全てデーターとして取ってあります。時々点検し、不備がないか、良く見返しておりました。その結果、私はオリジナルのオルガを目覚めさせ、あたに引き合わせると決断したのです。どうか私の判断を疑わないでください」


 もう、この流れは止められないという事か?


「私が停止した後、他のサポートロボットが起動する手はずなっています。島の設備の点検の危険な所は、彼らが行います。安心してください」


 アンドロイドのオルガは、そう言うと僕をこの部屋から退室させて一人残った。


 僕は、ドアの外で座り込み、頭を抱えるしかなかった。


(どうして、どうして、そんなプログラムを組み込んだ? 酷いじゃないか?)



三日ほど過ぎた後、冬眠層装置のドアが開くブザーの音が、僕の居る指令室に届いた。


 僕は、地下の施設に向かい、ドアの前に立った。


 ドアはもう、僕の生体データーで開くようになっていた。


 そして僕は意を決し、そのドアを開いた。


 そこには、オルガという女性がいた。

 そのオルガは、少し怯えているようだった。


「あ、あなたは誰? ここは? 島の施設ですか?」


「ぼ、僕は……」


 そうか、今度は僕が、オルガを守って生きていく側になっていたんだ。

 




 

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