世紀末の暗殺者と

 世界が終わる最後の日、その男はやってきた。


「お前だな。ようやく見つけた。これから死んでもらう。悪く思うな」

 私は、一瞬頭が混乱した。


(ちょっと待って、今日って世紀末よね? 地球最後の日よね? この人、何言ってるの?)


 その暗殺者は、ゆっくりと刃物をチラつかせてこちらにやってくる。


「ちょ、ちょっと待ってもらえる?」

「何だ? 命乞いなら聞かないぞ」

「いや、あなた、今日何の日か知ってる?」


 その暗殺者は、咥えた煙草に火を付けながらこう言った。


「ああ、お前の誕生日だ。そして、お前の命日になる」

(ん?)

「あ、あの、誕生日だって知っててもらえるのは、ちょっと嬉しいけど。そうじゃなくて……」

「手荒なことはしたくない、大人しくしろ」

「だ、だから」

「もういい、喋るな」

 そう言うと、暗殺者は私の手を摑まえて壁に押し付け固定した。


(地球最後の日に、こんな壁ドンされるとは思ってなかったな)


「あのー、本当に、知らないのね?」

 暗殺者は、咥えた煙草をポイっと吐き捨てて、吸い殻を足で踏みつぶしながら答えた。

「さっきから何の話をしている?」


「やっと聞く耳持ってくれたのね?」

「ん? で、何だ?」


「今日で、地球最後の日なんだけど。知らなかった?」

「は?」

「だから、今日地球最後の日、世紀末なんだってば!」

「ははは、何を言っている。生き延びたいからって、下手な嘘はいけないな」


「はぁ~」

 私は、深くため息をついた。

「何だ、そのため息は? 気に入らんな」

「そこの雑誌とか、新聞見て見なさいよ」

 暗殺者は、私の手を抑えながら、その雑誌類の表紙を見た。


「な?」

 暗殺者は、絶句していた。


「あのー。状況、理解していただけら、手を放してもらえます?」

「あ、わ、悪い」

 ようやく暗殺者は、私を解放してくれた。


「で、続きはどうします? 私、殺します?」

「うう。えっと」

「もしかして、地下に潜っていて、知らなかったんですか?」

「そうだ」

「何年ぐらい?」

「5年ぐらいになるな」

「5年も私を追っていたの?」

「いや、他の依頼もこなしていた。夜しか活動してなかったから世間のニュースには関心が無かった。こんな稼業だからな」

「で、最後のターゲットが私で、世紀末の地球最後の日に来たのね?」

「そういう事だな。……。まったく、間抜けな奴だな」

「あと数時間も立てば、何もしなくても依頼は達成しますよね。だったら、それまでお茶でも飲んでゆっくりしていきますか?」

「いいのか? こんな、間抜けな暗殺者の俺で」

「まあ、何かの縁ですし。数か月前に会っていたら、即座に殺されていたんでしょうけど、もういいわ」

「寛容だな」

「こんな状況だったら、どうとでもなれって誰でも思いますから」

「そうか。では、頂こう」


 そうして私は、自分を殺しに来た暗殺者と、地球の最後を迎えることにした。



 あ、しまった。




 ケーキ買っておけばよかったわ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る