冬の魔物

 春・夏・秋・冬

 

 それぞれの季節毎に魔物がいる。

 

 私の嫌いな季節の冬の魔物と言えば、あいつだ。

 

 一度入ると抜け出せない。

 

 もちろん、周りは極寒の空間。

 

 ファンヒーターやエアコン、ストーブなら、自由に動き回れるというのに。

 

 あいつときたら。

 

 しかも、日本にしかない魔物というのが厄介だ。

 

 外国人の友達に話しても、

 

「Ha、Ha、Ha! ソンナモノ、 イルワケナイヨネ」

 

 と鼻で笑われてしまう。

 

 いや、いるんだよ。

 

 あの赤く溶岩の様な口をパックリと開けて、寒さに震える庶民ばかりを餌食にする奴が。

 

 お金持ちは、大丈夫なのかって?

 

 床暖、二重サッシ、オイルヒータ、暖炉、だるまストーブ。

 

 財力にものを言わせて、温め放題だから誘惑に負けないんだよ。

 

「うー、寒っいぃ!」

 

 外から足早に帰って来た時、あいつは待っている。

 

 最初は、シレっとしたすまし顔で。

 

 けど、その大人しそうな口を開いたら、もう終わり。

 

 後は、その口に飲み込まれて、酷い時には首まで飲み込まれる。

 

「はぁ~、極楽だわぁ」

 彼女かバイト先から帰ってくるなり飲み込まれた。

 しかも、自分から。

 

「おや、帰って来たのか?」

「ねぇ! そこのミカン取ってよ」

「え、自分で取れよ」

「……」

 

 彼女が、その魔物の口から顔だけ出して懇願するように見てくる。

 

「しょ、しょうがないなぁー」

「ニヒヒ、ありがと!」

 

 渾身の笑顔で喜ぶ彼女さん。

 

 どうやら僕は、魔物と結託した彼女に使役される運命の様だ。

 

 

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