第4話

『ネット上で告白する人も多いですが、ラブレターはやっぱり手書きがおすすめです。手書きで書くとやはり人の想いが出ますからね。丁寧に書いたらより、この人は私のことを思ってくれているんだなぁって気づいてくれますから。手書きって本当にすごいんですよね』

 さすがは会長、良いことを言われる。

『それと、ラッピングですね。相手が好むようなラッピングをしてあげることがとても大事になります。あと、プレゼントを同封するのもいいですね。相手が喜ぶプレゼントを贈りましょう。その場合は、包装もしっかりと。さぁて』

 ここで、会長は一呼吸置いた。

『先生、ちょっとお時間ございますでしょうか』

「……は?」

「あ、ありますあります。どう致しましょう? 十五分ほど残っていますが……」

 慌てていた私の代わりに、竹山がスムーズに答えた。

『そうですか。じゃあ、この前まで告白の実演してたそうですけど、ここで告白の返し方とフラれた場合、OKされた場合の精神ケアを解説します』

 おぉっ、と感嘆の声が上がった。


『じゃ、もう時間ですね。じゃあ、話しはこれくらいで終わりにしましょうか……あ、ところで、新藤先生は竹山先生から告白されたらどうします? OKしますか?』

「は」

 一気に落ち着いていた心臓がざわめき始める。

 そして、周りもどよめき、オッケーコールが舞い始めた。

「ちょ、止めてくださいよー。そんなの僕が二次被害食らってるじゃないですかー。新藤先生も迷ってますしね、第一返事なんて多分知れてますよ」

『そうですかね。新藤先生、からかってすみません。ただ、もしそんなことがあったらしっかり自分の気持ちと都合と相談して決めてくださいね。けど、竹山先生は良い人ですよぉ?』

「あ、え……」

 キーンコーンカーンコーン

 私が何も返せぬまま、終了のチャイムが鳴った。




 土曜日を挟み、日曜日がやってきた。

 普段なら、のんびりと愛猫を撫でる日なのだが今日はそうはいかない。

「おはようございます」

「おはようございます」

「あ、校長先生、竹山先生。お二人揃ってこられたんですか」

「そうなんですよ。ちょっと色々話しててね」

「待たせましたか?」

「いや、三十分くらいしか待ってませんよ。大丈夫です」

「あ、はいはい。よかったぁ……え?」

 竹山は急に低い声になった。

「三十分も待ったんですか?」

「あ、はい」

「しかじゃないでしょ、しかじゃ」

「あ、いや友達と待ち合わせするときは大体一時間以上待ってるんで……」

 友達すげぇな、と竹山が呟く。

 ――あ、三十分くらいって短い時間じゃないの?




「ここ、良いですね。すごい良い雰囲気です。気に入りました」

 のんびりとしたクラシックが流れる店内で、私はカフェオレをすすった。

「僕もです。ここのコーヒー美味しいですし、店の雰囲気がいいですよね」

 と、校長がバタバタと帰ってきた。

「許可、取れましたよ!」

「あ、良かったぁ」

 私は胸を撫で下ろした。

「これは生徒たちも気に入りますよね。恋愛実習で遠足って今年が初ですけど、これは良いと思いますよ。さすが竹山さん」

「いやいや、そんな」

 竹山が照れながら言う。

 やっぱり、褒めることは大事だ。

 ――いや、別に下心とか何もないけど?

「……じゃ、次は山ですね。あの遊園地、とよやま園の裏の……なんて言いましたっけ」

 校長が地図を見ながら言う。

衣笠山きぬがささんです」

「あ、そうそう。よく知ってますね」

「山歩きが趣味なんですよ」

「へぇ」

「カッコいいですね」

「いや、ありがとうございます」

 またまた竹山は顔を赤くした。

「あ、そうそう。ちょうどこれから仕事があるんですよ。すみませんが、ここで……」

「え?!」

「急じゃないですか」

「すみません。ちょっと……」

 頼むから勘弁してくれ、と頭頂部の髪がない部分を見せられる。

「は、はぁ。分かりました」

 呆れつつも、承諾する。校長なのだから仕方がない。

「そうですか! じゃ、竹山先生、新藤先生と山登ってきてください」

「は、はい……」

「分かりました!」

 竹山だけが意気よく答えた。




「ふぅ、ふぅ」

「大丈夫ですか?」

「あ、何とか大丈夫です……結構険しいですね」

「そうですね……でも、楽しいでしょ? こんな感じで小鳥のさえずりとか聞こえて」

「ですね」

「また誘っていいですか? 山歩き」

「え?」

 あまりにもさらりと竹山は言ってのけるので、私は絶句してしまった。

「……ダメですか?」

 すねたような顔で竹山が言う。

「いや、全然お願いします」

「そうですか。それは良かった」

 再び雲が引いて、木漏れ日が差し込んできた。

「もうじき頂上です」

「そうなんですか。ちょっとでも木が少なくなってきましたね。岩場になってる」

「でしょ?」

 岸壁が立ちふさがる。竹山と私は鎖を持って岩壁を登っていく。

「ひゃっ!」

 と、体が一瞬宙に浮いた。

「危ない!」

 ガシッ

 竹山は身を乗り出して私の手のひらを握った。

「良かった、危なかった」

「あ、ありがとうございます……」

「下向いちゃダメですよ。これから少ない筋肉全部動員して引き上げますんで」

「この状況じゃ笑えませんよ?」

「そうですね。ハハ」

 乾いた笑いを漏らしながら、竹山はグイッと私を引き上げてくれた。

「……あ、もう頂上じゃないですか!」

 一つの小さな岩を登ると、そこにはまるでジオラマのような街並みが三百六十度見渡せる山頂があった。

「きれい……」

 と、ばったり私はハート型の岩のオブジェを見つけた。

『記念撮影スポット! ハートの向こうには遊園地が見えるよ!』

 遊園地からは少しだが、チャンチャラランランと楽しい音が聞こえてくる。

 ――ちょっとぐらい、いいかな?

「竹山先生、あの、こ、ここでちょっと写真撮ってみませんか……?」

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