〜冒険者ギルドの依頼〜
第32話 Aランク試験
”偉大な魂は目的を持ち、そうでない者は願望を持つ”
Great minds have purposes, others have wishes. ――ワシントン・アーヴィング
受付嬢が呼びに行き、奥から出てきたのはとんでもない筋肉ダルマだった。
赤銅の短髪に立派な
――この明朗
「マーティスに聞いたぞ!お前らがそのキングキメラを倒したとやらの冒険者か」
190㎝はあるだろうその体格にハルトは驚嘆の息を漏らした。
ミーシャは見上げすぎて首を痛くしそうである。
「は、はい、一応…」
「――Aランクの試験ついでに、
その巨木のような腕を組み、片目を開けてフレデリックは提案をした。
Eランク、Dランクなどを飛び級してのAランクだ。それに足るものかという試験があるのは当然だろう。
しかし元冒険者であり、ギルド長でもある彼の実力は見当がつかない。
「一見すればそちらのご婦人が一番手強そうに見えるのだが、儂は貴殿のまるで隠しきれてないような魔力が気になるのだ」
ハルトは”隠しきれてない”というワードにビクッと反応した。
「魔力操作」によって、完璧に素人を装えてると自負していたのに、だ。
「いえいえ、まさかそんな事はありませんよ。ぜひこの子と戦ってあげてください」
しかしハルトは速攻でリリに出番を譲ってあげた。
その顔はさながら営業スマイルのようだった。
リリはハルトに丸投げされ、自分が戦うという思いもよらぬ状況に汗を吹き出し、こっそりとハルトに耳打ちをした。
「――っ!ぬ、主様、わっちの力では勝てるか分からないでありんす!」
「……わかったよ」
リリでも勝てるか分からない程の実力者とあれば仕方が無い。
ハルトはフレデリックと戦うリリをのんびり見学する気満々であったのだが。
Aランクの冒険者カードはハルトとしても欲しいので、ギリギリで勝つようにしよう。
――ハルト達はギルドの保有する試験場に移動した。
直径で50mほどの円形のフィールドで、周りには観客を保護する結界が張られている。
ハルトは結界を潜ってフィールドに立ち、フレデリックの実力を見定めるために「ステータス鑑定」を使用した。
手加減してたら一発でボコられました、なんてなったらとてもダサい。
―――――――――――――――
〈 ジェラール・フレデリック Lv247〉
EXP:5236/56731
【年齢】58
【種族】人間
【職業】拳闘家
HP:8230/8230
MP:250/250
攻撃力:1220
防御力:940
魔法力:180
幸運:60
速度:450
【スキル】
「身体強化Lv10」
「魔力増強Lv5」
「体力再生Lv8」
「防護殻Lv8」
「格闘技Lv10」
「真・限界突破Lv2」
「衝撃波Lv10」
「縮地Lv7」
―――――――――――――――
確かにリリは魔法主体で戦うスタイルなため、格闘家と戦うには分が悪い。
「――どうだ、強いか?儂は」
「ええ、僕が勝てるかどうか」
「ステータス鑑定」を受けたことに気づいたフレデリックは不敵な笑みを浮かべた。
この人には全てを見透かされているように感じて恐ろしい。
あまり手加減してはいけない相手だ、とハルトは強く感じた。
このギルドの職員であろう審判が腕を振り下ろし、開始の合図をした。
――直後、ロードローラのような巨体が音を置き去りにしてハルトへ飛び掛かる…と思いきやお互いに動いてはいない。
フレデリックは腕を
ハルトも完全に受け身の姿勢であったためだ。
「…どうした、かかって来ないのか?」
ハルトはフレデリックを正面に見据え腕を構えた。
かかってこい、という合図だ。
「そうか……では行くぞ!くたばるなよ!」
フレデリックは「縮地」でハルトの背後に回り、思い拳を振りかざした。
しかしハルトは相手も「縮地」持ちであることを知っていたため、腕を交差して冷静に受け止めた。
その後直ぐにミドルキックが飛んできた。その速度は一般人では恐らく見えない。
ハルトは左足を上げて脛に「防護殻」をコーティングする。その足の振りと衝撃で二人の髪が揺らぐほどの衝撃波が放たれる。
〉「格闘技」スキルを得た。
ハルトはバックステップで距離を取り、得たスキルにポイントを振った。
ここでイーリスをフレデリックにぶっ放せばすぐに決着はつくのだろうが、それだとフレデリックの命の保証ができない。
それとなく一発食らったフリをしてからのカウンターで倒せばいいだろう。
「受けているだけじゃ儂は倒せないぞ?」
凄まじい速さのワンツーパンチを繰り返されるがハルトは防戦一方だ。
ハルトは織り交ぜられた腹部へのキックは
「創造」で作り出した縦横5mほどの石壁に着地し、その反作用を利用してフレデリックに飛びつく。ハルトの脚力によってその壁は
その脚力であれば自力で「縮地」が出来そうである。
ハルトはフレデリックとのすれ違いざまに、恐らく彼でも視認できないであろう速度で腹パンを入れた。
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