第31話 冒険者ギルド


――ハルト達は商会の応接室に通された。

廊下を歩いていても、やはり受付嬢たちの視線をチラチラと感じる。


「ああ、そこに掛けてくれ」


「では、失礼します」


革ででき、金の糸が所々に刺繍ししゅうされた豪勢ごうせいなソファーを指され、ハルト達は座った。

そしてヴァシルは手を組み、咳払いをした。


「ゴホン、――まずは君たちが無事で良かった」


「ええ、今までの魔物に比べれば強力でしたが、問題ありませんでした」


リリ…は別として、今までに出会したスライムやオークなどと比べるとあのキングキメラは相当強かった。

グリフォンもミーシャが瞬殺しゅんさつしてしまったしな。つまり彼女はAランク冒険者相当になるのか。


討伐とうばつは三人でしたのか…?」


ハルトが肯定こうていするとこれまたやはり驚いていた。

冒険者ギルドの掲示板に依頼を張り付けても、誰も受けられなかったくらいにはキングキメラは強い相手らしい。


その魔物と戦ったときの話などをして、少しだけ会話が盛り上がった。

その会話を通して、ヴァシルさんと少しだけ仲良くなれたような気がした。


…しかし神に殺されかけた話だけはしなかった。


ハルトは話を切り替え、一番聞きたかったことをヴァシルに聞いた。


「――俺達はこの子を故郷に送ってあげようとしているんですか、猫耳族という集落を知りませんか?」


ヴァシルはちらっとミーシャを見た後、あごに手をえ思い出そうとするがやはり分からなかったそうだ。

しかしその代わりにと、とある人物を紹介してくれた。


「……すまない、俺は聞いたことがないな…、だがジェラール・フレデリックという人を訪ねると何か分かるかもしれない」


ジェラールさんというのは冒険者ギルドのギルド長であり、元冒険者でもあるのでそのような事柄ことがらに関しては博識であるという。


「わかりました、カード発行の時にたずねてみようと思います」


「――っとそういえば、冒険者カードを発行する話だったな」


ヴァシルさんはジェラールさんと仲が良いらしく、ある程度の融通が利くそうなのだ。いきなりAランクになれるのはとても有難ありがたいことである。


「たった三人で討伐ってなるとSランクはくだらないんだが、さすがにいきなりSというのは無理だ」


Sランクというのは世界に15人しかいない冒険者だ。

一つのクエストを達成したからといって、すぐになれる代物ではないだろう。


「何もそこまでは望んでいません、よろしくお願いします」


「ああ、これからも何かあったら俺に頼ってくれ!」


ヴァシルは自分の胸をドンッと叩いてほがらかに笑った。頼もしい人だ。

ハルトはまた困っていたら、この人の力になろうと考えた。


――ハルト達は商会を後にして、ヴァシルに紹介された人物がいる冒険者ギルドへと向かった。

商会から徒歩で5分ほどの近場にあるので、馬車はそのまま置いていくことにした。


「リリとミーシャは冒険者ギルドって行ったことあるか?」


ハルトは横に並んで歩いている二人に聞いた。

リリは騒々そうぞうしくも楽しげである屋台や人々を眺めながら闊歩かっぽしていた。

行き交う男たちはその浴衣からちらりと覗く谷間に視線を釘付けにされ、愛人に殴られるのは必然だろう。


「――ええ、わっちは人族にまぎれて一度だけありんす」


ミーシャは一見冷静に見えるが、やはりその表情はどこか楽しそうだ。


「私はずっと村で暮らしていたので、初めてです」


商会ほどでは無いが、ハルト達は大きい扉を開け冒険者ギルドへ入った。

その中は予想していた通り、少し男臭く冒険者たちでガヤガヤとしていた。

三人が中を歩くと冒険者たちの新入りをにらむ目線を感じる。


リリは全くひるんだ様子はないが、ミーシャは視線におびえハルトの服の端を握っていた。

ハルトも元陰キャなので内心震え上がっていたが、くっせずに堂々と歩いた。


その冒険者の中にはツルツル頭で眼帯をし、肩にスパイクのついた装備をしたまさに世紀末のような冒険者がチラホラといた。


――ハルトは受付の女性にヴァシルから発行してもらった書類を渡した。

渡された書類に目を通した受付嬢はその内容に息をんだ。


「はーい!えーと……え、Aランク…!?――只今ギルド長を呼んできます!」


受付嬢は元々置いてあった紙を散らしながら、せわしなく廊下をけていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る