第22話 リリの過去

「──それに、リリは俺達とエンカウントする前、どこに居たんだ?」


「…エンカウントとか言うんじゃないでありんす。確かにわっちは魔物の部類でありんすが」


リリがじとーっとした目でハルトを見る。

「ステータス鑑定」で見た時のリリの職業は確か液魔の女王スライム・クイーンであったので、大体の身なりは分かる。


「──わっちはスライムの女王でありんした」


「…だった?」


そしてリリは己の境遇について語り出した。

その目は些か朧げであった。


「うむ、我らスライムには寿命が無いでありんす。体が大人びれば若返り、また大人になれば若返る」


──確か前にいた世界に、同じような生態を持つクラゲがいたはずだ。不老不死と言われていたその仕組みはスライムと同じである。


「わっちが200歳になった頃でありんした、進化をしたのは」


「女王にか?」


「うむ、わっちをスライムの長として、同胞と森でのんびりと暮らしていたでありんす」


某RPGなどでは3匹でかかってきたりするが、スライムが集団で生活をするのは初耳だ。


「──しかし、ついこの前の事でありんす。商人へのスライムの危害が問題視され、冒険者による“スライム狩り”が始まったでありんした」


「…それでリリの同胞は狩り尽くされたと」


「あれだけ人間の食糧には手を出すな、と忠告はしたでありんしたがねぇ…」


スライムは恐らく、この世界で最弱モンスターだ。

市民には倒せなくともEランク冒険者なら容易いだろう。

つまりあっという間に殲滅されてしまったのだ。


「わっちの境遇はこんなものでありんす」


ミーシャは同胞が皆殺しにされた、という壮絶なリリの身の上に絶句していた。


「……リリ、耳触りますか?」


リリを思って気を遣うミーシャであった。


──さらに2時間ほど馬車を転がし、ようやくメリアルガ公国の外壁が見えてきた。


「──30年も経つと様子が全然違うでありんす」


ハルトの後ろからリリが顔を覗かせる。

日差しを遮るように額の上に手を当てている。


「30年前はどんな様子だったんだ?」


「もっと物騒な雰囲気でありんした…わっちもあの時刺されかけたでありんす」


そう言いながら体を震わせるリリ。


「お前、何したんだよ…」


「ちょっと兵士にちょっかいかけただけでありんす」


本当にこいつは何をしているのだろうか。

物騒な時代の兵士にちょっかいをかけるなんて、どんだけ肝据わってるんだよ…

ハルトは完全に呆れていた。


ハルト達は門前に着き、荷車などの検問を受けた。


「…どこから何しに来た?」


「──グローリア王国から商会への手紙を届けに」


「…荷物に変なのは無いな?よし、行け」


銀色の甲冑を身につけている男は荷車の中をチラッと覗き、入国許可を出した。


そして門を潜り、ハルト達の目に飛び込んだのはとても賑やかな街並みだった。

売店が並んでいる訳でも無いのに人通りが多く、子供が走り回って遊んでいる。

レンガ造りの建物がとても映えている。


「──すごい、綺麗な街…」


ミーシャが無意識に呟く、その目は輝いている。


「──ああ…栄えてるな」


リリはあまり興味が無さげに中で座っていた。

やはり長年生きていると物事の感じ方が違うのだろう。


「とりあえず、俺たちは“ヴァシル商会”に用があるからその建物を探そう」


しばらく馬車を進めると、件の建物は直ぐに見つかった。なぜなら周りの店などに比べ一際大きく、目立つ看板があったからだ。分かり易くてとても助かる。


ハルト達は馬車を降り、豪勢な両手扉を開き中に入った。

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